みんなそれぞれの生活 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
二人だけの時間を満喫してやどりぎ館に帰ると、談話室のソファーに座って、PCで誰かと通信している霞沙羅に呼び止められた。
「吉祥院と話し中だ。ちょっと混ざれ」
「吉祥院さんですか?」
霞沙羅の横に座ると、PCの画面に吉祥院千年世の姿が表示されている。
真っ黒で艶やかな長い髪に、ちょっと古風な、時代劇の奥方様といった感じの化粧をした、ザ・日本人な女性。これがかつての霞沙羅の仲間、厄災戦を終わらせた2人目の英雄様だ。
9才で『国立横浜魔術大学』、通称『横浜校』を歴代最高評価で卒業した超天才魔術師。魔術師協会でのランクは霞沙羅よりずっと上。魔術という業界では評価がやや劣る日本において、誰もが認める世界レベルの有名人だ。
年齢は霞沙羅より1つ下の23歳でありながら、高校・大学と霞沙羅の先輩というねじれ状態の為、面倒くさいのでお互いタメ口でやっている。
映像では座っていて胸から上しか映っていないので解らないけれど、霞沙羅やエリアスよりも更に背が高かったりする。
「おうアリシア君であるですな。久しぶりでやんす」
口調がちょっとオタクくさく、その都度自由なのが特徴だ。なのにアニメや漫画は特に見ないというちょっと変わった人。
「何の話をしていたんです?」
「シャーロットの件だよ。そろそろ来るから協会の連中が心配しているようだぜ」
「ワタシは霞沙羅とアリシア君がいるから、大丈夫だ、心配ない、と言ってあるのであるが、相手がホールストン家な事もあって、心配性なのが多いのでありんす」
「食いもんの心配はいらんと言っておけ」
日本魔術界の元締め一家の人間であっても、吉祥院は気さくというか、性格にクセはあるけれどフランクな人間だ。ただまあ、魔術の話になると人が変わるのはご愛敬。
それと「千年世」という、千年後の世にも語り継がれる者、という仰々しい名前が嫌いなので、「吉祥院と呼べ」と言われている。
名前の響きは一般的な名称ではあるけれど、字面は確かにやりすぎの感がある。
「そんな話しをされると、アリシア君の手料理が久しぶりに食べたくなるでござるよ。また上達しているのでござろう?」
「女性の入居部屋は埋まりましたけど、宿泊部屋はありますからねー」
この人もこの館に住む権利があり、何度も泊まりに来ているので、エリアスとフィーネの事情も知っている。ただ、来るとなると事前に準備が必要になるのが厄介な点だ。
「シャーロット嬢が来たら挨拶に行くでありんすよ。しかしアリシア君には申し訳ない事になってしまったんじゃよ」
「協会や軍ではなく、どっちかというと警察連中のヘマが大きいぜ。私は念を押したんだがなあ」
「そう言ってやらないで欲しいのでげす。何と言ってもあのキャメル傭兵団であるのです」
「たったの4人だぜ。攻め込まれるのはまあいい…、わけねえし、その後の対応がマズいぜ。撃墜数の半分以上が私と伽里奈だぜ。しかしまあこの英雄様の抜け目のなさにはビビったな」
「差し歯の件でありますかな?」
あの時、伽里奈が差し歯に仕掛けられた転移術を見抜かなかったら4人全員は捕まらなかったかもしれない。世界中の国々が散々被害を受けた傭兵団を一網打尽にした事に対して、協会にも日本政府にも、捜査協力要請の連絡が入っている最中とのこと。
そして霞沙羅による予定外の大手柄には、軍上層部も鼻高々だそうだ。
「冒険者時代は、どうやって町に帰るのかっていつも考えてましたからねー。高校に攻めてきた人は陽動みたいだったので、この後どうやって逃げるのかなって思っただけです」
どうやっても魔術ではルビィには勝てないから、どう魔力を残しておくか、と伽里奈なりのテーマを持って立ち回っていた。その一つが全員無事に帰るだった。
「転移魔術が使えるのがパーティーに2人もいれば、片方に1発分くらいはストックさせとくわな」
全員の能力が高かったのもあるけれど、アリシアが生き残るためのバックアップ手段を残している事を知っていたから、他の5人が安心して戦えた、のが強みだった。
「こいつにはまだ学ぶ事があるぜ」
戦いに関してお互いに環境が違うのだから仕方ないのだが、霞沙羅としては省エネの手段を学びたいところだ。
戦闘中に「敵一体ずつに勿体ない」と言われれば確かにそうだと思った。自分達の放つ魔法は一般人の数倍の威力があるのだから、複数人に分散できるのなら越したことは無い。
「ウチら3人はバックアップは他人任せであったな。それで、アリシア君にも協会から何らかのご褒美があるでありんすよ」
「そうなんですか?」
「実績に対してのランクアップでござるよ。傭兵団の件もあるでげすが、霞沙羅が出した魔剣等のレポートにも手を貸してござろう?」
「こっちのも貰っとけよ」
「決まったら連絡はするでげすよ。それではシャーロット嬢の事は任せるでありんす」
吉祥院との通信は終わり、霞沙羅はPCを落とした。
「能力的には同じハズなんだが、いざやってみればこうも違うもんだな」
鐘の幻想獣には地球側の人間として霞沙羅が前に立ったけれど、即席コンビのハズなのに伽里奈は役割をちゃんと理解してくれた。何も言っていないのに霞沙羅が魔力を消耗しているのも見抜いたし、その分のバックアップの腕は抜群だった。本当にあの展開の前に呼んで良かった。
演習とか個人的な鍛錬では何度もやりあっているけれど、背中を預けたのは今回初めてだった。さすがリーダーをやっていただけのことはある。
前に出て行くばかりがリーダーの役目では無い。後ろにいたかと思えば急に横に来たりと、都度の位置取りはとも手上手かった。
見た目と性格から弟分だったのに、やっぱり一つの戦いを終わらせただけあって、自分の横に立つ資格はあると認識した。
「ところであいつには内緒だが、お前ならではの発想を頼むぜ」
「学校の事ですか? 何か悪いですね」
「あいつは初級レベルの魔術が解らん人間が、なぜ解らんのか理解が出来ない。天才様故のの欠陥持ちだ。ほっとけばいい」
「そうですか」
魔術師一族の本能として、生まれたそばから魔術の知識を持っていた吉祥院には、「ゼロから魔術を習得する方法」が解らない。馬や鹿が生まれてすぐに立ち上がるのと同じで、当たり前に魔術を使う人間として生まれてきたのだ。
だから魔術を習得しようという人間に向けての施策は、習得という道を歩んだ人間にしか解らないから、吉祥院には一切の期待ができない。
能力が高すぎる人間にも問題はあるのだ。
「それと私が学校に持っていった探知装置があっただろ? あれの解説書はあるか?」
「設計図がPCの中にありますよ」
「警備室からあれを使いたいと依頼があってな、お前が作ったと言っておいたから、適当な頃合いに印刷して持って行ってやれ」
「そうですか。そんなに使えました?」
「割り切って作られているが、予算の少ない小樽校の警備改善案として使いたいそうだ。手持ちサイズで場所も取らないしな。ただあのアンテナをもうちょい良いのに改造したい」
「解りました」
霞沙羅にいい改良案があるのなら、それが上手くいった時に、逆にそのアイデアを貰えばいい。
モートレルの探知設備が完全に直るにはまだ時間がかかりそうなので、ヒルダに貸し出した探知装置の出番はまだ続くから、改良できるなら参考することにしよう。
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