下ごしらえ9 占いの結果
図書館でヘルシィについて調べていたレオナは。
ビーンズの占いの結果を思い返してばかりだった。
図書館に足を運び。
ヘルシィに関する書籍を読むレオナは。
数日前のビーンズとのやり取りを思い出していた。
アウロラのホールは暗く締め切られ。
魔鉱石のランタンの灯りがレオナとビーンズの心を落ち着かせるように暖かく室内を照らしていた。
「黄色のサイコロで数字が2でしたけど、私の家は貧乏だし、その……」
「出目が小さいから単純にお金の悩みじゃない、と言いたいのかしら」
「はい。やっぱりお金は欲しいですし」
「内心大きな出目が欲しかったのね。でも、違うの」
手を軽く前にかざして「その前に一杯よろしくて」とビーンズは。
布のカバーを取り紅茶の入ったポッドを手にしティーカップへと注いだ。
この店の隠れた逸品の一つである紅茶はマーキュリー薬草園のハーブティーであり。
フロストカモミールティーのリラックス効果のある香りは。
ミルクにも負けないクリーミーなフレーバーだ。
直接飲んだわけでもないのに。
レオナは注がれた紅茶の香りで。
言葉が上手くまとまらなかった頭の中が大分整理され。
ビーンズが紅茶を飲み終えた頃には。
できるだけ自分に素直にいようと。
気持ちを切り替えることができた。
「あなたに最後欲しいものがあるか聞いたのを憶えているかしら」
「はい。そこでMAGのない世界がどうなんだろうなって答えました」
「質問を最後にしたのは本当にお金で手に入れられるものなのかを見極めるためなの」
「それはつまり、先に出した出目と私の答えが釣り合っていた、ということですか」
「ええ。その考えで合っているわ。1じゃなくて2だったのが引っかかるけどね」
「もし、私がPMAGや流行りの服とか、それこそお金が欲しいって言っていたらどうしてました」
「そのときは頑張りなさいとか軽くはぐらかしていたわ」
「カウンセリングというか心理テストみたいですね、なんだか」
「まあまあ、そう言わずに。次にカードについてなんだけど、説明してもいいかしら」
そう言うとビーンズは自らの銀のカードに触れた。
12の数字とターコイズの宝石に雪だるまが描かれた一枚だ。
「カードの方には必要とする場所や時を暗示しているわ」
「ちょうど今が十二番目の月だし、雪ダルマは雪山を表しているのでしょうか」
「そうね。もしも、この辺りで有名な雪山といえばどこかしら」
「フルート山でしょうか」
「ええ。ヘルシィが住んでいる山よ。失礼だけどご存じじゃなかったかしら」
「はい。流石にそこまでは知りませんでした」
「いいのよ。責めたりしているわけじゃないし」
「一旦ここまでの話を頭の中でまとめていいですか」
ビーンズはにこやかに「どうぞ」と。
レオナに思考する間を与え。
しばし沈黙がその場に漂った。
今月は十二月、近くで有名な山はフルート山。
そこにはヘルシィさんがいる。
これらを紡ぎ合わせてできる一つの結論はというと。
「今月中にフルート山に行ってヘルシィさんに会うってことですか」
「当たり。ようやく最初に出した結論に辿り着けたわね」
「いやぁ、これは、その、あの……」
「回りくどいやり方だったらごめんね」
「別にそんなつもりはないんですけど」
本当はちょっと思っているけど黙っておこう。
内心ビーンズの占いと言っていいかどうか分からない。
カウンセリングというよりも。
むしろ心理テスト染みたやり取りに。
正直レオナは頭を抱えていた。
一方で自分の中のモヤモヤした感情に。
ずっと胸の中で。
自分自身で鍵をかけて。
閉じたままの箱が開いた気がして。
レオナはまるで本音を口に出せた気分がして。
スッキリしていた。
だからこそ、新しく問題も出てきた。
実際にフルート山にいるヘルシィに会うための。
手段や費用についてだ。
