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ハーミットなごちそう  作者: 白海レンジロウ
【下ごしらえ1食卓編】
15/59

下ごしらえ6 マダム・エンプレ

レストラン・アウロラにやってきたのは。


メロディアス国で名誉ある称号マダム・エンプレを賜った女性。


ビーンズ・キャンディボウルであった。

「今の教皇からエンプレの称号をもらって何年経つっけ、ビーンズちゃん」


「二年とちょっとくらいかな」


「有名人になって時間が経つのが早く感じない?」


「まあ、昔よりも格段に忙しくなっているからね」


アウロラの卓上席でリブとビーンズは言葉を交わしていた。


「普通に本名で呼ばれるときは呼ばれるし、称号とか肩書きとか堅苦しいだけだわ」


「あなたらしいわね。ビーンズちゃん」


久しぶりの友人との会話に心を弾ませるリブに対し。


レオナは出来上がった一品を卓の上に運ぶのに躊躇していた。


それに気づいたリブはレオナに微笑んだ。


「ごめんなさい。出来上がっていたのね」


「こっちこそすいません。料理が冷めてしまうのに」


「レオナちゃん。あなたが謝る必要ないわ」


「可愛い店員さんね。リブ、この子ここの看板娘かしら」


「ええ。そうよビーンズちゃん。レオナっていうの」


「初めましてレオナちゃん」


「はじめまして……」


「緊張しているのね。でも、今度からは遠慮せずに料理を持ってきていいわよ」


「は、はい」


ビーンズはリブと共にレオナに遠慮しないように、と伝えたものの。


当のレオナはマダム・エンプレの称号を持つビーンズを前にして。


緊張せざるを得なかった。


エンプレの称号とは。


優秀な才能や活躍をした女性に。


この国最高権力者である魔導教皇から与えられる名誉あるものであり。


魔導書、魔道具、精霊、幻獣などの。


魔法に関する分野はもちろん。


更には芸術や歴史学に他国との交流など。


様々な分野での活躍した女性が受賞できる。


(この人が占いで魔鉱山のガス爆発や鉄道の脱線事故を未然に防いだっていう)


ビーンズ・キャンディボウルはこの数年間魔導庁の特別相談役として。


教皇であるエメラ・ステラに次ぐ権力者である枢機卿に。


大きな公共事業の前や災厄への対策などの助言をしていたのだ。


実際に彼女の予言により事前に大惨事は防がれ。


その功績から彼女は二年ほど前に。


マダム・エンプレの名誉を魔導教皇から賜ったのだ。


ビーンズはレオナにとって異なる世界に生きる人物なのだ。


「当店名物のビーフシチューのパイ包みです」


そっと、丁寧に。


アウロラの看板メニューをレオナは卓へと置いた。


皿の表面のパイ生地は。


中身のビーフシチューの旨味の蒸気によって。


気球のようにパンパンに膨らんでいる。


「ふふ、ありがとう。レオナちゃん」


「ど、どうも。マダム・エンプレ」


「お願い、今度からはビーンズって呼んで」


「は、はい。ビーンズ、さん」


「あらあら、真面目ね。ただ、そういう所可愛いわ」


「ありがとうございます」


なんだか思っていたよりも気さくだな。


予想していた人物像とは異なり。


ビーンズの人柄は取っ付きやすく。


実際に言葉を交わせすと。


レオナは返って対応に困っていた。


(店長の友達で、良い人っぽさそうだしなぁ)


すぐに緊張は解けないものの。


厨房へ行きビーンズから見えない所に辿り着くと。


大きなため息をレオナはついた。


「レオナ、厨房に来た以上はマスクで口を覆え」


「すいません。ホースダムさん」


ホースダムからの注意に。


制服のポケットから。


洗濯して繰り返し利用できる白い衛生マスクを取り出し。


レオナはそれで口元を覆った。


「はあ、なんかやりづらいなあ」


キッチンではもう次の品である。


カスタードプティングが出来上がっており。


ホースダムはそれが入った焼き皿をオーブンから。


取り出した直後だった。


焼き皿を台の上に乗せると。


ふぅ、と一息ついてホースダムはレオナにため息の理由を尋ねた。


「っと。どうしたよ、レオナ」


「ホースダムさん、マダム・エンプレの掴みどころが分からなくて」


「ビーンズか。肩書きや仕事のせいであいつにゃお堅い印象があるだろうな」


「もしかして、ホースダムさんはビーンズさんのこと知っているの」


「まあな。オレがクソガキの頃リブと一緒に遊ぶくらいにはな」


「でも、あの人トランシープ出身じゃないって噂だよ」


「小せえ頃のあいつは母方の地元のこの街に住んでたんだよ」


「ああ、なるほど」


「占い家業を本格的に次ぐためにオープンスクール卒業後に出身地に戻ったんだよ」


「話的にお父さんの方の地元よね。でも、どうしてこの街に?」


「ビーンズの家の習わしでな。占いつうのはコミュニケーションが大切だからな」


一旦言葉を止めホースダムは伸びをすると。


天井を見上げながら口を開き直した。


「子供の頃はあえて占いから離れて一般家庭の人らと交流をさせるようにしてるんだとさ」


「ええと、コミュ力を養うためにってこと」


「そんな所だ。あとは社会勉強のためにな」


「へえ、だからあんな気さくなんだ」


「人ってのは一つの道をずっと一人で進んでいると視野が狭くなっちまうからな」


「頑固になるってことね。まんま典型的な一昔前の魔術師の生き方じゃん」


「オレぁ料理人だが、その考えはよく分かるぜ」


「要はキャンディボウルさんが今の地位に上り詰めたのはコミュ力を子供時代に養っていたからってこと」


「それはあるだろうな。付け加えるなら時代があいつの才能を必要としているのもあるな」


「占いってか、未来がどうなるかなんて昔から人間知りたくなるもんだしね」


「つうこった。とりあえず紅茶淹れなきゃなんねえし、お喋りはここまでだ」


「はあい」


なんか変に固くなって損したかも。


ビーンズの人となりをホースダムから聞き。


レオナは安堵しつつ。


緊張から解かれていた。


そうして卓にいるリブとビーンズの様子を見ながら。


カスタードプティング。


次に紅茶と。


レオナは注文の品を運んでいった。


(これで最後の品か)


紅茶を運び終え。


レオナが卓から離れようとした時だ。


「ねえ、レオナちゃん。ちょっといいかしら」


「えっ」


「ビーンズがあなたを占いたいんだって」


リブの一言。


突然の提案。


緊張とは別に困惑からレオナはその場で足を止めてしまった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

二月になりましたが。

読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

冷たい風や病などに。

皆様の貴重な健康と時間が損なわれていないか心配です。

お節介が過ぎたかもしれませんね。

次の更新は2/12の17:00です。

健やかな日々で皆様が過ごされていることを信じております。

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