下ごしらえ4 レオナ・ストレングス
トランシープの駅構内にあるレストランで働くレオナ。
彼女はオープンスクールを卒業後に。
家計のために日々はたらいていた。
トランシープの駅内のレストラン・アウロラは今日も忙しかった。
午後八時過ぎ、レオナの勤務が終わる頃になって。
ようやく一段落がついた。
店の裏口で店の制服から私服に着替えたレオナは。
ここの女店長であるリブ・アラウンドに別れの挨拶をしていた。
彼女は二十八歳でこの店を切り盛りする。
敏腕店長だ。
「お疲れ様でした」
「お疲れさま、レオナちゃん」
レストランといっても高級志向ではなく。
広いホールには多くの客が騒がない程度に。
各々食事と会話を楽しみ。
明る過ぎない照明に。
MAGとそれに連携するスピーカーから流れる落ち着く音楽。
客が食事するインテリアは木製で。
落ち着いた雰囲気はあるものの大衆食堂でもあり客層は様々である。
元々は大きな宿屋であり。
魔導教皇エメラとトランシープ町長との。
町の再開発に際し。
アウロラのある場所は倉庫になる予定だったものの。
駅の再建設に伴い。
施設と土地の一部が重なってしまい。
それならばいっそレストランにしてしまおう、と。
当時の店主であるリブの父、パスト・アラウンドが町長に提言し。
元々食堂から宿へと成り上がった店の歴史もあってか。
多くの人々から店の伝統の味を残して欲しいとの要望もあり。
宿泊とは別に食堂を目当てに来る客もいるほど。
旧アウロラはトランシープやその地を訪れた人々に親しまれたため。
駅構内の最初のテナント店として。
今もなお形を変えて店の味は受け継がれている。
そのため、時代が変化してもなお。
当時の面影がなくなってさえも。
アウロラは時代の流れに乗っているのだった。
「ただいま」
駅から離れた低所得者向けの集合住宅の一部屋。
そこがレオナの家だ。
鍵を開けて。
暗闇の中でレオナは手を伸ばし。
魔石ランタンのスイッチである紐を下へと引っ張った。
すると部屋に明かりが灯り。
ランタンの照明の下にある机には。
一枚の置き手紙と一個の缶詰があることに彼女は気づいた。
『今日もお父さんとお母さん遅くなります』
手紙に目を通し。
缶詰に視線を移す。
ラベルには『鯖と三種の豆の煮詰め』と表記されている。
「今日もか。お母さん所のもらいとはいえ、違う味がいいな」
レストランの賄いの方が美味しい。
なんて口が裂けても言えないと。
内心思いつつレオナは。
母リオルによる自分の食事へと手をつけた。
不味くはないが。
特別美味くもない。
冷たく無機質な味で。
レオナは独りで仕事終わりの食事を済ませるのだった。
ここまでお読み下りありがとうございます。
お待たせしましたが、ここからが前日譚の本編始まりとなる回です。
しばらく寄り道のように世界観設定などに話数を費やし、ごめんなさい。
それではレオナがどのようにしてヘルシィのもとへと至ったか。
道のりを楽しんでいただければ私としては嬉しい限りです。
次回の更新は1/29の17:00になります。
ぜひともご覧ください。




