ドラゴンと火山とバーベキュー -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
急ぎの相談があるからと、ルビィが言うので、屋敷の執務室から魔法学院の研究室に再度転移した。
「ヒーちゃん置いてきちゃったけど」
「ラスタル周辺の話だから、ヒルダには関係ない話ダ」
どさくさに紛れて霞沙羅もついて来てしまっているけれど、とりあえずは座っていてもらって、ルビィが事情の説明を始めた。
「北の街道付近でドラゴンの出現が確認されたのだガ」
「ギルドで明らかにそれに対する護衛の仕事があったけど、それ関係かなー?」
先日、ドラゴンが関わっているとは書いていなかったけれど、冒険者ギルド職員の情報ではそれが影響して、北への街道を通ろうとする商隊などの依頼が多かったことを思い出した。
「いや、それとは別件デ。討伐に向けた先遣隊がアークドラゴンらしいのが飛んでいたのを見たといっていテ」
「それは手を出してはダメね。アークドラゴンは私の次に位置する存在よ」
「女神の次? 初めて知っタ」
「手を出しちゃダメなのは知ってたけど、そんな位置にいる存在なの?」
アークドラゴンという、巨大なドラゴンが存在する。向こうから攻撃を仕掛けてくる事は無く、現れた場所に近づくと追い払ってくる。歴史上、これを倒した者はいないが、近寄らなければ何もしてこないから、大陸中の国々には、巨大なドラゴンが現れたら近づいてはならない、と言い伝えられている。
そしてこのドラゴンが現れると、必ず何かが起こるとも言われている。
「四大神の誰かが伝えたいことがあるんでしょう。あなた達も確か冒険中に一度会ってるわね?」
魔女戦争の初期頃の、まだ普通に冒険者をしていた時期に、ある場所で洪水が起きたことがあって、その前に魔女の部下かもしれないと、町に依頼されて確認しに行ったことがあった。
「それとなく大規模な自然災害が起こる事を告げるために派遣されるのよ」
つまり現場に近寄るなという事だ。
一応、そういう存在だとは人間も知っているけれど、女神様にハッキリ言われてしまった。
「普通は私のようなのが地上にいるわけじゃないけど、折角だし事情を聞いてみましょうか?」
「あ、ああ、じゃあお願いすル」
どうやっているのかは解らないけれど、エリアスがそのアークドラゴンに連絡を取っている間、話から外れた霞沙羅は会話を耳に入れながらも、スマホでロックバスターの改造計画を書いていたので、アリシアとルビィはそれを覗いていた。
しばらくして、事情を聞いたエリアスが驚くべき災害を口にした。
「街道から見える山があるでしょ? あれが噴火するわ」
「おいおい、穏やかじゃないな」
標高1200メートル位の独立峰があって、400年前が最後の噴火という記録は残っている。
山の足下には深い森が広がっているので、幸いな事に周辺には集落がなく、誰も住んでいない。木こりや猟師が入り込む事はあるけれど、人的被害はさほど無さそうではある。
「この前セネルムントで地震があったでしょ? 大夫離れてるけどあそこの温泉は…、信者は聞かなかったことにして」
「ちょっとー、話止めないでよ」
「大丈夫よ、温泉はオリエンスの仕業だから」
火山由来の温泉があったので、オリエンス神が聖都付近まで水脈を引っ張ったのがあの温泉の正体だが、夢の無い話なのでエリアスは説明を止めた。それに今回の噴火には関係が無い。
「温泉の話はいいとして、まあそういうことなら、別のドラゴンもうろついてるし、街道を封鎖した方がいいカ?」
「どんな形の火山だよ」
霞沙羅が会話に入ってきた。
「小さな富士山みたいな独立峰よ。北海道で言えば羊蹄山みたいな形?」
「溶岩の質は?」
「軟性で、ドロドロと垂れてくるタイプよ。多少の噴石はあるけれど」
「山周辺はどういう地形だ?」
「山の四合目辺りから麓にかけてずっと森に囲まれているわ」
「じゃあ森林火災は?」
「前回は麓まで溶岩が流れてきて燃えたわよ。今の山にかかってる森の半分は燃えた後に生まれた森よ」
「街道から見えるんだろ、考えなきゃダメじゃねえか?」
霞沙羅が周囲はどういう状況なのか見せろと言ったので、エリアスは山の周辺を空中に映してくれた。
「便利なもんだな」
ネット上の3Dマップサービスのように、始点も角度も弄ることが出来るので、霞沙羅は絵をつまんで、ぐるぐると高低差とかを調べ始めた。
「下手したら街道が火災に巻き込まれるぜ」
* * *
アークドラゴンは無害なので放っておけばいいけれど、それが火山の噴火を告げに来たとは大変な事になった。けれど自然現象なので人間の手ではどうしようもないし、神であっても基本的には触らないという。避難が検討されるような所には集落が無いのが救いだ。
だが一大事なので、ルビィが慌てて国王に謁見を申し出ると、急遽何人かの大臣や大賢者を集めて会ってくれることになった。
誰もが面食らったのは、式典では姿を現さなかったエリアスがいきなり来たことと、王者の錫杖の謎を解き明かした霞沙羅までついて来たことだ。
「いや、随分と…」
写真では見たけれど、あのどっちつかずのアリシアがまさかこんな神々しい美女をパートナーとして選ぶとは思ってもいなかったので、マーロン国王も言葉に詰まってしまった。
かつて存在したという神聖王国の巫女、という歴史ロマン溢れる人物だとは聞いているけれど、それが火山の噴火だと言うのであれば、無視は出来ない。それに最近の地震も気になっていたところだ。
「こちらの女性は、大賢者殿はお知り合いとか?」
