みんなそれぞれの生活 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日に行くのは、イリーナのいるオリエンス教の聖都セネルムントだ。
オリエンス神を奉る都市に、アーシェル神の眷属が行くのも変ではあるけれど、転移の問題と、エリアス自体が行きたいと言うので、今回も2人で行くことにした。
偉大な功績を持って冒険の旅から戻り、司祭となったイリーナは、大神殿を囲む4つの神殿の1つ、西の神殿を任されていると言っていたので、直接神殿の前に転移した。
「あの歳で聖都の神殿一つ任されるなんてすごいなー」
イリーナはアリシアと同じく19才。
当然サポート役はいるのだろうけれど、教皇から「聖騎士」の称号も貰っているイリーナは、教団としても利用する、という言い方は悪いけれど、アイドルとしての霞沙羅のように、信仰を集めるシンボル的な役割としてはこれ以上無い人材だ。
本来ならば戦いを司るギャバン教神官がやるべき魔女戦争の終結を、商売を司るオリエンス教神官がやってしまって可哀想な気がするけれど、イリーナはラシーン大陸の神官の中では間違いなくトップクラスに強いので、仕方が無いのかもしれない。
まさかの結果に、教団もさぞ喜ばしい事だろう。
「あらルビィさんも来たのね」
アリシア達に遅れて、ルビィが転移でやって来た。
「孤児院があってね、本を持ってきたみたいだよ」
西の神殿には孤児院がある。ここにいる孤児は経済的理由から泣く泣く捨てられた子供達で、戦災孤児では無い。その孤児院には、今は20人程度が住んでいる。
なお、戦災孤児はギャバン教の担当だ。
「子供向けの本も安くないしナ。だがいずれここを出ていく子供の教育はしなければならないだロ?」
「何の本を持ってきたの?」
「学院にもオリエンス教信者の貴族が少なくないかラ。孤児院に寄付するから古書を持ってこいと言ってあって、定期的にイリーナに渡しているのダ」
と言っているルビィもオリエンス教信者だ。
「ぶっちゃけたところ、アーちゃんは今は何教ダ?」
「教義自体はオリエンスだけど」
ちらっとエリアスを見る。
「エリアスの宗教も昔はあったから」
「私の宗教は一国だけのモノだし、無理に信仰しなくてもいいわよ」
パートナーであって、教祖として奉っているわけではないから、「信じる」という言葉の意味は違う。
エリアスとしては、アリシアには同じ管理人として、それと人生のパートナーとして信用して欲しい。
「なかなか難しい問題だナ」
とにかく小柄なルビィに悪いから、重そうな本はアリシアが持って、神殿の中に入っていった。
「ようこそお越し下さいました。アリシア様におきましては本当に、よくぞお戻りになりました」
中ではアリシアとルビィという有名なオリエンス信者を神官達がお出迎えしてくれて、イリーナがいる司祭用の執務室に案内してくれた。
アリシアの服装はともかくとして、イリーナは来客対応の神官がお茶を置いて、去ってしまうまで、エリアスには触れようとはしなかった。
「この女性が私達の旅の最終目的だったのね?」
魔女戦争に参加した6人は、魔女を倒す、それが目的だった。
「結局ボク以外誰も会うことは無かったからねー」
魔女であって女神。オリエンス神達の、人間への戒めの為に地上に遣わされた女神。もう3年以上も前に終わった話だが、心の中での扱いが中々難しい。
特に神の使徒であるイリーナが一番扱いが難しい。
オリエンス神を初めとした四神の怒りはごもっとも。神が作った大地に生きる人間が、神への信仰と恐れを忘れた結果起きた事だ。
本当に仕方が無かったのだ。それにこの女神だって役割を与えられただけで、それを悔いている。それに先日はフラム王国の危機に手を貸してくれたのだから、許す、とは人の身でおこがましいが、納得するしか無い。
これは教皇であっても知ることが出来ない世界の禁忌事項なのだ。
「無理に今解決しようとしなくて良いよ。エリアスだって完全には吹っ切れてないしね」
結局のところ、この2人のおかげで世界の歴史が終わることは無かったのだ。今があるのはアリシアとこの女神がとった選択のおかげ、という事は解っているのだ。
「すみません。私だけもう少しかかりそう」
信仰その物が変わってしまいそうだ。
エリアスもその葛藤が見えているから、声がかけづらい。
「いいと思うよ。ただエリアスも生き残った人の手伝いをしようとしてるのは解ってあげてね」
いわゆる「悪」と言われる国を滅ぼしたという、大陸に生きる人類への救いもしているのだから、今は何も言わない方がいい。
「それで本を持ってきたゾ。ウチの国の貴族はオリエンス信徒も多いからな」
本は歴史書に物語に魔法書と色々ある。
「いつも助かるわ」
神殿への寄付、それに身寄りの無い不幸な子供への寄付は善行の一つであり、死後に安らかな場所に行けるということを、特に信じている貴族達には安いモノだ。
20冊ほどの本を受け取ったイリーナは机の上に置いた。
「イリーナには、何かボクから出来る事ある? 正直、神官さん達が何をやってるのか解らないし。、孤児院とか何やってるか解らないからねえ」
「そうね。私達と個人の子達は同じモノを食べるんだけど、料理は地味なのよ。子供が喜ぶようないい料理とかあるとありがたいわね。アリシアは平民出身だから、その視点でいいのよ」
この世界の宗教は何を食べてはいけない、という制限は無くて、お肉もお酒も口にしていいけれど、基本的に神官達は贅沢をしないのが前提だ。
だから孤児院の子供達も、食事は基本的に質素だ。といっても平民の基本的な食卓とはそれほど差は無い。
「たまには、プチ贅沢なお楽しみの日とかもあるの? あとは将来的に料理の道に行きたい子とかいたりする?」
「何人か、アリシアに触発されて料理の手伝いを積極的にしてくれる子はいるわよ」
子供達はイリーナが語る、6人が冒険者だった頃の物語が大好きだ。出版しているルビィの切り口とは違うけれど、身近にいる英雄から直接話しを聞けるのだから楽しみだし、それぞれの人となりも詳しく教えてくれるので、6人の内の誰かに憧れている。
その中でも、他の冒険譚には無い、アリシアが作る料理の話は珍しくて、イリーナもいい思い出として面白おかしく語るので、食べてみたいと思う子供は多い。
「今から何か作ろうか? どういう食材があるのか見せてくれる? チーズとか干し肉は食べるんだっけ?」
「それは食べるわよ」
「麵は?」
「それも普通に食べるわよ」
「だったらまあ、日常的に食べられそうな料理を作るよ」
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