二人の英雄 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
突然校内に警報が鳴り響いた。
校内に幻想獣が現れたので、まだ帰宅していない生徒は安全の為、近くにある校舎に避難するように指示が流れている。
「今度はカラス? もーそういうのは駆除しておいてよ」
伽里奈とエリアスが校舎の外を見るとカラスが山に帰って行ってる姿が見えるが、その中に幻想獣召喚用の何かを持っているのがいて、キャンパス中にばら撒いていった。
「いつもは気にしてないけれど、改めて見るとすごい数なのね。駆除するには手間がかかりそうね」
「とりあえずこの校舎を閉じるよ」
エリアスの力は探知が出来ないけれど、あまり大規模に使うと後で「あれは何だったのか」と問題になりかねないので控えてもらう。
なのでエリアスには部活動などで周辺にいた生徒達が校舎に逃げ込んだのを確認して貰ってから、伽里奈はこの普通科の校舎を防御結界で閉じた。
高校にも結界装置を付けてもらいたい。大学エリアには研究物や宝物庫があって、何が起きるか解らないから設置されていると聞いてはいるけれど、こういうのは良くない。
自前で結界を設置して、2人は1階にある職員室に向かった。この校舎にいる教師は、基礎魔術を教える人以外は魔術は使えないから、そんな少数に幻想獣の駆除を任せるわけにはいかない。
職員室前に行くと、文化祭の準備と部活などで残っていた100人近い生徒達と教師達が廊下に集まっていて、とりあえずの状況説明をしているところだった。
聞くと大学のエリアと付属中高のエリア両方に幻想獣が大量に出現したそうだ。
6年前に戦いが終わったとはいえ、この世界に住むのだから、幻想獣が出たらこうする、という教育はされているから、今の段階で余計な動きをする生徒はいない。
ただ、こんなに大量に一ヶ所に出現するのは厄災戦以降では初めてだから、生徒達は怯えているし、説明している教師もパニック気味だ。
「伽里奈、普通科の方には何もいないけれど、魔法術科の方は結構な数がいるわよ」
「え、そうなの? でも魔法術科だし…」
伽里奈も意識を飛ばして、魔法術科の様子を確認すると、エリアスの言うとおり、10体の幻想獣と、一人の武装した人物の姿があって、校舎に向かって発砲している。
ただ、外から校舎建物を狙っているだけで、積極的に生徒を狙ったり校舎内に入っていこうという感じは無く、牽制をしているように見える。
「大学の方の研究棟が本命みたいで、数でもって無理矢理入り込もうとしてるようね」
「校舎を分断させて、研究棟に行かせないようにしてるのかな?」
魔法術科の方は教師達が出てきて、応戦を始めたが、結構数も多くて防戦一方になっている。生徒も混ざっていて、中には見知った顔がいる。
「ちょっと、魔法術科の方を見てくるよ」
「いいの?」
「もう結界張っちゃってるし、それに知り合いの子が魔法術科で応戦してるんだよね。苦戦してるみたいだし」
一ノ瀬と藤井の二人だ。
「あなたらしいわね。でもそうじゃなかったらちょっと嫌ってたかも」
本当に仕方が無い。けれど自分が関係している場所で起きている事に対して、見て見ぬ振りをする人間であれば3年間も側にいるようなことは無い。
「エリアスは、ここにいてね」
伽里奈は学校の為に動くことに決めた。まずはここにいる教師に話をしてから、魔法術科の方に向かおう。
「誰でもいいや、ちょっと先生、この校舎はボクが結界で閉じたから幻想獣は入って来れないよ」
伽里奈はちょうど手近にいた、クラスの担任教師にこの校舎について説明をした。
「ど、どういうことですか、伽里奈君。あなたは魔術師じゃないでしょう?」
「後で説明しますよ。だから警備室に連絡を取って待機してて下さい。エリアス、ボクはこれから外に行くから、もし逃げ込んでくる人がいたら、これで結界を一時的に開けてね」
エリアスが周囲の確認をしてから結界を設置したから大丈夫だと思うけれど、念のため伽里奈は鞄からカッターナイフを取り出して、それに結界切断用の魔術をかけて手渡した。
「ちょっと、伽里奈君」
教師が止めるのも聞かないで、伽里奈は自力で結界を通り抜けて、校舎の外に出た。
「随分規模が大きいなあ、っと」
校舎の側には3体の幻想獣がもうやって来ていた。
『伽里奈、幻想獣の数は63体ね。全て幼態よ』
エリアスが数を報告してくれた。
「そんなに?」
明らかに「鐘」目当ての人間が仕掛けた囮だろう。この混乱に乗じて研究棟が狙われているのは間違いない。
「取り合えずこの辺に来た幻想獣は駆除するよ」
伽里奈は3体の幻想獣に対して、氷の槍を放つ。命中した槍はその体を凍らせたあと、幻想獣ごと砕け散った。
「エリアス、ボクの剣をくれる?」
