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みんなそれぞれの生活 -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 イリーナの一声で、料理担当の神官が集まった。


 イリーナから旅の道中の話しを聞かされているアリシアが来たから、何の料理を作るのかとかなり期待されてしまった。それで何を作るかというと


「麵を二種類とちょっとかさ増しのグラタンを作るよー」


 シンプルなペペロンチーノと、本場では貧乏人のパスタと呼ばれるタマゴを使った、これもシンプルなパスタ。それと具材をマカロニではなく、カットしたパンでつくるグラタンだ。マカロニよりも見た目のボリューム感があるのでいいと思う。


 そこからの派生で作れるホワイトシチューはまた今度にしよう。そんなに一気に教えても混乱するだろうから。


「卵のパスタは、ちょっとお金がかかっちゃうけどねー」

「卵は一応、教団専用の農場があるのよ」


 聖都から出てすぐ近くの農村に、神官達が運営している牧場と農場があって、牛乳や卵、バターやチーズ、それから小麦や野菜などの農作物はそこからも供給されている。


調理に興味が無いエリアスとルビィは孤児院の方に行ってしまった。イリーナはこの神殿の責任者として厨房に残っている。


 神殿と言えど人の集まりなのだから料理は大事だ。贅沢はしないが、人は毎日同じ食べ物ではやっていけない。神殿の管理者として、アリシアが何を作るのか見ておく必要がある。


「じゃあ手に入らないことは無いんだね?」

「割り当てはあるのよ。今日はあるわよ」

「使っちゃっていいの? 買ってこようか?」

「いいのよ、食べるんだし」

「そう? じゃあ使わせてもらうよ」


 アリシアが手本を見せながら、料理担当の神官たちが指示を受けながらパスタとグラタンを作っていく。


 材料も含めて本当にシンプルな料理だけど、作っていくウチに驚くほど美味しそうに出来上がっていくので、イリーナも驚いている。


 卵はともかくとして、パスタの方は具材も少なくて質素というのは失礼だが、神殿で食べる食事としては贅沢さが無いので申し分無く、グラタンの方もボリューミーに見えるけれど、パンの割合が多くて贅沢な作りでは無い。


「このグラタンさー、一つのお皿で大量に作って、それを分けちゃうとあまり綺麗な見た目じゃ無くなっちゃうから、ヒーちゃんの所でやらなかったんだよねー」

「この神殿には私を含めた神官は30人程度しかいないから、子供を入れても五十人くらいね」

「騎士団より少ないなら、何とかなるかなー。オーブンはそれなりに大きいし、このくらいの小さな容器をたくさん買って、それで作るのがいいかも」


 今日は残念ながら大きめの容器を幾つか使って作っているから、取り分けする事になってしまう。


 アリシアは見た目を気にしているだけで、もし教会側で問題無いと思うのなら、数人分を作って取り分けしてももいいとは思う。


「アリシアは料理の見た目を気にしすぎだと思うわよ」

「そう? でもねー、見た目って大事だよ」


 ここで言い合っても仕方が無いので、神官なりの感覚もあるだろうから、そこはもうお任せすることにした。自分がいった意味が解ったのなら、やり方を変えて貰えばいいと思う。


 そしてパスタ2種類とグラタンが出来上がって、今日ここにいる全員で試食をすることにした。


 食堂に子供達も含めて一同が集まって、新しい料理を囲った。


「これって、アリシア様の持ってきた料理?」

「おいしそう」


 一つのお皿に纏められてしまったけれど、三つの料理が集まって、子供達も嬉しそうにしている。


「次はお菓子でも作りに来ようかな。子供がいるもんね」

「アリシア、食事の後は教皇にご挨拶に行くわよ」

「あ、うん。会ってくれるの?」

「式典には来られなかったから、楽しみにしているわよ」

 子供達だけでなく、神官達もここには無い料理に満足していた。


  * * *


 料理は好評で、今後も神殿のメニューの一つにしようと決まり、その後イリーナに連れられて、大神殿に向かった。


 女神様は孤児院に残るという事で、三人で教皇と対面となった。


「おおアリシア、よくぞ戻りました」


 教皇様は50代の男性。神のご加護か何なのか、約4年ぶりの対面でも、実年齢マイナス10歳以上の若々しさを保っている。


「式典には出席できませんでしたが、このように会えて喜ばしいことです」


式典には別の、大司祭様が喜びの声を伝えに来ていた。


「神の事業を任されているという、今のあなたの話を聞かせて下さい」


 やどりぎ館の事については、さすがに教皇様だけあって「神の事業」と非常に肯定的だ。


 オリエンス神は事業の主体では無いけれど、アシルステラの神々の承認もあって存在しているので、参加しているというのは間違いはない。


「ルビィはその館に宿泊したのですね?」

「はイ。中々不思議な空間でしたが、アンナマリー嬢を含め、他の世界の人々も居心地には満足していましタ」

「とても名誉なことです。アリシアはこれからも神のお手伝いを続けて下さい」

「はい」


 教皇は神官ではないアリシアに教団の事業に協力してくれとは言ってこないから気が楽だ。多分、内心では友人のイリーナがいるから何かを期待してはいるのだろうけれど、その辺は信徒として、何かお手伝いが出来ないかなとは考えているから、どこかで機会を作ろうと思っている。


