下ごしらえ25【車窓編】地から天へと遡っていく雷
敵の思わぬ厄介さにバレルズは苦戦するも。
彼の切り札であるファミリアーツを解き放つ。
決着は間もなくだ。
カルマワームの巨躯が製菓工場を取り囲む中。
それに対抗するように。
もう一つの巨大な存在が。
バレルズのトレーラー車が戦場へと突っ込んでいた。
ブオオオ。
丸ノコで削られ。
止めと言わんばかりに。
大型車に激突されて。
もはや正門の鉄扉は跡形もなくなっていた。
それほどまでに。
場違いかと思われる勢いで。
バレルズの愛車は戦いの場へと。
遠くにいる主人からの信号を受けとるや。
戦場へと駆けつけ。
現在はその鋼鉄のボンネットで。
カルマワームの巨体に追突していた。
「各自、防護壁の出力を最大まで高めろ」
大きくバレルズは叫ぶと。
その場にいた防護班の結界であり防護壁は更に輝きを増した。
直接バレルズの声を聞き取れなかった者も。
他の班員の魔力の高まりを受けて状況を察し。
各々が最大まで魔力を高めた。
それを目視で可能な限り確認したバレルズは闘志を昂らせた。
「キミはご主人に甘やかされすぎた」
開きっぱなしのトレーラーのコンテナ内にある。
壁に掛けられていた銃火器や重機が。
バレルズのパルスインパクトの磁気と同じ。
青白い光を帯びるや宙へと浮き。
導かれるようにバレルズのもとへと飛んでいった。
「バーストピーク」
コンテナ内にあった様々な物体が。
磁気を頼りにバレルズの琥珀の鎧へと接続していき。
ものの数秒で鎧は人間大の小さな火を吹く砦へと化した。
「よっ、と」
右手には巨大な大砲が。
左手には十丁近くの魔力の弾丸を込めた銃器の束が。
両足は砲身を支えるための重しも兼ねたタイヤとタービンが。
背部には全身を固定するための脚と化した下向きのクレーンアームが。
アームの先にはドリルが下向きに付属され。
その鉄杭は地面に深く突き刺さり。
バレルズの体を固定する錨と化している。
仮面から出る青白い磁気はクレーンアームから地面まで伝い。
あたかも馬の尾を思わせている。
「一応聞くけど、これでもやる」
カルマワームへとバレルズは問いかける。
「キシャア」
自身が舐められていると。
本能的に直感した巨躯の虫は。
怒りを全開にして。
今度は頭部だけでなく。
地表に出した全身ごと獲物であるバレルズへと。
突っ込んでいった。
だが、そのハサミも巨躯も。
カルマワームは本気のバレルズに触れることすら叶わなかった。
「ボルテックオーバーインパクト」
それまでの青白く光る磁界とは違い。
地から天へと昇り立つ。
下から上へと遡る雷が轟音と共にバレルズより放たれる。
それは彼が引き金を引いた合図であり。
右手からは強大な魔力の雷撃弾が一閃し。
左手の銃器の束からは磁気を帯びた。
円錐、菱形、球形、様々な形の実体のない魔力の散弾が降り注いだ。
「……」
雷撃弾はカルマワームに直撃はせず。
頭頂部の殻を削ぐ程度に。
散弾もハサミを打ち砕いてはいるものの。
頭部の甲殻にヒビを入れているまでに留まっている。
「かなり手加減したけど、まだやる?」
「……」
「ギブアップ、てことでいいね」
ドオン、と音を立ててカルマワームは地に伏せ。
戦意を喪失した。
バレルズのファミリアーツ。
テロスクイザは磁気の精霊の力を利用し。
予め精霊から磁気を帯びた金属を意のままに操り自身の武装に変換できる魔法。
このファミリアーツとMAGの技術力により。
彼はMAILの上級騎士でありメカニックだ。
聖騎士団を去った後にその能力と技術でMAILでも高い地位を築いている。
「とりあえず建物とかは無事なようだね」
ファミリアーツによる武装を解除し。
バレルズは周囲を確認した。
戦闘も終わり。
役目を終えたことで。
元々コンテナ内にあった彼の武装群は。
磁気により接続し。
馬を模ったオブジェとしてその場に留まった。
「点呼取る前にちょっと確かめたいものあるから、まだ各自防護壁張っておいて」
PMAGまで使う余裕がないためとりあえず大声で。
周囲の聖騎士団に呼びかけ。
仮面の顎下にあるスイッチを押し。
専用無線でMAILの面々にも。
聖騎士団と同じ内容を一斉に伝えて。
地表の保護を優先して。
バレルズは一人カルマワームが這い出てきた穴へと飛び込んだ。
そこには魔法で作られたであろう。
全面鋼鉄の扉があった。
それは明らかに工場の正門の鉄扉よりも頑丈にできていた。
「これも壊さないとね」
ガントレットから琥珀色の魔力と青白い磁気が放たれるや。
そのままバレルズは両手の拳で扉を叩いた。
磁気と音波により扉は内部からひび割れ。
その中にある保管物がバレルズの前に現れる。
「なるほど地中に金庫を作って保管していたわけか」
内部には大量のドラゴンの卵が棚に並んでいた。
ドラゴンの卵は他の幻獣と違い。
小型であっても殻の周りに魔力の靄がかかっているため。
一目でそれだと分かる。
「あんまり出力上げてたら卵ごと割っちゃていたかもしれなかったなあ」
加減を誤っていた場合を考えてしまい。
バレルズはヒヤリとしてしまうも。
卵が全て無事なのを確認し、先に無線でMAILの仲間達に一斉に連絡を送った。
『地中に目標物を発見。回収を協力してほしい』
『了解』
目標物も見つかり。
それを守る番人も倒した。
まだ油断はできないものの。
ようやく鎧のクールダウンができる段階まで。
一旦一息がつけそうだ、と。
バレルズは自身の仮面の魔力の供給もとい。
仮面に搭載されたMAGと自身の精神との接続を遮断した。
これにより馬の形をしていたバレルズの仮面は変形し。
色こそ琥珀色であるが。
デザインは自分が引き連れていた中級騎士と変わらないものだ。
「主犯はグラシャになんとかしてもらうか」
バレルズの報告を受けたMAILの騎士達が。
穴の周囲に集まり。
魔力でできたロープを頼りに彼は地上に戻った。
「朝陽が綺麗だけど、ここの人たちになんて説明しようか」
壊れた正門の前で。
早めに出勤するこの工場の従業員の面々が戸惑っていた。
正門の破壊を必要経費と割り切ったり。
門前払いをきちんとしていなかったり。
一般人の安全と配慮をしっかりやっておけばよかった、と。
自身の至らなさにバレルズはため息をついた。
それでも朝の陽射しが彼らの活躍を。
労っているとでも言わんばかりに。
鎧を鮮やかに輝かせていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
番外編が長くなってしまったこと申し訳ないです。
車窓編の後に【ぼくとダグ】と次作へつながる【私のたからもの】を予定しております。
これらを含めるともう本編の四倍以上になりますね。
では、次の更新は5/14の17:00を予定しております。




