みんなそれぞれの生活 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
式典の時に話はしてあるけれど、ハルキスとイリーナとライアが今どういう生活をしているのかを見る為に、アリシアは時間を取って、それぞれが住んでいる町に行く予定を立てた。
ただ、残念ながら、今のアリシアではそれぞれが住んでいる町への転移が出来ないので、エリアスについて来て貰うようにお願いした。
嫌がるかなと思ったら、エリアスも乗り気になってくれたので、それぞれの場所に毎回運んで貰う事に決めた。
3人とも、戦っていた相手を結局見ないまま魔女戦争が終わってしまったという事と、女神とかいうのはともかくとして、アリシアがどういう相手を選んだのかという好奇心もあって。世界の禁忌事項というのはこの際無視して、かつての冒険者仲間の家族として、エリアスにも会うことになった。
「ヒーちゃんも来るんだよねー」
「元前衛として、ハルキスと久しぶりにやりあいたいのよね」
たまにルビィに頼んで連れて来て貰ったり、行ったりしているそうだけれど、折角の機会だという事でヒルダがついてくることになった。
なので剣の稽古に使う用の、バスタードソードを持ってきている。
「行き先はエルドリートの町ね?」
女神エリアスなら世界中どこの場所にでも行くことが出来る。それは漠然と「ハルキスの家に行きたい」と言っても全く問題が無いそうで、今回は町の入り口が集合場所だ。
早速、ヒルダの屋敷からエルドリートに移動した。
「ヒーちゃんのパスカール領って、甘蕪をそれなりに作ってたよね?」
「高原で作ってるわよ。人気は無いけど、栽培は比較的簡単だから」
「じゃああの、ハルキスとの話に入ってきてね」
ハルキスの部族は、フラム王国が建国される時に傭兵として尽力したので、時の王から特別に部族用に自治区として領地が認められている。
自治区は、ヒルダのパスカール領のような広さは無いけれど、部族の人数自体も2000人ちょっとと多くはないので、元々住んでいた高原にある地域に協力し合って住んでいる。
表向きは農耕と牧畜で生計を立てつつ、王宮には自治区の見返りとして、王宮騎士団の一部隊として、定期的に交代で人を貸し出すという事をやっている。
基本的に一族はみんな体格もよくて、農業だけで無く、戦闘にも適している部族だ。
ハルキスのいるエルドリートは、自治区の中心地であり、いわゆる代表である部族長が住む町だ。
街道も通っているから、人の通り道という事もあって、文化的にも排他的では無く、モノの行き来も多い、結構恵まれた場所だ。
「おう、やっと来たな」
指定された町の入り口では、一週間ぶりくらいのハルキスが出迎えてくれた。次期部族長の認定があっても、父親が部族長としてまだ現役なので、住んでいるのは別の家。なのでそちらに案内された。
建物としては族長一族用の別館といった感じで、周辺にある一般住宅に比べても、やや大きいくらいだ。
「あの銀色の背が高いのが、魔女っつうかお前の嫁なのか?」
「うん、そうだよ」
「全体的な色は違うが、戦争中に時々空に現れたビジョンで見たのと確かに変わらないな」
艶やかな銀髪だけでも、何か光りの粒子を放っているかのように神々しい。
これが女神、なんだよな、と思ってしまう。
「オレのタイプじゃないが、お前にしては出来すぎだな」
ハルキスがタイプだという女性は、というかこの部族の男性の理想の女性となると、力強い女性だ。男も女も子供の頃から戦士としての教育を受けているので、女性も筋肉質で体格もいい。肌の色も褐色である方が元気で働き者の証として良いとなっている。
ヒルダのような力強い女性が人気のタイプとなっているから、実際ハルキスの奥さんも、部族の女性の中でもトップクラスの戦闘力を持っている。
そんな目で見ると、美人で誰よりも背が高いけれど、肌も白く細身に見えるエリアスは魅力的には映らない。
「で、どうするんだ?」
「ハルキスとヒーちゃんの用事を済ませてから話をしようよ。途中で止めるのもなんだしね」
「何の話なの?」
「先に言っておくとね、甘蕪から砂糖が取れるんだけど、この自治区は生産地だからそれを伝えに来たの」
「あの美味しくない蕪から?」
「アンナとのキャンプの時に作って持って行って、ミルクティーに入れたんだよ。やどりぎ館で使ってる砂糖も、向こうでいう甜菜っていう、同じような蕪っぽい食材から作られてるんだよ」
「そうなの? じゃあウチの領地でも砂糖が作れるって事?」
「そうだよ」
砂糖というと、暖かい国の植物由来のモノなので、現地での生産量はそれなりにあるけれど、フラム王国では輸入に頼っていてお高い。それがこの国でも作れるとなれば、新たな産業になるし、流通量が増えて食が変わる。
