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戦いは終わりを告げる -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 イベントの締めである貴族達を集めた晩餐は、立食のパーティー形式で行われた。


 主役の中の主役であるアリシアは、何となく見覚えのある貴族達にひっきりなしに労いの言葉を掛けられつつ、この3年間何をしていたのかという問いに何度も答えさせられて、それでも笑顔で通した。


 その合間に勧められた何かいいモノを食べた気がするのだが、あまり記憶に入ってこなかった。


「あー疲れたー…」


 挨拶に疲れて、声がかけられなくなった頃合いにアリシアは会場のテラスに出た。


 故郷の夜なのだが、ここは王宮の中。実家のある周辺は宿屋や飲食店が並んでいる場所だし、今日は町中がお祭り騒ぎだから、いつにも増して賑やかなんだろうなと思う。


 まあここも賑やかなのだが、お上品な賑やかさ、というか華やかさだ。


 一応爵位を貰った自分ではあるけれど、いきなり貴族だと言われてもちょっと向かない場所。ただこの国出身の人間として、今日はこの場所にいなければならないんだろうなと溜息が出る。


「アリシアもか」


 ハルキスもテラスに出てきた。ハルキスは次期部族長が確定しているとはいえ、田舎住まいだから、こういうお上品な場所は今でも苦手だ。


 ただ、ハルキスの周りには貴族達ではなく、長モノ使いの騎士達が囲んでいて、和気藹々とレクチャーしていたような気がする。


「たまにここの騎士団の教員として呼ばれていたりはするんだがな」

「それでも苦手?」

「オレが来たからといってこんな晩餐にはならないし、騎士といってもどっちかというと気の荒い連中と安い酒をあおって肩を組んで、というのが楽しみだからな。お上品な連中は苦手だ」

「何かみんなはたどり着いたところでちゃんとやってるんだなーって、思っちゃうねー」

「お前が3年も姿をくらましていたのは、まあもういい。妙な場所に行ったが、お前はそこで上手くやっているようだしな。ところで、そのエリアスとか言う女神さんとはどうなんだ?」

「最初はうなされたりとかでケアが大変だったけど、ずっと側にいたし、向こうの国を色々旅したりして、今はいいパートナーだよ。家事とかはちょっと苦手だけど、館の事ではやれることをやってくれたり、色々と気を使ってくれるねー」

「一度会ってみたいね」

「みんなそう言うね。みんなで天空魔城まで行っておきながら、結局ボクしか会う事は無かったんだからねー」

「魔女の事を問い詰める事はしねえよ。一度会ってみたいのさ、お前が選んだお相手ってヤツをな。しかし女神と駆け落ちか。アリシアらしいと言えばそうか」

「近々会いに行くよ。ハルキスの所はちょっと甘い蕪を作ってるでしょ? 収穫期に入ってるあれの件で話すことがあるから」

「人気の無い漬物の蕪だぜ?」

「あれさー、砂糖が取れるんだよ。そもそも蕪じゃないみたいだけど、今いる世界だとあれからの砂糖の方が多く流通してるから」

「漬物でしか食えないあの蕪からそんなものが?」

「モートレルで売ってたから、実験済みだよ。だから作り方を教えに行くよ」


 需要が無いわけではないから栽培しているけれど、それが高級品の砂糖に化けるとなれば、来年の耕作面積も考えなければならない。まずはアリシアに来て貰って、それを町の皆に見せて、族長である父親に方針を決めてもらおう。


「お、おう、待ってるぜ」


 相も変わらず食べ物の話だが、3年間も向こうで何をしていたのだろう。だがこの話は無視できない。とりあえず町に帰ったら蕪を漬物にするのを待って貰おう。


 二人で話をしていると、テラスへのドアからちらっとアンナマリーが顔を出して、引っ込んだ。


「じゃあオレは中に戻るわ」

「あ、うん」


 晩餐会場に戻っていくハルキスは、ドアの脇にいたアンナマリーに声をかけたようで、入れ替わるようにドレス姿のアンナマリーがやってきた。


 《やっぱりいいとこのお嬢様なんだよなー》


屋敷であっても常にドレス姿というわけでは無いだろうけれど、普段から着こなしている事は解る。床に付きそうなほど長いスカートの裾に足を取られること無く、華麗に歩いてくる。


