下ごしらえ8 図書館に行く理由
レオナは図書館に来ていた。
目当てはヘルシィ・ハーミットに関する本である。
その背景には数日前の。
ビーンズによる占いがあった。
ビーンズの占いから数日後。
その日、仕事休みのレオナは町の図書館に足を運んでいた。
「図書館に来るなんてオープンスクールの社会見学以来だわ」
町の中心部にあるトランシープの図書館は二つある。
両方とも役所の隣に併設されており。
MAGが現れるまでは魔導書を保管するための施設であったが。
近年は魔導書の需要の低下により。
かつての図書館は魔導書の保管という。
機能ごとそのままに建物が残った。
これが旧図書館棟。
レオナが足を運んだのは新しい図書館だ。
こちらは七年前に。
町民向けの多目的施設の一部として設けられたものである。
施設のエントランスから。
トランシープの町の史料を昔から現在へと辿るように。
内部を進んでいくと。
図書館というよりも。
図書室と言った方がいいほどの部屋がある。
知識や娯楽に事実といった様々な情報が詰まった書籍が棚に並ぶ。
この町の新しい図書館だ。
(ヘルシィさんの本を探そうっと)
担当の職員が一人しかいない受付には。
本について尋ねている老人との対応でお取り込み中のようだ。
それもありレオナはこの図書館の端末で本を検索することにした。
(関連ワードはヘルシィでいいや)
大きさとしては。
十歳近くの子供の背丈で縦に伸びた長方形の箱だ。
上部の画面はタッチパネル式のディスプレイとなっており。
自立して移動や会話などはできないものの。
内蔵されたMAGにより利用者の命令を受けとる。
MAG端末でありゴーレムの一種でもある。
レオナが今いる図書館の蔵書の置かれている棚の位置や貸し出し状況を。
これによって把握できるのだ。
曖昧な言葉でも検索可能であり。
ヘルシィという単語でも結果を表示してくれるのだが。
検索結果;ヘルシーな食卓、濃厚だけどヘルシーなレシピ……。
レオナが思うような結果は表れなかった。
(ヘルシィ・ハーミットで検索し直そう)
語彙を改めて再びレオナは検索した。
すると。
検索結果;異端児ヘルシィ・ハーミット、なぜヘルシィ・ハーミットは隠れるのか……。
先ほどよりも大分レオナの求めていた検索結果が。
端末の画面に表示された。
(とりあえず上から二つくらい印刷しよう、と)
レオナは画面を指で操作し。
各書籍が置かれている棚の位置が書かれた紙を。
端末の画面横にあるプリンター口から受け取った。
そうしてお目当ての本を二つとも見つけると。
レオナはそれらをまとめて手にした後。
近くの机の上に置いて座って読み始めた。
(どうして私この人調べているんだろうな)
異端児ヘルシィ・ハーミットの本を開きながら。
町の図書館にまで至った経緯をレオナは振り返った。
それも全てはビーンズとの占いが理由だ。
遡ること数日前。
「ヘルシィって、MAGを作った人って、ええと、何がなんだか」
「ごめんなさい、カウンセリングとか言っておいて結論から言っちゃって」
「そこは構わないんですけど。いえ、やっぱり順を追って教えてください」
失礼だけど色々と疑問だらけだし。
あまりにも突拍子もない占いの結果に。
レオナは大きく困惑していた。
それを受けてビーンズも彼女を落ち着かせる意味合いも込めて。
微笑みながら「そうよね」と何回か相槌を打った。
しばらくして。
マダム・エンプレという名誉を賜ったのが。
信じられないほどに。
どこにでもいる女性の気安い口調で。
ビーンズはレオナに語りかけた。
しかし、その内容はレオナにとって。
返答に困るものだった。
「レオナちゃん、お金や今の辛い境遇をMAGのせいにしていないかしら」
「……それは、少しは思います」
「ごめん。言いにくいことだったのね」
「別に、気にしてませんよ」
「やっぱり、こっちのせいだわ。改めて順を追って話しましょうか」
気まずくなってしまった空気を。
かき消すためなのか。
ビーンズはくだけた表情から。
真剣な面持ちでレオナと向き合い出した。
卓の隅に置いてある紅茶が入ったポッドは。
冷めないようにカバーで覆われており。
そのカバーの熱気と魔鉱石ランタンの灯りが。
より一層ビーンズの真摯さを引き立たせているようだ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
雪はキレイですが。
もう少し寒さはなんとかならないかと。
自身も読者の皆様の健康も気にする日が。
なにかと続いています。
それでは、次回更新は2/26の17:00になります。
皆様も風や病気にかからないようにお気をつけて。




