ちょっと一息いれたら -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
最後に王都ラスタルの冒険者ギルドに寄ってみることにした。
ここは本当に懐かしい、冒険者としてのスタート地点になったギルドだ。
3年ちょっとぶりの建物だけど、当然のように何も変わっていない。
「よしよし、懐かしいなー」
最近の冒険者達はどうなのだろうかと、上機嫌に入っていくと、いきなり職員に止められた。
「申し訳ありませんが、アリシア様にご紹介できる仕事はありません」
「確かにまだ登録はあるんだろうけど、もう冒険者は廃業したから依頼を受けに来たわけじゃ無いってばー」
式典は数日前だから、さすがに町の人は皆アリシアの今の姿を知っている。貴族で英雄のアリシア様がまた冒険者として来られても困ると、止められてしまった。
「ボクはこの後学院に戻るから。単にラスタルの周辺がどういう状況なのか見に来ただけだってー」
「そうでしたら」
と通してくれた。
もう夕方も近いので、冒険者達の姿は多くない。余程急ぎの案件でも無い限り、まさか今から依頼を受けるなんてことは無いから、他の冒険者達も明日以降にどうしようかと見ているだけだ。
とはいえ、アリシアが来た、となんか目立ちそうなので、手早く確認を済ませて帰ろうと、依頼の掲示板をさっと見て回る。
「商隊の警護、北の街道方面が多いねー。何か出るのかな?」
ラスタル周辺に魔物が、とか野生の動物が、とか捜し物、別方向への乗合馬車の警護とか様々あるけれど、北の街道行きが多めだ。しかも警護にしては依頼料が高めになっている。
なぜか理由は書かれていない。また例の、ここだと窓口番号が違うけれど、怪しげな依頼なのかな、と思っていると
「ここだけの話ですが、山間部でドラゴンが確認されたそうなんですよ」
さっきの職員さんが、新たな依頼を貼りにやって来た。
「その事を皆知ってるから受けないの?」
北の街道向けの依頼は沢山あるけれど、どれも手を付けられていない。
北の街道はその先にある町にへの、山間部を貫いていく最短コースなので、利用者は多い。
ただ、そこを通らなくてもその先の町にたどり着ける別ルートはあるけれど、かなり大回りすることになる。
「被害は出ていないのですが、騎士団からも討伐隊が組まれるそうです。何せドラゴンですから…」
「あらら」
ドラゴンといっても大小あるけれど、その辺の詳しい情報が無いのであれば、中々動けない。
自分達には楽勝でも、やはり世間的には強力な存在であるから、討伐にはそれなりの準備が必要だ。討伐隊が動き出すにもまだ時間がかかるだろう。
まあ、国が動くというのであれば任せておく方がいい。アリシアに依頼が来る事も今は無いから、貴族になったからといって、勝手に騒ぐのも場違いというモノ。
ドラゴンがラスタルに飛来するというのなら話は別だけど、今のところラスタル自体は平和そうなので、事情はを頭に入れておいて、ギルドを出た。
* * *
夕食を終えたアリシアは、ワインの件を伝えに早速ヒルダの屋敷に向かった。向こうもディナーは終えているけれど、今日は長くなる話ではないから、すぐに帰る予定だ。
ワインについて、どうやって冷やそうかと相談したら、お酒を飲むお店に詳しいフィーネから提案があった。赤と白で良いといわれる温度も聞いたので、それを早速やってみようというワケだ。
揚げたてのポテトチップを持って、屋敷の食堂にやってきた。レイナードも同席してもらっている。
「あのサクサクのやつね」
「まだ食べないでねー」
アリシアの注文通り、小さめの手桶に井戸水を入れて、そこにワインのボトルを浸けてもらっている。それから長めのスプーンを一本借りた。
スプーンには氷属性の、先程考えた低出力の補助魔法を付与して、手桶に入れた。
「なんか冷えてるわね」
氷属性でありながら水は凍る事は無い温度まで低下していき、ワインボトルの表面に水滴が付いた。
