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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ2車窓編】
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下ごしらえ34【車窓編】死角からの舌

ブンドールにより占拠された車内で。

乗客の不安は増すばかりだった。

そんな中でグラシャはマイペースだった。

「おっと他の車両に助けを呼ぶのもなしだ」


乗客の一人が立ちあがろうとした際にブンドールは叫んだ。


立ちあがろうとした乗客の男は弱々しく応じた。


「ちょっとトイレまで」


「ダメだ。我慢しろ」


高圧的なブンドールの要求に対し立ち上がった男は席に座り直した。


それを確認するとブンドールは更に言葉を続ける。


「どうせカメラでこの状況を見ているんだろう、車掌さんに聖騎士団の奴らよお」


天井を見上げ大声でブンドールは叫んだ。


車内にはその叫び声が反響して、一部の乗客は更に震えあがった。


「この車両に来たら乗客の命はないぞ」


ブンドールの更なる要求は運転室のモニターにも映し出され。


運転手や車掌、そして彼らの業務用MAG端末を通じ、各車両にいる私服の聖騎士団員らにも伝わっていた。


「いいか。イクラジオでワシが何事もなく降りることを約束しろ」


そう言うやブンドールは自身の杖でゴンっと強く床を叩いた。


「もちろん駅でMAILや聖騎士団が待ち構えているのもナシだ」


ゴンっ。


もう一度強く床を叩きブンドールは己の要求にさらなる条件を加える。


レオナも含めて同車両内の人間を人質にとったブンドールに対し、遂に鉄道員の者達が返事代わりに車内アナウンスをした。


『線路内でトラブルが発生。しかしながら、このまま予定通り運行します』


『トラブルの余波で車体の揺れなども懸念されます』


『そのため申し訳ございませんがご自分の席で着席いただけますか』


『なお、各車輌間の扉も閉鎖しますこともご理解のほどよろしくお願いします』


『ご心配をおかけしましたが、山岳鉄道の旅をお楽しみください』


車内占拠の事件が車輌の一つで発生したとはとても言えず。


アナウンスはダミー情報であり、それを乗客へと鉄道員側は放送した。


しかし、これに犯人であるブンドールは満足した。


「これで邪魔者はここに来ないようだな」


だいぶ余裕が生まれブンドールは機嫌が良くなった。


この車両内にも聖騎士団が紛れているだろうが、それでもこの緊迫した中では動けまいとブンドールは安心していた。


残る不安点はグラシャ。


ブンドールはレオナの様子と共にグラシャの動向を知るため。


自分の対岸の席側を見た。


レオナは催眠にかかったまま窓際で立っている。


グラシャはというと。


カシャっ。


「どれどれ」


鉄仮面の口元を開き、紙箱を開けてチョコボンボンシューを食べようとしていた。


「お前何をしている」


「なにって、あんたの言う通りにしているよ」


「はあ」


「これ食って大人しくしていろって言ったろ」


唖然とするブンドールを他所にグラシャはチョコボンボンシューを一つ食べた。


洞窟ミントの爽やかな風味がチョコシューと混ざり合い。


鼻から口に突き抜ける爽快さとビターなチョコの甘さで食したものにクールな心地よさを与える。


「いいね、バロットにも食わしてやりてえ」


「は、はは。ふざけた野郎だ」


「ん、あんたも食いたいのか」


紙箱から一つチョコシューを取り出すとグラシャはそれをブンドールへとかざした


あまりにも緊張感のないグラシャ、それに対しブンドールは怒号をあげる。


「そんなわけないだろ、食うのをやめろ。不愉快だ」


「まあ、そう言うなって」


瞬間、グラシャの右手の中のチョコシューが微かに紫色に発光し。


一瞬にして菓子の上にかかっているチョコの部分がトカゲの形となった。


「マテリアクティブ」


グラシャの一言の後にチョコで出来たトカゲは口を開けて長い舌を伸ばした。


「意外といけるぜ」


「なっ」


一メートル以上に伸びたチョコの舌は激昂しカッと見開いたブンドールの片目に直撃し。


敵への強烈な奇襲となる。


「ぐわぁぁぁ」


杖を落とし、攻撃を受けた目をブンドールは覆った。


「んむっ、と」


敵に自分の攻撃が炸裂したのを確認するやグラシャは持っていたチョコシューをひょいと口に頬張り。


空いていた左手に魔力を込めた。


紫色のオーラが発光しグラシャの左手は蟹や海老を彷彿とさせる甲殻に覆われた紫の手甲と化した。


「おいおい、車内じゃ静かにするのがマナーだろ」


勢いよくブンドールのもとまで駆け寄ると甲殻の手甲による重い一撃を敵の腹に叩き込んだ。


「っあ」


「とりあえず、イクラジオまで寝てな」


嗚咽を発した数秒後、ブンドールは膝から崩れ落ちて失神し倒れ込んでしまった。


「セコイ手使って、手こずらせやがって」


一度は出来損ねた捕縛を完了するため。


右手に魔力を込めてグラシャは再び魔法でワイヤーを作り出した。


「あら、よっと」


一分もかからずにワイヤーでブンドールの身体を拘束すると今度はレオナの様子をグラシャは確認した。


「……」


洗脳魔法が解けたのか。


音も立てずにレオナは窓際の壁に力なく寄りかかり眠っていた。


「世話のかかる嬢ちゃんだぜ」


拘束したブンドールを床に組み伏せるとグラシャはレオナの身体を持ち上げて彼女の席へときちんと座らせた。


「さてと、あいつに連絡入れねえとな」


仮面の顎下の三回押しグラシャは無線を発進した。


相手はもちろんバレルズだ。


『俺だ。犯人を捕まえたぜ』


『流っ石グラシャ』


車両内のカメラを通じてこれまでの光景は車掌や運転手ら鉄道員達はもちろん。


彼らの持つMAG端末を通じて聖騎士団にも共有されている。


そのため、放送される車内アナウンスも通常のものとなる。


『間も無くイクラジオ。イクラジオ。お忘れ物の無きようご準備をお願いください』


通常のアナウンスを聞いたグラシャと同じ車両にいる乗客達は安心した。


緊張から解放され安堵のため息が多く吐かれる中でレオナは安らぎの寝息を立てていた。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

連日投稿が始まりました。

こちらの後書きが簡素になる日もあるかもしれませんがご容赦ください。

ちなみにマテリアクティブについては。

いずれ魔力の具現化に関して触れる回がごさいまずので。

そちらでお楽しみください。

では次回の更新は7/4の17:00になります。

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