霞沙羅についても、先日アンナマリーがもって来たやどりぎ館の写真の中に写っていた人物だ。
「ええ、一度だけ会っております」
「すみません、急にこんな事になって」
「いや、よい。アリシアの家の者であれば相当の人物であることは解る」
日本という国の軍人であり、英雄であるとは先日の会食で聞いている。
「概要を説明しますガ」
まずは信用のあるルビィから改めて、先遣隊が見たのはアークドラゴンであり、近日中に火山の噴火が予想されると告げられた。
「ここからは私が、予想される被害について説明します」
そこで霞沙羅が立ち上がった。
またエリアスが現場の上空からの絵を表示することはなく、アリシアのデバイスにこっそりとデータを渡して、ディスプレイ機能で各主席者の前に表示した。
「アリシア、ちょっとサポートしろ。お前普通科だろ」
「はーい」
地学は学んでいるから、霞沙羅が言ったことは解る。これから霞沙羅が言う事を、デバイスの画像でちょっとサポートすればいい。
「これが上空からと横からの二方向からですが」
エリアスが言うには、この山の火口は東の方向を向いていて、毎度そちらに向かって溶岩が流れていく。それは400年前も同じだという。そして東側には丘のようななだらかな別の山があり、二つの山の間を縫うように街道が作られている。
「溶岩が街道に届くことは無いでしょうが、溶岩や噴石を発生源とした森林火災が発生するでしょう。森の木々の種類がここから違ってますね。という事は前回はここまで燃えたという事です」
上空から見ると、別の木が生えているラインがくっきり見える。そしてそれは街道をまたいでいる。隣の山にかかるくらいにかなり広範囲が燃えたようだ。
「噴火の規模にもよりますが、普通に考えれば間違いなく火災は発生するでしょう」
「おお…」
霞沙羅の説明に王たちが唸る。絵もあるので解りやすい。
「アリシア、この街道の北にある町は何だ?」
「王族が納めている土地にある町ですよ」
「王家の領地か? 国防的に分断はマズくないか?」
周辺国家との関係は悪くないとは聞いているけれど、森林火災で街道が不通になると、いつ復旧するか解らない。そうなると治安の問題が出てくる。大きな事件は終わったとはいえ、山賊や盗賊、それにもう帝国の残党がいないとも言い切れない状況だ。
「回り道はあるんですけどね。二、三日余計にかかります」
「それでですが、この辺の森を伐採できないかと、提案します」
霞沙羅としては、溶岩の到達点はある程度解っているから、木々を伐採して森を分断して、防火用の緩衝地を作ろうという考えだ。
「しかし、それだけの森を今から伐採するのは現実的では無い」
王都の騎士や兵、周辺の木こり、それに魔術師を集めても、霞沙羅が提案するだけの面積の伐採はどうにもならない。
女神エリアスの力は借りれないし。
「アリシアのところに好戦的な巨大な魔剣がいますから、そいつにやらせればいいでしょう?」
「システイーのこと?」
「確かにあいつなら出来無いことはないナ」
全長約50メートルの刀身部を持つ、非現実的な魔剣がいる。一振りで何十どころでは無い魔獣を切り裂いたシスティーなら森の伐採くらい出来ないことは無さそうだ。
聖剣が巨大な星雫の剣だったことは、王様も報告を受けている。
「先生やるナ」
「じゃあ呼んでみるよー」
すごいこと考えるなー、とアリシアも思った。システィーを土木作業に使うとか考えた事もない。
後は本人がやってくれるかどうかというところだ。好戦的とは言っても殺戮を好んでいるわけではない。出番が欲しいだけだ。
アリシアの手元にやって来た青い剣から、システィーの上半身だけが生えてくる。
「霞沙羅さんは面白いことを考えますね」
「ウチにもいるだろ、お前みたいなのが」
「そうでしたね。このエリアを伐採するのですね? 半日もあれば余裕で伐採出来ますよ」
国王達はさすが我が国の英雄だと、アリシアの持ち物に感謝する。またもやこの国の危機を救ってくれようとしている。
「でも木を運ばないとダメじゃ無いですかー。切ったままだと溶岩で燃えちゃいますよ」
「お前、伸びるだろ?」
「よく知ってますね。マスター達に頼まれていないので言っていませんが、長くなれます」
通常のシスティーの形はバスタードソードだ。
「ちょっと細くなりますけど100メートルくらいには」
「ええーっ、はじめて知った」
「おいおい、人間体になれて形を変えられないわけないだろ。それでだ、切った木はシスティーに刺して適当な所に積んでおけ。何なら町の建材にしてもいいし、街道に噴火中の立ち入り禁止のバリケードでも作るとか」
おおっ、と王たちから驚きの声が挙がる。
異世界からやって来た英雄が豪快な解決方法を提案してくれた。これなら、広範囲の火災を防げそうだ。
「これで借りは返せそうか?」
「あ、そうですね」
鐘の件、シャーロットの件、編入の件でちょっと迷惑をかけすぎているから、霞沙羅なりに知恵を貸したわけだ。
「ありがとうございます」
やっぱり先生なんだよねー、とアリシアは思った。先生と呼ぶとちょっと嫌がられるけれど。
「シンジョウカサラ殿、それとエリアス、この国の王として、礼を言う」
マーロン国王は霞沙羅達に頭を下げた。
「そういうのは全てが無事に終わってからにしましょうよ、国王様。まだ提案しただけです」
「私も土木作業は初めてですけど、無事に終わればいいですね」
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