下ごしらえ7 占い
唐突なビーンズからの提案に。
レオナは戸惑うも。
またとない機会でもあり。
彼女はビーンズが占う席へと着く。
制服姿で棒立ちしているレオナには。
目の前にいるビーンズの。
自分とは住む世界の違う人間の言葉がすぐには理解できなかった。
「唐突すぎたかしら」
「無理もないわ、わたしが教えた方がいいみたいね」
唖然としたままレオナのため。
席に座っていたリブがビーンズに代わって事の経緯を話し始めた。
「ちょっとビーンズがさ、レオナちゃんについて興味が湧いちゃったの」
「え、ええと、ありがとうございます」
とりあえずお礼を言っておこう。
なぜ自分に興味を持ったのかまだ分からないものの。
レオナはビーンズに感謝して頭を下げた。
嬉しそうにビーンズが手を振り応えてくれたのを見ると。
リブは説明を続けた。
「勝手に話して悪いけど、お家のこととかファミリアーツのこととかも喋っちゃったの」
「別に店長がお知り合いに言うくらいならいいですよ」
「ごめんね。でさ、頑張っているあなたの未来を見てみたくなったんだって」
「未来を見る。予知ですか」
「リブちゃん。ここからは自分が話すわ」
ビーンズが声をかけると。
それに頷いてリブは席から立ち上がり。
さっきまで自分が腰掛けていた場所に座るようレオナに勧めた。
「このまま占いに入りたいみたいだし、わたしは厨房に行くわ」
「お気遣いありがとう、リブちゃん」
「時間は気にしなくていいから、存分に占ってもらいなさいな」
リブはそう言い残すと。
ホースダムのいる厨房へと向かっていき。
客間であるホールにはレオナとビーンズの二人だけになってしまった。
「ささ、座って、座って、レオナちゃん」
「はい」
「お金はもちろん取らないし。ワタシが勝手にやっているだけだから」
「ありがとうございます」
本当にいいのかな。
モヤモヤとした抵抗感があるものの。
話の流れに身を任せて。
リブが空けてくれた席へとレオナは座った。
「それじゃあ始めましょうか」
不敵な笑みでビーンズは着ていたローブの左右の裏ポケットから。
小さな袋と箱を取り出し、それらを机の上に置いた。
「占いというよりもカウンセリングと思ってくれたら助かるわ」
「水晶玉に未来の光景が映るってわけじゃないんですね」
「そういうのもできないわけじゃないけど、今回は別よ」
机に置いた袋や箱の中身をビーンズは広げる。
袋からは赤、青、黄色の六面ダイスが。
箱からは銀でできた十数枚のカードが。
これから少女の未来を占う道具たちが姿を現した。
少なくともビーンズが冗談半分で。
からかっているわけではない、と。
机に広がるダイスやカードを見てレオナは確信した。
しかし、ここに来て思わぬトラブルが発生する。
「もっと雰囲気出したいからカーテン閉めて暖色系の灯りで卓を照らしたいわ」
「じゃあ、店長呼んできますね」
これからやろう、というタイミングで。
突然の準備不足。
ダイスやカードはそのままに。
レオナは厨房にいたリブやホースダムらと共に。
ホールのカーテンを降ろして閉め切り。
ビーンズの要望通りにホースダムが暖色系の灯りを。
その系統の色を発する魔鉱石ランタンまで用意して。
五、六分ほどの環境のセッティングを経て。
ようやくレオナの占いが再開した。
その頃にはもう彼女の中でビーンズに対しての緊張はほとんどなくなっていた。
「レオナちゃん、好きなダイスを振ってくれる」
「はい、ところで色とか数字の意味は知らなくていいんですか」
「この占いにおいては後で教える仕組みになっているの」
「なるほど」
「直感的でいいの。言ったでしょ、これは占いというよりカウンセリングだって」
「分かりました」
こういう占いもあるんだ。
ただ未来を見通して。
悪い未来ならそれを変えるように努力し。
いい未来ならそれが変わらないように努力する。
先のことを知って努力のやり方や生き方を決めるのが。
占いだと思っていたレオナはビーンズの行うものが新鮮に感じられた。
カウンセリング、と。
彼女も言っていたように。
将来のあれこれよりも。
言われた通りになんとなくやろう。
レオナは身構えずに肩の力を抜き。
ダイスを手に取った。
手にしたダイスは黄色だ。
「それじゃあ、そのダイスを振って」
「はい」
指示通りレオナはダイスを軽く振った。
転がる賽が止まり指し示す数は二の面だ。
「ふふ、次はカードを一枚選んでもらえる」
ビーンズは銀のカードの束をシャッフルすると。
上から二枚を裏向きでレオナの前に並べた。
右と左。
その内の一枚を選ばなければならない。
レオナが選んだのは……。
「右で」
「わかったわ」
指差されたレオナから見て右のカードを。
丁寧にビーンズはめくった。
カードに描かれたいもの、それは。
12の数字。
宝石のターコイズ、
バケツを被った雪だるま。
「このカードは一体何を表しているんですか」
「教えたいのも山々なんだけど、最後に質問していい」
「すいません」
「謝らなくていいの。聞きたいのは欲しいものよ」
「欲しいもの?」
「物でなくとも会いたい人やこんなこと起きたらいいな、とかでもいいの」
「欲しいもの、とは違う気もするけど、気になることがあります」
占いや質問の意図がまだ分からないものの。
ずっと気になっていたことについては。
躊躇いはあるがレオナの答えは決まっていた。
「ふざけているわけじゃないですけど、いいですか」
「なになに、笑わないから言ってみて」
「MAGがない世界の私ってどうなっているんだろうなって」
やっぱり変だったかな。
思いを口に出してみてレオナは恥ずかしさからか若干後悔した。
一方でビーンズは初めポカンと口を開けていたが。
しばらくするとしみじみとした表情で。
これまでの占いに関して解説を始めた。
「ダイスの色は赤が自分の才能や仕事、青が人間関係、黄色が財産」
ビーンズはレオナが振った黄色のダイスを二の面を上にし。
レオナが選んで表にしたカードの上にそれを置いた。
「カードは十二枚あって、占う人の行き先や今必要なものを示しているの」
「そうだったんですか。ちなみにダイスの数字は」
「配るカードの枚数であると共にどれだけ欲するものを渇望しているかを暗喩しているの」
「へえ、じゃあ私はそんなにMAGのない世界を望んでいないってことなんですかね」
「それはちょっと違うわ」
「えっ」
「結論から言うとMAGの生みの親であるヘルシィって人に会ってみたら」
「それはまた、どうして」
「いいわ、これから話してあげる」
すごい人の名前が出てきたな。
あまりに突拍子のない話ながらも。
しみじみした表情とは異なり。
ビーンズの態度は真剣であるからこそ。
レオナは彼女から占いの内容を。
改まって、姿勢を正して耳を傾けた。
アウロラのホールは。
彼女たちが二人きりの今だけ。
運命を語る占いの間と化している。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
寒さが厳しくなってきましたが。
こたつや暖房に水分補給で。
体を温めるだけでなく。
喉の潤いも気にしなければならず。
大変な季節になりましたね。
ではでは、次回の更新は2/19の17:00になります。