「目標ができた気はするけど、どうしたらいいでしょうか」
「とりあえず今度の休みに図書館でも行ったらどうかな」
「図書館ですか」
「ヘルシィほどの有名人なら住所なんて調べればすぐに分かるでしょ」
「本に書かれていますかね」
「本じゃなくても図書館の自由に利用できるMAG端末を使えばいいじゃないかしら」
「そんな簡単にいきますかね。一応ヘルシィさんのプライバシーもありますし」
「でも、一時期のMAG反発のデモは彼の住む山に大勢の人が行っていたらしいわよ」
「なんか私もデモに行くみたいだなあ」
「深く考えちゃダメよ」
紅茶を再び嗜み。
ビーンズは優雅に一息ついた。
「レオナちゃん、会えてよかったわ」
「こちらこそ。私のために占ってくださり、ありがとうございます」
五分近くレオナは席に座ったままだったが。
「レオナちゃん、あなたも紅茶をお飲みになる」
「自分は従業員なので、それはちょっとご遠慮願います」
「真面目なのね。その気持ちは美徳だわ」
そうしてビーンズからの配慮を受け。
レオナは厨房へと向かって行った。
独り占めされたホールで。
ただ、ただ、一人。
彼女は何を思っていたのか分からないが。
三十分もかからなかっただろう。
ビーンズが後片付けを済ませて。
この店を去って行ったのは。
別れの言葉は「またね」とだけ。
簡素にそれだけリブとレオナに告げると。
彼女は静かにアウロラの店の扉を開いて出て行った。
ビーンズが去り。
更に何分も経った店内で。
レオナはリブへ彼女について話したくてたまらなかった。
「なんだか面白い人でしたね」
「そうね。あと、お別れがあっさりしてたのは意外でしょ」
「確かに。あれだけ人懐こかったのに。冷めているというか」
「プライベートの付き合いな人ほどああなの」
「珍しいですね。普通は仲良い人ほど名残惜しいはずなのに」
「人が占いに依存するのが嫌なんで、人を占うとああやって距離を置くのよ」
「じゃあ、あんな風に素っ気なかったのも」
「レオナちゃんのこと気に入ったからかもね」
「なんか嬉しいな。お別れが寂しい気はするけど」
「また会いたいから、敢えて次も占って欲しくなるようなことは言わなかったのよ」
微笑むとリブは厨房のある方へと顔を向けた。
「ホースダムへの挨拶なんて皿を見れば分かるくらいよ」
「あの人キレイに完食して紅茶も飲み干してましたもんね」
食べカスも残っていなかったビーンズの皿を下げた記憶を思い出し。
嬉しそうにレオナは彼女の座っていた卓を。
もう一度拭きなおした。
「さてとビーンズも帰ったし、店の貼り紙も剥がして来てくれる」
「はい。わかりました」
卓を拭き直し終え。
使った布巾を店内の専用の容器に入れると、
貼り紙を剥がしにレオナは店の外へと出ていった。
一ページ、一ページ。
本をめくっていく手は止まらず。
数日前の出来事も頭に留まったままで。
知りたい情報を得ようとするよりも。
むしろ正反対に。
作業的に本のページ数は増えていき。
カウントが大きくなっていくにつれて。
終わりが近づいてきた。
レオナは漠然と本を読み進めているだけだった。
(なんか時間だけが過ぎているみたい)
時間の浪費にレオナが気づき始めたのは。
読書の開始から一時間ほど。
このままでは埒が開かない。
気持ちを切り替えるためにも。
本を机の上に置き。
席を立つとレオナは辺りを見渡した。
目当ては情報ネットワークにつながったMAG端末。
ダメ元でMAG端末を頼りにヘルシィに関して調べようとレオナは切り替えた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
図書館に行くと様々な本が置いてありますが。
個人的には図鑑が好きですね。
大きくて写真や絵に説明文など。
ページを開くとワクワクします。
では、次回更新は3/5の17:00になります。