 そこで、窓枠がカタカタと音を立て始めた。


「地震ですね」

「ひゃっ!」


 小さな悲鳴を上げてイリーナがしがみついてきた。


 震度はそれほど大きくなく、日本基準でいえば震度2くらいといったところだ。やや長かったけれど、被害は特にない。


「…最近多いのよ。3日くらい前にもあったかしら」


 日本で3年も住んでいるからアリシアはあの程度では動じないけれど、フラム王国で地震というのは年に一度、体に感じる地震があるかないかなので、教皇はその立場上、平静を装いながらもちょっと不安そうな顔をしていた。


「王都の方はどうなの?」

「うーん、イリーナと同じで、3日前に揺れたかナ」


 ルビィは地震に対して慌てるような素振りはなかった。


 こっちの世界にはプレートがどうこうというような地質学的なデータが無いから、アリシアもその辺は解らない。日本でも地震が比較的多い関東生まれの霞沙羅辺りがいたら、なにか気が付くかもしれないけれど。フラム王国内ではここ100年程度の間に、地震で大きな被害があったという記録は無い。


「なんだろうねー」


 アシルステラにいる、という意識からか、アリシアは肝心な事を忘れていた。


  * * *


 地震によるちょっとしたトラブルはあったけれど、教皇との会見を終えて、3人は大神殿の大聖堂にやってきた。折角なので、オリエンスに祈りでも捧げていこうと思ったからだ。


「妙な感じだナ」

「エリアスのこと?」

「司祭ながら、わたしもそう感じるわね」


 大地神アーシェルの眷属とはいえ、女神エリアスがこの聖都にいるという状況がおかしいのだ。


 おかしいというか、本物の女神がこの大地にいるのが面白い。記録がないだけかもしれないが、神その物が実体を持って降臨したという記録は、まず無い。


「ところで、あれは巡礼者への施しの列?」


 聖堂とは違う建物の入り口に人が列を成している。主に平民の巡礼者向けに、教団が食事を配っているのだ。


 平民の巡礼者は、聖都が近い人でもなければ、貯めたお金や、集落の人からのカンパを使って長い道のりをやってくる。一生に一度、聖都セネルムントに巡礼の旅をするなんていう人はざらだ。


 そういったやっとの思いで聖都にやって来た人達への信仰心に報いるために、教団では無料の簡易宿泊所を用意したり、食事を提供したりしている。


 どれもこれも貴族や商人からの寄付で運営していて、使える予算はそこまで潤沢では無いけれど、最大限、旅の疲れを癒やすために、教団としてのおもてなしをしている。


 それとこの聖都には大神殿が管理する、オリエンス神よりの賜り物として、温泉があって、そこも無料で使う事が出来る入浴施設がある。


「夕食が始まっているのよ」


今日の料理は、しっかり具の入ったスープとパン。それだけであっても、遠くは他国からはるばるやって来た信者達にはとても有り難いものだし、お腹が満たせるようには工夫がされている。


「なんだ、アーちゃんはアレにも口出しするつもりカ?」

「ボクなんかはさ、ラスタルから半日歩けばここに付くよね? でも多くの人達は何日とか、一ヶ月以上とかかけてくるわけだし、なんかこう、思い出になるような名物でも出したいかなーって」

「あの、ヒルダのところで出したカレーはどうダ? まだ世間には広まってないだろウ?」


 やどりぎ館で食べたカレーはどう考えても無理だけど、モートレルでの事件解決後に食べたカレーはそこまでお金も時間もかかっていないようだし、あれはあれで美味しかった。


 あのカレーという食べ物は、日本では災害があった時などにも出てくる。お値段はお手頃で、万人向けで一定以上には美味しく出来て、何より沢山作れるいいモノだ。


 こっちだと固形ルーが無いからスパイスから作らないとダメだけど、ルーとなるスパイスがこの町で集めることが出来れば作る事は出来る。


「ねえイリーナ、あれに口出ししていいのかどうか、確認して貰える? いいんなら、また今度カレーっていうスープみたいな料理を作りに来るから」


「カレー? ええ、アリシアが良い料理を持っているなら担当に聞いておくわ」


 アリシアの料理には冒険者だったあの2年間でとても世話になった。あの辛い旅の中、色々と手を変え品を変え、専用の魔法まで開発して、さらに行く先々で調味料まで購入して持ち歩いて、自分達の旅を支えてくれた。アリシアがどういう料理を持ってこようとしているのか解らないけれど、美味しい物を食べるという行為に自分はとても助けられたから、長い間旅をしてきたあの巡礼者達の事を思うのであれば、この話しを通したい。


「じゃあお願いね」


聖堂での礼拝を終え、今日はここまでにして、連絡を待ってまた聖都に来る事にした。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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