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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ2車窓編】
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下ごしらえ35【車窓編】望んでいた終わりかた

時間は遡り、とある人物は己の罪状を認め。

自らの過去を語りだす。

レオナ達を乗せた山岳鉄道がトランシープを発車するより二時間前。


トラウロンボ、聖騎士団の駐在所。


その奥にある密室で聖騎士団の者達が朝早く捕えた罪人の尋問を行なっていた。


若い女性であり、ドラゴンの卵の密輸の共犯者だ。


「トラレータさん、あなたはまだ犯行を認めないのですか」


「ええ、証拠もないですもの」


密室には甲冑姿の聖騎士団員が二人。


一人は共犯者であるトラレータへ尋問している者。


もう一人は密室の扉の前に佇む者。


「MAILに引き渡してもいいんですよ」


「そこで無理矢理吐かせようってのか、聖騎士団は手を汚したくないみたいだな」


「そこまで言われるのでしたら、しょうがない。彼を連れてきてくれないか」


尋問役の指示に従い、扉の前にいた団員は部屋から出ていった。


数分後、退出した団員は一人の青年を連れて部屋にもどってきた。


「彼はスグノリさん。あなたが働いていた製菓工場の従業員です」


「なっ」


「スグノリさん、あなたが二週間ほど前に体験した出来事をお話しください」


「はい」


尋問役からの言葉にスグノリは自身の体験を語りだし始めた。


「私が工場の後片付けをしている際に機材の不自然な配置を見つけました」


「ちょっと、待て」


「トラレータさん、お静かに。スグノリさんお話の続きを」


「はい。機材と言ってももう使われなくなった旧式のものなので最初は気に留めていませんでした」


聖騎士団の魔力吸収の手枷によりトラレータは魔法も使えず、身体能力も半減している。


スグノリは聖騎士団や彼女に施されている手枷に目をやり、自身の安全を確認しつつ更に語り続ける。


「私以外の者も交代制で後片付けをするのでなにもないだろうと思っていました」


「ほうほう」


「それこそ当時入ったばかりのトラレータさんが積極的に後片付けをしていましたし」


スグノリの証言に尋問役の団員は頷く一方でトラレータはバツの悪そうな顔で俯いていた。


「私が片付け当番の日、誤ってハンドブラシをその機材の下の隙間に落としてしまったんです」


「おい、それ以上はーー」


「静かにしてもらえませんか。お話の途中です」


尋問役の騎士団員は手を前にかざし、トラレータの手枷の魔力吸収を強めた。


「っがぁーー」


急速な魔力吸収は心身への負担も大きく、それにより彼女の言動も抑え込まれた。


この処置にはスグノリも息を呑み、しばらく黙ってしまったものの。


尋問役が彼に話の続きを促す。


「手荒な光景をお見せしてしまい申し訳ございません。お話の続きをいいですか」


「はい」


しばし沈黙を挟んだもののスグノリは話を再開した。


「ハンドブラシを取ろうとして機材の下に手を伸ばすとそこは空洞になっていたんです」


呼吸を整えトラレータを一瞥するとスグノリは当時を振り返った。


「機材の中身は空だったので子供でも動かせる重さであり、自分はそれを横にズラして動かしました」


「そして、機材を動かした先に何がありましたか」


「ただの床が目に飛び込んできましたがハンドブラシがなく、もしやと思い手を伸ばすと床と認識していたものは映像魔法による偽装であり、手を伸ばした先は縦長の、人が一人分入れるほどの穴となっていました」


「つまり、映像魔法で隠し通路がカムフラージュされていたのですね」


「はい。崖を下るように足先から空洞に入っていくと三メートルほどの深さの穴が掘られていました」


「なるほど」


「そうして穴の底にはハンドブラシがあり、それを取ると洞窟のように更に奥に穴が続いていて先には扉があったのです」


「そこでトラレータさんとその仲間の男を見たというのですね」


「はい、扉は開かれていて会話している二人と大量の靄のかかった卵を見かけました」


「ドラゴンの卵ですね」


「その通りです。気になった私は二人に気づかれない距離まで近づき断片的に会話を聞き取りました」


「聞き取れたご内容をお話しください」


「断片的ですが、ドラゴンの卵、密輸、トラウトロンボで受け渡し、日付、車内販売を利用の五つです」


「ありがとうございます」


スグノリは証言すると今度は身を震わせながらその後の状況を聖騎士団へと告げた。


「犯罪の匂いを感じた私は、来た道を引き返す際に縦穴を登る時に物音を立てました」


「そして、身の危険を覚えたあなたは会社には何も告げず聖騎士団の詰所まで駆け込んだのですね」


「はい、おっしゃる通りです」


ようやく全てを語り終えたスグノリへ。


扉の前に佇んでいた団員が密室の隅に置いてある冷蔵庫から水の入った瓶を一つ手に取った。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


