下ごしらえ12 思いに対する費用
両親から旅の許可は出た。
しかしながら、旅費は自分がこれまで働いて稼いだ金。
親がこっそりと使わずに蓄えてくれていた貯金を。
今なら欲しい物を買うための充てにもできるが。
レオナの答えはきまっていた。
レオルドがWOLFのエンブレムを持ってきてから。
三人の食事の手は再び進み出した。
「しつこいが、バイト先にはもう話はついているんだな」
「うん。あとはお金さえどうにかなればすぐにでも出発するつもり」
良かった、話が上手くいって。
緊張感はなくなり。
残りのミートボールスープパスタをレオナは食べていた。
熱々ではないが。
それが返ってパスタを別の味わいへと変え。
両親との会話をしながらレオナは。
母の手料理に堪能していた。
「分かった。明日時間を作るから一緒に銀行に行こう」
「いいけど、お父さんお仕事は?」
「夜勤だから朝一で行けば大丈夫。レオナこそ寝坊するなよ」
「うん。でも、私のために家の貯金を崩すのはなんだか気が引けるな」
自分のワガママなのにな。
もうなんのために貯蓄していたのか。
漠然と生活のためだと割り切って。
なんとなくながらも。
ずっと積み重ねてきた貯金を利用することにレオナは。
若干引け目を感じていた。
しかし、それはレオナにとってある意味杞憂だった。
「それなんだが、あくまでレオナが稼いだ金で旅行するのなら、許してやる」
「私が稼いだって、待って。私のバイトのお金って家の生活費に充てているんじゃないの」
「実はね、あなたが将来何か資格を取ったり独り立ちするときのために貯金していたの」
母のリオルが父のレオルドの言葉にフォローを入れるも。
それはレオナにとって混乱を招いた。
「それじゃあ、私はなんのために働いているの」
「これだけは言わせてもらうが、父さんと母さんの二人での稼ぎで家計はなんとか回っている」
「国からの補助金が少なくなってからは余裕なかったけどね」
「だからこそ、お前を進学させられず働かせてしまっている現状を本当に後悔している」
レオルドは夕飯を食べ終えると娘であるレオナに頭を下げた。
「すまなかった。レオナが頑張って働いて貯めたお金について黙っていて」
謝るなんてとんでもない。
家でなにかあれば使ってもよかったのに。
父の前で思いを言葉に出そうにも。
レオナは唖然としてなにも言えなかった。
申し訳なさが彼女の胸の内に込み上げていく。
(遊んだりする余裕なんてないのはもう分かりきっていたのに)
生活を切り詰めなければならない中で。
自分の将来のために。
自分が稼いだ金には手をつけていなかった。
両親に辛い思いを呼び起こさせてしまい。
レオナは心苦しかった。
あくまで自分がこれまで働いて稼いだ金で。
これを使えばPMAGや服にアクセサリー等と。
欲しい物を買えるかもしれない。
それでも。
両親が使わずに。
ずっと自分のために貯めていてくれたお金だからこそ。
既にレオナの答えは決まっていた。
「大丈夫。それでも私ヘルシィさんに会ってみたいの」
「そうか。なら、もうなにも言えないな」
微笑みもなく。
静かにレオルドは自分の食器を持って席を立った。
しかしながら、父として娘への激励の一言は忘れずに。
「行きなさい、レオナ」
「お父さん、ありがとう」
「ふふふ、良かったわねレオナ」
両親の許しを得て。
レオナは満面の笑みを浮かべた。
だいぶ冷めてしまったが。
残りのミートボールスープパスタの味はレオナにとって格別だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ここから先は車窓編が始まります。
なぜ、レオナの目的や思考が当初より歪んだのか。
なぜ、MAILに対し恐怖心や警戒が大きかったのかが。
語られますので。
よろしくお願いいたします。
次の更新は3/26の17:00になります。




