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ちょっと一息いれたら -2-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 以前に冷凍の札の説明を請われていたので、ちょっと余裕が出来たこのタイミングで学院に講義の場の設定をして貰った。


 あの札は学院ではもう解析事態は終わっているので、あとはどういうコンセプトで作られたモノなのかとか、使用方法の詳しい説明をすればいいだけなので、先日のような長丁場になるようなことは無い。


 レポート自体も以前に渡してしまっているので、説明をする対象は今回追加で参加する王宮の騎士達だから、専門的な質問は少ないだろう。


 それで、講義が終わったら明るいうちに実家に寄ったり、ちょっと町を歩いてみようかという予定だ。


 髪型をポニーテールにして、股下くらいまでの長い上着に、プリーツスカート、その下に短パン。ゆったりした袖付きの裾が短いジャケットを上に着て、黒のガーターストッキングとブーツ、という女子っぽいコーデで学院にやって来た。


「うーん、今度からこれにしよ」


 ラシーン大陸に合う普段着は無いけれど、エリアスの意見を取り入れつつ、ファンタジーなゲームとかアニメを意識した服装にしてみた。


 女性の服だけれど。


「コスプレも通販出来るからいいよねー」


先日大賢者に渡したレポートをコピーして、今回は書類を入れた大きめのリュックを背負って学院にやって来た。


 ラスタルでの式典を終えて、本格的にフラム王国へと帰ってきたアリシアは、今回も顔パスで正門から入っていく。


階位11位になったといってもまったく偉そうでも無いアリシアは、知った顔の教師に会えば生徒時代と同じやや馴れ馴れしい挨拶をして、指定された講堂の一つにやって来た。


 時間にはまだあるけれど、王宮からは騎士関係の人がもうやって来ている。


 騎士関係の人からすれば、自分達の食事が良くなるのだからと、若手からベテランまでかなり真面目に聞きにきているようだ。


「アーちゃんはまたそんな服を着テ」

「式典も終わったんだし、もういいじゃん」


 アリシアはこういう人間、という事は皆に知られているのだから、王宮にでも呼ばれない限りはこれでいい。


 実際の所、これから王宮に呼ばれた時にどうしようかと思っていたら、エリアスが執事キャラのコスプレ衣装を見つけてきたので、今はそれが納品されるのを待っている状態だ。


 服装はともかく、結局デバイスの接続障害問題はまったく解決していないので、今回も出席者に向けて小型ディスプレイを設置するのだが、王宮関係者も来て参加者人が多くなる事が解っていたから、増幅器も持ってきている。


「またアーちゃんはそんなモノを取り付けテ」


 テキストを配ってもらっているルビィは、またアリシアが妙な機材を記録盤(デバイス)を取り付けたので、慌てて教壇にやって来た。


「こんな機能つけたら学院の機材が使えなくなるよ」

「そういうんじゃないんダ」


 増幅器から魔力素子が指定の場所に多数飛んでいき、出席予定者50数人分の小型ディスプレイが設置された。


 やがて学院関係者も多数やって来ては、ルビィと同じように、記録盤(デバイス)の下に設置された機材について説明をせよ、とか言いだしてきたけれど、また今度という事で了解してもらった。


「それでは冷凍の札についての説明を始めますね」


冷蔵の札は、日本での生活の中で、スーパーの食品売り場にある冷蔵ショーケースに端を発したモノで、ある程度の食材カテゴリーに分けて、賞味・消費期限、適正温度を決めて、最終的な温度を定めた作りになっている。


 トレイや牛乳の缶に貼り付けて使うのが基本となっているけれど、冷気を漏らさないように微弱な結界も発生するようにもなっている。


 そして効果時間はおおよそ丸一日と決めてある。


「時間はまだまだ延ばせそうだが?」

「衛生的に見て、清掃時間をとった方がいいかと思いまして」


 外気に触れているので、ずっと機能していると、便利さにかまけて容器が汚れたまま使われる可能性がある。効果が終わるからこそ、ただの入れ物になり、清掃の機会も出来るというモノだ。


「二日、三日の移動がある時は、札を張り替えて下さい」


 王都となれば魔法学院があるわけで、札はいくらでも作れるので、アリシアの言うとおりの方法で延長は出来る。日本の軍でもこれは理解してもらっている。


「学院で解析してもらったと思いますけど、札の魔術基盤に問題が無いようであれば、時間延長とかで触らないで欲しいです。要望があればボクの方でも考えますので」

「アリシア殿がそう言うのであれば、騎士団ではしばらくはこれで行こうと思う」

「騎士団の方で何か要望があるのだとすれば、魔法学院に伝えて貰えるかな? 我々からアリシアに伝えよう」


 出席していた賢者の一人がフォローをしてくれた。


 レポートには効果範囲も示されているので、騎士団ではこれに対応したサイズの什器を用意して、運用を開始するそうだ。


「あとはキャンプ用の料理などを提案してくれると有り難い」

「そうですね、それはおいおい」


 騎士団も学院も納得したようなので、今回の講義は予想よりも短めに終わった。


  * * *


 学院を出ると。アリシアは実家に向かった。


 時間的にもお客で混み合うことになる夕飯にはまだ時間があるので、夜に向けた下ごしらえはしているけれど、忙しくはないハズだ。


 カリーナの宿に日中に来るのは久しぶりなので今ようやく気が付いたけれど、昔より看板が大きくなっていて、宿部分もやや部屋数が多くなっている。きっと儲かって増築でもしたのだろう。