「事前にアンナマリーに作法とか聞いておいてよかったよ」


 上級貴族出身で、場慣れしているアンナマリーは遠目に見ても、貴族の人達へ上手に対応をしていた。今回は王宮での振る舞い方を知らないアリシアの方が助けられる形になった。


「今はやどりぎ館にいる方が気楽だ。管理人のせいだな」


 テラスには2人しかいないから、口調が元も戻ってしまっている。さっきまでは外向きの、立派な貴族のお嬢様という口調だった。


「とりあえず、これからも色々と御教授お願いします、アリシア様」

「ボクもねー。形だけだとはいっても、貴族にされちゃったし、振る舞い方とかね。旅の間はヒーちゃんにみんな頼りっきりだったけど、もうそんなに頼れないからねー」

「だとしたら、そろそろ中に戻った方がいいぞ。宴の終わりが近いとはいえ、会場に主役のアリシア様がいないのはいただけないな」

「今日はアンナマリーの言う事に従いまーす」

「そうそう。それに父上に変な勘ぐりをされても困る」

「はーい」


 晩餐会はあと少し。将軍の娘と2人だけでいるのも具合が悪いので、さっさと晩餐会場に戻る事にした。


  * * *


 アリシアにとって永遠に続くかと思われた長い長い晩餐会は無事に終わり、王宮で一晩泊まり、王族達と朝食を共にして、今回のイベントは終わりとなる。


「今後の生活はどうだ?」

「任された下宿があるので管理人中心の生活ですが、王都と5人の居場所へはすぐにいけるようにしておきたいですね」


 神様に任された下宿の管理、ということもあり国王様も何も言えない。他の貴族からも「それなら仕方が無い」と納得されているし、むしろ光栄だとの声もあった。


 国王としてもヒルダのいるモートレルに繋がっているという安心感もあって、もう何も言ってこない。


 肝心の魔法学院へは既に何度も足を運んでいるし、王者の錫杖についての説明も終えている。


 学院に発注した事業についても、冷蔵の札のレポートを提出して、早くも協力してくれていることは、王宮魔術師もやっている大賢者タウから伝えられている。


 領主の任命は蹴られてしまったが、帰ってきてから、まだ2週間足らずでも、アリシアはフラム王国へ充分と言えるほどの貢献をしてくれている。実家もラスタルにあるからモートレルだけに入り浸れるという事は無さそうだ。


 それにかつて同じ戦場で戦った仲だ。ある程度我が儘を許してやるのも王の器量と言える。


「アリシアの持つ魔法技術は天望の座からから見ても特殊だと聞いている。その発想と技をもって、これからも王国の発展に貢献して欲しい」

「はい」


 他の世界から学んだ技術をフィードバックするという考えはあるけれど、今は料理を持ってきたいという考えが大きい。


 まあそれは一先ず落ち着いてから。


  * * *


 全ての行事が終わり、アリシア達はモートレルに帰ってきた。


「学院の分校でも何か講義をお願いしたいわね」

「騎士団でも頼む。剣の腕も勿論だが、これだけ自在に転移が使える魔導士は大陸を探してもそう多くはない。その技術を借りたい」

「宗派は違えど、アリシア様の神聖魔法はなかなかのものですから、是非ギャバン教にもご教授願いします」


 ヒルダ達は色々と希望を言ってきたけれど、それは後で考えよう。なんか気疲れしてしまったので、今日はお休みのアンナマリーと2人で下宿までさっさと帰ろう。


「アリシア様だ」


 またごっこ遊びをしていた子供達に声をかけられた。今は男の服を着ているけれど、髪型の関係ですぐに解ってしまった。


 この町にはアリシアも出入りすることになってしまったけれど、子供達はそんな事を気にせず英雄ごっこをしながら、走り去っていった。子供なんてこんなものだ。


 とにかく平和、それが一番。


「おっと、このパン買おー」


 パンの露店で売られていた食パンを一つ買った。


「そんなパンで何をするんだよ」

「ちょっと実験だよー。こっちので出来れば向こうの料理を持ってこれるって事だしねー」


 売る側もアリシアだと解っていても、もうあんまり気にしない。英雄とか言われている人物は、いつでも平民気分だ。


「さて、帰ろうか。新しい入居者の準備もあるしねー。まずはあの国の料理を調べないと」


 入居日はまだ決まっていないけれど、若い子が来るのでホームシックにならないような施策はしておこうと思うアリシアだった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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