第三話 ほぼ行き当たりばったりな少女
ヘルシィが居るとされる。
メロディアス国領フォルティシモ山脈内フルート山。
そこに赴いた少女レオナは。
敷地前に設置された門のセキュリティによる魔法を受けてしまう。
魔法により気絶した彼女のもとにやってきたのはモナだった。
メロディアス国領フォルティシモ山脈内フルート山。
雪化粧の美しいその山にヘルシィはひっそりと住んでいる。
都会から離れた自然豊かな場所だ。
近郊の村から魔導車でしばらく揺らされ途中からは徒歩。
更に警備の魔法も備えた結界も張られている。
故に彼を直接訪ねてくる者は珍しい。
「やっと着いた」
防寒具姿の少女が山門の前で佇んでいた。
黒い帽子の下は長い金髪で歳は十代後半ほど。
瞳は明るいオレンジ色。
彼女の名はレオナ。
登山用の厳めしい装備に身を包んでいる。
「お願いだから返事ぐらいしてよ」
固く閉ざされた鉄の扉が許可なき者を拒む。
レオナもまた例外ではない。
「呼び鈴はどこかしら」
真っ黒で取手も見当たらない扉に少女は手を伸ばす。
『ご用件を伺います』
彼女の手が触れたとたん扉にドアベルの立体映像が浮かぶ。
同時に機械音声によるアナウンスが流れ出す。
「なにこれ」
『ご予約されている方は端末をかざしてください』
予約などレオナはもちろんしていない。
それでも彼女は引き下がらない。
「ヘルシィさんに会いたいの」
『本日面会の予定はございません』
アナウンスが止むと扉から紋様が消えた。
門は無機質な塊へと戻る。
「ちょっとどうなってんの」
困惑したレオナは扉を何度も叩いた。
その喚きに門が冷徹に答える。
『危険を感知。迎撃魔法が発動します』
「待って。まだ何もしていないじゃない」
扉からの二度目の返答は警告だった。
三つ首の魔犬が描かれた魔術紋様が扉に展開される。
「嘘、こんな上級魔法をこんなにあっさり」
黒い火球が膨張していく。
侵入者を排除すべくレオナに狙いを定める。
「誰か。誰か助けて」
助けを求めるもレオナの叫びは虚しく木霊するだけ。
『GIGA・FIRE。セキュリティ起動』
無慈悲な一撃が無機質な声ともに放たれた。
(死にたくない)
発射された幻影の火球は一瞬にして少女を包み込む。
その身は焼かれず熱さも苦痛はない。
ただ少女の意識を奪っていくだけ。
レオナの瞼がゆっくりと閉じていく。
「BreakCode・Realize」
上空から青年の声が響く。
瞬間、レオナを包んでいた火球が消えた。
(ま、だいき、てい、る)
絶対に扉からの声じゃない。
それだけしか分からない。
少女は立ち上がれるほどの気力がなかった。
漠然としている彼女の前に一羽の鷹が舞い降りる。
男の子とも女の子にも聞こえる少し高い声を発しながら。
「アンタ大丈夫か」
「だ、れ……」
変な夢を見ているだけかも。
突飛な出来事続きにレオナは考えるのをやめた。
気を失い完全に眠りに落ちる。
「ここで寝るなよ。面倒くさい奴だな」
様子を見に来たモナは倒れた来訪者に愚痴をこぼした。
「MAILに連絡入れとくか」
モナは鷹から大きな灰色の熊へとその身を変える。
眼前の少女を門の内へと入れるために。
大きな右手で彼女を抱きかかえるとモナは扉の前に立った。
空いたもう一方の左手をモナはかざす。
レオナのときと同様に門に紋様が浮かぶ。
同時にモナの姿が部分的に変わっていく。
かざした左手は先端まで人間の細い腕に。
両目は獣の双眸から藍色の瞳に。
声色は茶目っ気のある若い男性に。
「音声、指紋、虹彩認証。ヘルシィ」
自身の一部を主人の特徴に変えてモナは扉へと呼びかける。
『認証魔法作動。確認しました。お入りください』
扉は粒子となりモナとレオナの通行を許可する。
さきほどまでの彼女のやり取りが嘘のようにあっさりと。
「とりあえずあそこに運ぶか」
部分的に変化させた体をモナは熊の形へと戻す。
一体と一人は完全に門の内側へ。
両者が完全に内に入るや再び扉が現出し門は堅く閉ざされた。
境界線だからこそ門の開放は瞬く間だけなのだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
季節の節目で寒くなってきましたが。
読者の皆様の体調が崩れぬようにと私は願っております。
次回の更新は11月20の17:00の予定です