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新しい日常生活の始まり -2-

 モートレル騎士団の昼食は食堂か、外食か、人によっては家の人間とか奥さんがお弁当を持って来るなんていう場合もある。


 ただ、食堂は1食のお値段がとても安いので、こちらで済ます人は多い。


「やったー、アンナちゃんのおまけ、楽しみ」


 一つ年上のサーヤ先輩が、伽里奈(かりな)から持たされたおまけのバスケットを見つけて喜んだ。


 同じテーブルに座っている女性小隊の人達は皆食堂の料理を食べているが、アンナマリーはいつも通りお弁当だ。


 伽里奈からのおまけは、アンナマリーのお弁当と同じ料理の追加だったり 追加のおかずだったり、焼き菓子だったりと日によって違う。


 今日はデザートのカステラだ。何にもデコレーションも無いケーキのスポンジ部分だけにも見えるカステラだが、シンプルで上品な甘さが小隊の中でも人気だ。


「アンナの所の管理人は本当に料理が好きなのだな」


 昨日のサンドも美味しかった。隊長のオリビアもおまけを楽しみにしている一人だ。


「この食堂で料理を作ってくれないかな」


 この食堂の料理は決して不味いわけではない。町の食堂と同程度のクオリティはあるから、平民出の団員には問題ないが、それなり以上の身分から見ると、量はともかく料理内容がやや寂しく感じる。


 そんな時に伽里奈が用意してくれるおまけはとても助かる。お弁当を食べているアンナマリーも、同じ小隊の女性達が喜んでいるのを見ると、やどりぎ館にたどり着けて本当に良かったと思っている。


「ヒルダ様も冒険の時の経験で、色々と料理に口を出してくれているのだ。パスカール領の食事は余所の領地に比べても料理の種類も多いと聞く。そのくらいアリシア様はすごい人だったのだな」


 英雄譚の中でも、ヒルダ達は何度も料理を楽しんでいるシーンが出てくる。まだまだ魔女戦争までは書かれていないが、最新刊ではとうとうアリシアが冷蔵技術を開発して、生肉と生野菜を持ち運び、キャンプ時にお肉を焼き始めたところだ。


 魔女戦争が終わってから比較的平和な世界になったので、どこかに行って戦争を行う機会は無いが、魔物や盗賊の討伐等はあるので、野営訓練は定期的に行われている。その際には当然、キャンプ地で料理を作るのだが、野菜はともかく、冬場を除いて生肉は持って行かない。あったとしてもたまたま道中で仕留めた兎とか鳥とかを食べるくらいだ。


 ここの騎士団でも、魔女戦争時にはアリシアのキャンプ料理を食べた者もいて、保存食では無い、鮮度の保たれた食材で作られた料理はお店で食べる料理と同等以上で、肉体的にも精神的にも助けられたという実績がある。


「各地で買った調味料も持ち歩いてたんですよね。そんな冒険者聞いたこと無いです」


 物語の中では、その旅で訪れた町で美味しかった料理を習得したりと、段々とバリエーションが増えていく記述もある。ここまで料理好きなのに剣術も魔術も一流の腕前なのだから恐れ入る。


「アーちゃんはちょっとおかしな子だったわね」


 軽くウェーブがかかった黒髪の女性、領主のヒルダがやってきた。


 ヒルダは食堂の様子を見に来て、女子達がアリシアと食事の話しをしたのに誘われてアンナマリーの所にやって来たのだ。


 領主でありながら、時々こうやって団員達の食事風景を確認したり、料理の意見を聞いたりと、改善に努めているのだ。貴族だというのに、2年間冒険に出ていただけあって、現場主義な面があって、それがいい方向に発揮されている。


「あら、それは?」


 食堂の料理では焼き菓子など出していないはずだが、このテーブルにだけあるのを見つけた。


「アンナの下宿の管理人が、お弁当のおまけで何か作ってくれるんですよ。今日はこの、なんだったか?」

「カステラです、隊長」

「そう、このカステラとかいうお菓子を用意してもらいいました」

「ケーキのスポンジ?」

「私も最初そう思いました。でも上品で甘いお菓子なんですよ。ヒルダ様もどうです?」

「じゃあ頂くわね」


 カステラの数は余裕があるので、ヒルダも一つ貰う事にした。勧められはしたが、あまりに地味な外見なので半信半疑だったが、一口食べて、とても美味しかったので次の瞬間にはもう全部口に入れていた。


「こんな食べ物、この辺にあったかしら」

「私も先日初めて食べました」


 冒険者として世界全部を旅したわけでは無いが、この国の周辺国には全て行ったし、南の島国にも、東の果てにも行ったが、こんな食べ物はどこにも無かった。


「アンナマリーの家の人はどんな人なの?」

「私より少し年上の男性です。料理を作るのはもう1人、オリビア隊長よりも少し年上の女性もいます」


 ちなみに、稀にお弁当が伽里奈ではない日があって、おまけはつかない。ただ、システィーの料理だって悪くはない。


 ヒルダは気になってアンナマリーの前にあるバスケットを覗いた。そこにはまだ食べていないサンドが残っているのが見える。


「ちょと貰える?」

「え、ええ、構いませんが」


 ヒルダは弁当箱から1カット分貰った。パンに挟まれているのは挽肉料理だ。挽肉を固めて焼いたモノが挟まっている。有り体に言えば四角いハンバーガーだ。パンにハンバーグとソテーしたタマネギが入っているシンプル仕様。


「ん、んん」


 アンナマリーはこんなモノを食べているのかと、ヒルダは驚いた。ありそうで無い料理。ジューシーな挽肉にはさりげなく味付けがされていて、トマト系のソースがかかっている。ソテーされたタマネギも甘みがあって美味しい。


「アンナマリー、あなたの家の人間を連れてきなさい」

「え、ええと、彼は彼で日中は忙しいので」

「ちょっと話をしましょう、空いていそうな日は無いの?」

「無いことは無いです」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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