緊張していたのかスグノリは水を飲んだ後に大きく息を吐いた。


「さて、トラレータさん。ここで喋った方が色々と楽ですよ」


「クソっ」


追い詰められ体の自由もほとんど奪われたトラレータはついに観念し。


自分達の計画を聖騎士団達へ吐露し始めた。


「チョコにしか見えない魔法液で卵をコーティングして、偽装した状態で菓子箱に紛れ込ませるんだよ」


「なるほど、受け渡しの手段は?」


「ウチが車内販売員に変装してそれらを渡すのさ」


「地下の金庫に保管していたのになぜそんな回りくどいやり方を選んだんだ」


「金庫を作るのはウチの魔法だけど、作るだけで移動させるのは無理なんだよ」


「では、どうやって卵を紙箱に詰めようとしていたのですか」


「相方が催眠魔法を使えるから、後片付け担当じゃない従業員に魔法をかける予定だったんだよ」


「それで、役目が終わったら魔法を解除する、と」


「ああ、そうだよ。ただ、こいつに見つかったせいで台無しになったけどな」


トラレータはキっとスグノリを睨んだ。


「逃げるのが最優先で、ウチが急いで一箱分だけ卵を詰めてそのまま金庫を会社の地下に放置したんだよ」


「やり取りも見られた以上、聖騎士団が来るのも時間の問題だと考えたんだな」


「そこまでお見通しかよ、そうさ。もったいないけどあそこに戻るのはリスクが高いからな」


「ただ、カルマワームを残したのはなぜだ」


「証拠隠滅だよ。もしも、聖騎士団が現場に来た際にそいつに金庫の中身ごとぶっ潰させる予定だったんだよ」


「つくづく、無責任な者どもだな」


「へっ、言っていろ」


「最後にあなたは共犯者とどこで知り合った」


「七年前、親に捨てられたウチをブンドールが拾って育てくれたんだよ」


「ほう」


「オープンスクール卒業後に働いていたウチは客の無茶な接客を拒絶したせいで職場をクビにされたんだ」


それまで悪態をつくだけついていたトラレータは泣きながら過去を明かし始めた。


「それが原因で親から家を追い出されて、行くあてもないウチをブンドールが拾ってくれたんだ」


「辛かったな、それは」


「知った風な口を聞くな」


ただでさえ魔力を吸われている身でありながらトラレータは己の心境を叫んだ。


決して分かり合えないであろう相手に彼女は涙まじりに過去を告げていく。


「これと似たような悪事を何回もやっていたけど、今回の件が最後だとブンドールは言っていた」


疲れ切った様子でトラレータは必死に言葉を紡ぎ出す。


「これが終われば真っ当に生き直すって決めていたんだよ」


そう言い切ると上半身を机の上に乗せてトラレータは気を失ってしまった。


「これ以上情報を聞き出すのも無理だな」


尋問役はもう一人の団員に毛布を持ってくるように指示するとトラレータを椅子に座り直させて彼女に毛布をかけてあげた。


「かわいそうとは思うがこちらも仕事なんでね」


切なくそう呟いた尋問役の団員は聖騎士団用のPMAGを取り出してバレルズへと連絡する。


『聴取は済みました』


『ご苦労、その情報を元にして作戦を立てる』


主犯であろうブンドールについての情報はまだ充分に引き出せてはいないものの。


作戦を決行するまでの時間もあまりない。


この場にいる聖騎士団の二人はトラレータの過去に同情はするものの。


己の正義に従うのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回はスグノリさんについて軽く触れておきます。

彼は作中にあるように急いでイクラジオの聖騎士団の詰め所に駆け込んだあと。

すぐにイクラジオ町内にいる家族と共にトラウトロンボまで騎士団により護送され。

レオナが列車に乗る十日前にバレルズに聖騎士団経由で会うことができました。

それにより、バレルズは今回の作戦を立案し。

実行される二日前にグラシャのマギスケイルを回収するようバロットに頼みました。

では、長くなりましたが。

次回の更新も明日で、7/5の17:00になります。

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