 家の前ではちょうど母親が掃除をしていたので、声をかけてお店の中に入っていった。


「あんたはまたそんな格好して」

「母さんのせいでしょー」


 アリシアという名前は間違いなく女の名前だ。三男が生まれる時にどうしても女が欲しかったと未練がましくこの名前をつけられて、妹が生まれるまで女の子のように育てられてしまった。


 アリシアが4歳の時に念願の長女が生まれてからは治まったけれど、そのせいでアリシアはどっちつかずの性格になってしまった。


 そして何が悪いのか知らないけれど、容姿まで女に寄った状態に成長してしまい、少年になっても男らしさはどこにも無いまま。何ならプロポーションだって、胸の膨らみが小さな女子と言われてもおかしくない状況だ。男にしては腰もくびれて、お尻もやや膨らみ、全体的に曲線的な女性体型に近い。


体型については本人も案外気に入っているのだけれど、性格とか、そう育てたあなたが言いますか、と思う。


「おう、アリシア。式典は大変だったな」


 上の兄が、夜の営業用の串焼きの準備をしていた。


「皆良い席もらっちゃってさー」


 アリシアは兄と話す為にカウンターに座った。


 パレードの時、アリシアの家族だからと、同じくラスタルに住んでいるルビィの家族と横並びで、最前列に席を用意してもらっていた。


 ただの宿屋一家にしては、一生に一度有るか無いかの貴重な経験だっただろう。


「アリシアか、またそんな服装をして」

「父さんが止めなかったからでしょー」


 奥から、長男と一緒に夜の準備をする為に父親が出てきた。


「だが嫁さんが出来たんだろ、よかったじゃないか」

「今度連れてこいよ」


 《女神様なんだけどねー》


「4人の子供が全員、自分の居場所を見つけたわけだしな。父親としては嬉しいね」


 父親は煮込んでいたスープを混ぜ始めた。


「ルビィちゃんが言ってたんだが、俺らが知らない料理を作ってるんだってな。なんかこの店で使えそうな料理はないか?」

「あるとは思うけどねー」


 飲み屋兼大衆料理屋なので、材料さえ揃えばいくらで持ってこれる。一度に大量に作るような事も無いし、ヒルダの騎士団のような締め切り時間に追われるような事も考えなくていい。


 普通の家庭料理やファミレス、居酒屋、コンビニスナックからいいのはないか、探してみよう。


 あとはヒルダの所で実用化されている料理とか。


「ちょっとなんか考えておくよ」


 使えそうな料理を思い浮かべながら、アリシアは、厨房の棚に置いてあるワインが気になった。


「義姉さんて、今も魔法を使えるよね?」


 上の兄の奥さんは学院出身者でアリシアの先輩にあたるので、魔術士の称号を持っている。


 卒業後はしばらく事務方の職員として働いていたけれど、結婚を機に退職している。


「今は同級生の私塾を手伝って、子供に魔法の基礎を教えたりはしているぞ」

「だから今いないの?」

「毎日ってワケじゃないんだけどな。今日はそういう日だ」

「へー。ねえワインかエール頂戴。家で飲んでるのでも良いけど」

「じゃあこれでも飲むか?」


 父親がちょうどスープにワインを入れていたので、それをコップにもらった。


「これを冷やして」


 アリシアはつがれたワインに、微妙な冷気を流し込んだ。


「こんな飲み方してるとこって、ラスタルじゃ無いよね? いいのかどうかちょっと考えてみてよ」


 そういえばヒルダにも伝えていない飲み方だ。こっちには冷蔵庫が無いから、アルコール類は常温で飲むのが普通だ。あの冷凍の札が重宝されようとしている世界なのだ。


「お前が飲むんじゃないのか?」

「飲んでみてよ、冷やしただけだから」


ワインを返されて、父親は首をかしげながら飲むと


「おお、これ良いじゃねえか」


 適度に冷たいワインが喉を通り抜けていくのは初めての感覚だ。


「お前も飲んでみろ」

「なんだよ、親父」


 上の兄も飲んだが


「むう、いいじゃねえか」


 ちょうど串焼きの準備中で火を扱っていたので、冷えたワインが気持ちいい。


「いいじゃないか。だが手間じゃ無いのか?」

「一杯ずついちいち義姉さんに掛けてもらうのも大変だから、ちょっとやり方を考えておくね」


 館だと皆普通に冷蔵庫からお酒を出すから気にしていなかったけれど、こっちの世界は飲み物を冷やして飲むことはあまり無い。せいぜい暑い日にバケツに汲んだ井戸水に瓶を浸けておく程度だ。


 《でもそれでいいかも》


 テレビでもそういうビジュアルで出てくるワインを見たことがある。氷を作るわけにはいかないから、水をどうにかすればいい。


「早くやり方を決めてくれ」

「ちょっとヒーちゃんの家で実験してみるよ」


 困ったらヒルダだ。美味しい食事が食べられるなら協力してくれるだろう。


「あとこれ、ボクが作ったぬいぐるみ。子供達にあげてね。何人いるか知らないけど」


 リュックから適当に持ってきたぬいぐるみをカウンターに置いた。


「お、それは喜ぶな」

「じゃあボクは、もうちょっと町を回ってから帰るよ」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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