「この飲み方はどう?」
いちいち一杯ずつを冷やすよりかは、持続時間が数時間程度の補助魔法を付与した何かを水に沈めた方が効率が良いと考えた。
地球のバーやレストランなどでも、氷水にボトルを入れて運んでくるという話を聞いたので、それと煮たようなことをやれば良いのではと、急遽低出力の補助魔法を作成した。
狙い通りの温度に冷えたワインをグラスに注いで、二人に出した。
「父さんと上の兄さんは期待してるみたいなんだけど」
「あらそうなの?」
ヒルダとレイナードは冷えたワインを飲んだ。
「んん、良いわねこれ」
「向こうの世界ではこうやって飲むのか?」
「常温を好んでる人もいるけど、冷やして飲む方が多いかなー」
「夕食に飲んだ同じワインなんだが、大分のどごしが違うね。これはいいよ」
どうやら2人とも気に入ってくれたようだ。
「お父様にも話をしてみるわ。そのスプーンを使えば良いの?」
「これはエンチャントで魔剣化してるよ。補助魔法を掛けただけだからね。だから飲む前に自分でやって。2人とも出来るでしょ」
「アーちゃん、考えたわね」
確かにヒルダは冒険中にこの程度の魔術なら使えるように仕込まれている。魔法の正体が解れば、大した問題では無い。
レイナードも魔剣化なら問題無く使えるから、術式さえ教えてしまえば、後はもう飲みたい時にやって貰えばいい。
「スプーンじゃ格好悪いから、棒とかなんかナイフみたいな見た目の平たい板でも作ればいいんじゃないかな」
武器じゃなくて食器なので、そんなに精巧に作らなくていい。金属を平たくして貰って、手桶からはみ出るくらいの場所にグリップでもつければ、小道具として見栄えもいい。
「レイナード、早速明日鍛冶屋に頼みましょう」
「そうしよう」
実家の方でも馴染みの鍛冶屋さんがあるから、そこで作って貰うように言っていこう。
* * *
霞沙羅のところにシャーロット来日の日が決まったと連絡が入った。
入居する部屋は残された一部屋で、先に色々と生活に必要な荷物を送るってくるそうで。受け取っておいて欲しいとのことだ。
荷物の開封は、シャーロットが到着してからだ。
部屋の内装や家具類の説明は事前にしてあるので、そんなに多くの荷物が送られてくることは無いだろう。
「久しぶりに3部屋が埋まるのだな」
女子エリアがフィーネだけになったのが6月頃。9月にアンナマリーが来て、久しぶりに女子部屋が全部埋まる日が近づいている。
「無理にイギリス料理は出さなくていいと言われたぜ」
「何でです? 色々調べたのにー」
「折角日本に行くから、日本で食べられている料理を出して欲しいと言われた。日本料理限定ってわけじゃなくて、この家で食べているモノでいいという事だ」
「そうですか? でも中にはイギリス発祥の料理もありますけどね」
そういう事なら気が楽になった。お箸を使う料理は最初は無理そうだけれど、スプーンとかフォークで代用出来るモノにすればいいかもしれない。
「私のように、ラーメンとかは大丈夫なのですか?」
「アンナと同じようにフォークで食えばいいんじゃないのか?」
今日の夕飯はラーメンセットの日。塩ラーメンと餃子と炒飯だ。中にはお箸じゃないと食べにくい料理もあるけれど、アンナマリーは何とかフォークで食べている。
「ラーメンだの焼きそばだのが食いたいらしいぜ」
「来る前から食の話であるか? ロンドンの小娘とやらはなかなかの食いしん坊じゃな」
ネット同士での入館前の説明時に、こういう料理を出してますという写真を見せたら、随分と食い付いてきた。かなり期待しているのはとても解っている。
「国は違いますけど、同じ大地の人ですからね」
「システィーのスープカレーも大丈夫ね」
アンナマリーの時のような苦労は無さそうなので、そこのところは楽そうだ。
後は、荷物を受け取って、当日は空港に迎えに行けば良いだけだ。
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