下ごしらえ14【車窓編】客として駅を訪れて
駅で切符を購入したレオナだったが。
構内でMAILの一員である男とぶつかってしまう。
駅の中に職場があるからといって。
いつも列車を利用しているとは限らない。
徒歩でアウロラに通勤しているレオナにとって鉄道の旅は新鮮だった。
そもそも彼女にとって旅行自体が。
滅多に味わえるものではない。
レオナが最後に旅行に行ったのは。
幼い頃、まだ彼女の家族が集合住宅に住まう前に。
南の暖かい海までバカンスに行ったきりだ。
オープンスクールの修学旅行にも。
近くの魔導工場の見学はともかくとして。
宿泊を伴うような遠出の旅に関しては。
資金面でレオナはいけなかった。
だからこそ、不安混じりではあるが。
今回の旅は彼女にとって楽しみなものであった。
「レオナ・ストレングスさん。あなたのエンブレムをお借りしてもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
ガラスの板で区切られた有人の券売窓口にて。
父から預かったWOLFのエンブレムを。
金銭や切符を渡し合うための。
四角形に切り取られた受け取り口から。
レオナは駅員に一旦渡した。
「ありがとうございます」
笑顔で駅員はレオナのエンブレムを受け取ると。
奥の縦長の長方形の機器へと向かっていった。
図書館でレオナが利用した検索機に似ているものの。
それは上面が特殊なガラス板になっており。
WOLFのエンブレムが置かれると。
板の下から白い光が放たれた。
その光はMAGに搭載された情報を読み取るための認証魔法だ。
(なんか緊張するな)
ガラス板越しにレオナは成り行きを見守っていた。
一人旅ゆえに一つ一つの出来事が。
彼女にとって新鮮であると同時に不安も抱えていたので。
人によってはなんて事はない些細なチェックでさえ。
奇妙な胸騒ぎが起きてしまうのであった。
「はい、認証完了です。往復券のお値段は半額でいいですよ」
「ど、どうも」
駅員から丁寧に返却されたエンブレムを受け取り。
レオナは指定された額の硬貨を財布から取り出した。
一万三千五百ゴル、彼女のバイト代にして。
一ヶ月分である。
(なんだか、ちょっと罪悪感もあるなあ)
切符の購入を済ませ。
嬉しそうにレオナは窓口から離れていった。
胸を弾ませ。
周りも見えないくらいに。
だからこそ、彼女は人とぶつかってしまった。
駅のホームに辿り着く中で。
毒々しい紫色の鉄仮面を被った一人の男と。
「ん」
「すいません」
鉄仮面こそ被っているものの。
その服装はカジュアルで。
爬虫類革のジャケットに、ダメージジーンズの格好だ。
レオナとぶつかったのは。
MAILの一員のようだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
旅行に行くとき。
電車に乗る前の改札口やホームって。
なんだか「これから遠くに行くんだなあ」って気持ちになりませんか。
駅一つ一つ、路線によっても、訪れるホームが違うからか。
利用する駅は同じでも異なる風景が楽しめる気がします。
では、次回の更新につきましては4/9の17:00です。