「それはちゃんと聞かないと」
「この後実際に作るから、先に稽古をやってねって話」
互いに領地を運営する側として重要な話しなので、それで急かされたわけでは無いけれど、ハルキスとヒルダは、早速町にある自警団の修練所を借りて、お互いの腕試しを始めた。
ハルキスは剣士と言っても武器はハルバードで、ヒルダはバスタードソード。お互いに大型の武器が特徴だ。
そんな英雄二人の久しぶりの腕試しを見ようと、多くの住民がやって来ては、その激しい攻防に興奮しっぱなしだった。
二人ともパワータイプでありながら、スピードも超一流。修練所を縦横無尽に駆け回って、普通の人では一撃で死んでしまうような打ち合いを存分に楽しんだ後、人を集めて甘蕪の話に移行した。
今後の部族に大きな影響を与える話であるので。現部族長であるハルキスの父親も来て、アリシアの話を聞くことになった。
「しかしこんなものがな」
ハルキスがまだまだ半信半疑で倉庫から収獲済みの甘蕪を持ってきた。
アリシアも漬物として食べてきたこのやや微妙な作物は、一般的に平民くらいしか食べる事は無い。漬物は他にもあるから、正直世間から甘蕪の漬け物が無くなっても困ることは無い。
「実際には蕪じゃないんだけど、それはともかく」
計画の説明と製造方法を伝えて、早速砂糖作りが始まった。
「あんな食べ物よ?」
漬物にしていた蕪のような食べ物を、適度なサイズに切って、煮て、実を充分に搾って、そこから出た汁を鍋で煮詰めると、やがてやや黄色がかった結晶が出来はじめた。
「こ、これが砂糖か?」
「舐めてみてよ」
鍋の底に出来上がった結晶は確かに見た目は塩か砂糖かというモノであった。やや黄色っぽいけれど、市場に出回っている砂糖の多くは真っ白では無い。
ハルキスとヒルダがそれを舐めてみると
「甘い」
「これ砂糖ね」
「でしょー」
その言葉に、部族長達が舐めても、やはり砂糖であった。
「うおー、今まで漬物にしかならなかったのに、何だよこれっ!」
「これまで随分勿体ないことをしてたのね」
「え、じゃあ収穫して倉庫に入れてるこの蕪、全部が砂糖になるのか?」
大きな蕪一つから採れる量はそう多くはないけれど、数が集まればかなりな量になる。いやいや、ぜんぜん商売になる。価格で言えば、漬物なんかどうでもよくなる。
「絞りカスは勿体ないから、捨てないで畑の肥料にでもしてねー」
「おい、これ、すごいんじゃないのか、親父?」
式典の時に言われた時には、アリシアだし魔術的な技術がいるんじゃないのか、と思ったモノだが、実際は切って煮て絞って煮詰めるだけという、部族の人間だけで分担できる作業で砂糖が出来るとなれば話が変わる。
「うむ、皆で集まって、今あるアレをどうするか考えよう。来年の春のこともな」
「アーちゃん、これ、モートレルでも教えて!」
「うん、そうすると、地球の料理が持ってきやすくなるからねー」
最初にアンナマリーが砂糖を自由に使えると驚いていたくらいには、砂糖はまだ値段が高い。けれど甘蕪の増産が上手くいけば、デザート系だけでなく、普通の料理もフラム王国で作りやすくなる。
「領主が2人、友達でよかったわね」
アシルステラにいなかった3年間が無駄になっていなくて良かったと、最近のエリアスは安堵している。
「アンナマリーの家も領地があるんだけど、エバンス家の土地は甘蕪の栽培には向かないのが残念だけどね」
* * *
この後は、これから来る冬用の料理としてホワイトシチューの作り方を教えた。家庭用だけでなく、旅人向けの宿もあるから、寒いあの町にはちょうどいい料理だと思う。
次はまた別の料理を教えに来ると伝えて、エルドリートの町からモートレルに帰ってきた。
あれからもう少し、アリシアがいる間にと、人を増やして砂糖作りは続けられ、無事に出来たことから、今後あの蕪をどう扱うのか、と話し合いをするそうだ。
「アーちゃん、蕪を手に入れてきたわ。ついでに蕪の流通を止めるわ。どうせ人気ないし」
蕪はパスカール家が管理する土地で作られているのが殆どなので、出荷を止めるのならどうにかなる。しかもハルキスのところよりは耕地の規模も狭くて、収穫量は少ないから、パスカール領の市場にはそれほど影響は無い。
比較的寒い土地でも元気に育つから植えていただけで、あまり平民達の需要は高くない。
この話にはルハードもやって来て、人気の無い作物から砂糖が精製できたことに驚いて、家族会議が始まるところで、アリシアは館に帰った。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。