表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ2車窓編】
37/59

下ごしらえ28【車窓編】車内販売

できるだけ場を和ませようとしているのか。

グラシャの気遣いはレオナに空回ってしまう。

彼自身その自覚があるのか。

気晴らしに車内販売のチキンバーガーを食べるのであった。

『トラウトロンボ。トラウトロンボ。お降りの方は足元にお気をつけてください』


何事もなく列車は最初の停車駅であるトラウトロンボに到着した。


多くはサーモニカを目指す者ばかりだかここで降りる者も少なからずいる。


車窓からは鉄道員が二人だけ滞在する小さな駅と。


その奥には雪に覆われた山村が見える。


トランシープの町ばかり見ているレオナには。


物珍しく興味深いもののはずだったが。


隣にいるグラシャのせいで純粋に楽しめていなかった。


「嬢ちゃんは降りないのか」


「ええ、イクラジオで降りるので」


「そうか。じゃあ、まだまだだな」


「えっと、あなたはどちらまで」


「俺もイクラジオまでだ」


「あはは、一緒ですね」


「ああ。一緒だな」


会話は弾まないものの。


グラシャから話しかけられるため。


レオナは無視できなかった。


「そういやトランシープに元々あった駅は使ったことあるかい」


「私の小さい頃になくなっちゃたから利用していないですね」


「途中通って見たかもしんないが、あそこ今じゃ車両基地だしな。」


「そうですよね」


「今のエメラ教皇がトランシープの再開発の際に新しく駅作ったけど、あの駅そのまま使えば良かったのにな」


「まあ、国内の横断鉄道との兼ね合いもあったんじゃないですかね」


「ああ、確かに。昔の山岳鉄道の始発駅は山の方だったもんな」


「町の真ん中の方が山岳鉄道以外の路線を使う人も便利だと、思いますよね」


「だな。嬢ちゃん頭いいな。学校はどこだ」


「ああ、えっと、オープンスクールはもう卒業していて数年前から働いています」


「俺と同じだな。いや、お嬢ちゃんの方が立派だな。偉いな」


「ありがとうございます」


ぎこちない会話で。


ほとんど弾まないものの。


所々でグラシャが自分を気遣う箇所を感じ。


レオナは心を開くまではいかなかったが。


MAILという点を除いても。


会話そのものを無下にしようとは思わなかった。


ただ、緊張と圧迫を感じていたのも確かで。


レオナは少しばかり席を離れたかった。


「どうしたんだ立ち上がって」


「ちょっとお手洗いまで」


「ああ、なら荷物見といてやるから行ってきな」


「ありがとうございます」


ややデリカシーに欠けるもののグラシャの心遣いに感謝してレオナはしばし離席した。


「なんだかな」


レオナとの会話のやりづらさをグラシャが感じていると。


車内販売の台車が前からやって来ているのを目にした。


台車の上には様々なお菓子やサンドイッチなどの軽食が入った箱が並べられていた。


「お一ついかがですが」


販売員の若い女性が乗客に声をかけ商品の購買を誘う。


「チョコレートと牛乳を」


「紅茶鳥のスイートサンドイッチを」


前にいる乗客が注文をしているのを目にし。


自分の席まで販売員が来た際にグラシャは彼女に他の客同様に注文をした。


「傲慢鷄のチキンバーガーとコーヒーを一杯」


「二つで840ゴルになります」


「あいよ」


代金を渡しグラシャは商品を受け取る。


透明なラップに包装されたバーガーと紙コップに注がれた真っ黒なコーヒーは。


特別空腹ではないものの。


グラシャの気を紛らわせるにはちょうど良かった。


カシャッ。


グラシャが顔の唇に当たる仮面の箇所を人差し指で右から左へと横になぞると。


口周りの鉄仮面が左右に開き。


食事のためだけに最小限ではあるが。


仮面騎士団であるMAILの一員の顔が露わになる。


「ん、いけるじゃねえか」


任務や仲間の思惑に振り回されているグラシャにとって。


食事という選択は気分を回復するのに本当に最適だった。


野菜がなく傲慢鷄の肉厚さとマヨネーズソースがかかっているだけのバーガーの味は。


濃厚で噛みごたえもありすぐにグラシャを満足させた。


彼が二口、三口と味わっている内に車内販売をしていた販売員の女性はこの車両を後にし。


少しの間を置いて。


対岸の列の席に座っていた老紳士が席を立った。


食事中だがグラシャはそれを見逃さなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回もグラシャについての解説になります。

彼は聖騎士団時代、自分をスカウトしてくれた隊長と共に魔獣の討伐に向かいます。

しかし、見たこともない魔獣の攻撃になす術もなく隊はグラシャを残して全滅。

グラシャは隊長の計らいで強制的に戦線を離脱させられ助かりますが。

自分の無力さに嘆き。

理解を示す騎士団の面々からの励ましも彼には届かなくなり。

次第に周囲から孤立していきグラシャは聖騎士団を辞めます。

その後強くなるための修行を独自に行っていた頃に。

元同僚でスピード出世していたバレルズも聖騎士団を辞めて。

MAILへと移籍していました。

バレルズはMAILの団長であるアクセルにグラシャを紹介し。

一度はグラシャは誘いを断ったものの。

アクセルと手合わせし恩人である聖騎士団時代の隊長と面影を重ねて。

晴れてグラシャはMAILへと入団しました。

長くなりましたが以上がグラシャの解説です。

なお、グラシャとバレルズのフルネームは本編でいずれ描かれます。

次回の更新は6/4の17:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