アシルステラ製の魔剣だけど、霞沙羅から渡されている変換装置で、日本でも問題無く使用できるようにしてある。
「普通科の周辺にはもういないわ」
伽里奈は手元にやって来た剣を掴む。
「じゃあ魔法術科?」
「さっきと状況は変わっていないわね」
「わかった」
伽里奈は魔法術科の校舎に向かって走り出した。
* * *
魔法術科の校舎の方では、突如現れた10体の幻想獣と1人の武装した侵入者に対して、防戦一方となっている。
完全に不意を突かれて、混乱が生じてしまい、後手に回ってしまった。とりあえず校舎や訓練施設に残っている生徒を安全な場所に避難させ、警備担当の教師と、一部の警備補佐を行う生徒が後方に位置し、建物への攻撃を防いでいる状態だ。
現れた幻想獣は。1人の武装した人間に指揮されてい動いている。
幻想獣は大きなトラのような姿をしていて、魔法攻撃を素早く避けつつ、鋭いツメのによる斬撃や口から炎を吐いて翻弄してくる。
また武装した男の銃撃により負傷した教師数名が校舎内に撤退し、弾切れとなった今も、炎を纏った魔剣をからの火炎弾が飛んでくる。
たった1人だというのに、その腕前は元軍人や元警官もいる教師達を苦戦させている程だ。
「な、なかなか当たらないわね」
後方から教師を支援している一ノ瀬と藤井も、随分と慎重な姿勢を崩さない幻想獣を中々排除できないでいた。
先程ようやく1体が処分できたという所だ。
「もー、あんなの持って来るから」
「それはでも、仕方ないんじゃない?」
大学は教育機関でもあり、研究機関なわけだし、「鐘」のようなモノが運び込まれてくるのはしたがない。
愚痴っていると、いきなり幻想獣がちょっと下がって横一列に並んだ。そして、教師達と斬り合っていた男がその更に後ろに位置した。
「下がれ、全員下がれ。{魔法障壁}を張れ」
教師達が叫ぶと同時に、トラの幻想獣達が一斉に、火炎弾を放ち始めた。
「ちょっと、障壁って」
教師と生徒で慌てて全員揃っての{魔法障壁}を張った。
障壁に当たった火炎弾が轟音を立てて爆発するが、数発が校舎に命中し、ベランダが破壊される。
「これ、ちょっとマズくない?」
「{氷槍 乱}」
どこかから大量の氷槍が降り注ぎ、全ての幻想獣をまるごと串刺しにした。武装した男は間一髪、後ろに下がって、事なきを得たようだ。
「な、なによあれ」
誰もあんな魔法は使っていない。それに豪雨のように降ってきた氷槍とか威力がおかしい。
「一つの魔法を分割しただけだよ。ボクの魔法は威力が高すぎてねー、あんなのに一発一発撃つのは勿体ないでしょ」
突然現れた伽里奈が指を鳴らすと、氷と幻想獣が砕けた。
「先生方、あれ貰いますよ」
幻想獣の残骸の向こうで1人残っている男に向かって走り出した。
「なにっ!」
いきなりやって来た伽里奈に応戦しようと、男は予備で持っていた拳銃を構えようとするが、どういう事かホルスターが氷に包まれていて掴むことが出来ない。
「い、いつの間に!」
その僅かな時間で接近された伽里奈の剣に対応する為に魔剣で迎え撃つ。が、黒い魔力の刃を持った魔剣にあっさりと切断され、魔力の刃の性質を「打撃」に切り替えた横薙ぎの一撃で、男は十数メートル宙を舞うことになった。
「まあ大丈夫でしょ」
遠くに跳ね飛ばされてたけれど、着ていたプロテクターに守られ、多数の骨折はしているだろうけれど、とりあえず折れた魔剣を回収しつつ、男を引きずって、伽里奈は教師のところに帰ってきた。
「終わりましたー」
伽里奈は無造作に、運んできた男を地面に放り投げた。
「死んではいません。拘束して下さい」
「あ、ああ」
それを言われて教師の一人がどこかから出したワイヤーで男を縛り上げようと動く。
「キミは。ウチの制服を着ているが、誰なんだい?」
細かいことを言うと、魔法術科と普通科ではネクタイの柄と、袖のラインの色が違う。
「普通科1年の伽里奈=アーシアです。普通科の方の幻想獣は処分してきましたし、校舎に結界を張ってきましたので大丈夫です」
「え?」
「ちょっ、伽里奈アーシア、あ、あんたこんなに強かったっけ?」
助かったには助かったけれど、やって来たのはここに来るはずの無い伽里奈だ。相方の藤井と違って学校での接点は殆ど無いけれど、料理好きなだけでとてもじゃないけれど戦闘に参加できるような生徒ではなかった。
「ボクってば軍で霞沙羅さんのお手伝いしているくらいだからねー」
「伽里奈君て、魔法使えないんじゃ?」
「ホントは使えるんだよー」
検査装置で計っても魔力適正はないけれど、発動体に独自の調整をして、地球側の魔術に体を合わせられるようにしている。
「色々あって、ボクは魔法術科には入学できないんだ。それよりも先生方、状況はどうなってます?」
もうこれ以上、この校舎周辺には何もいない。一旦終わったようなので魔剣は鞘に仕舞った。
「そ、そうだな」
教師に数名の負傷者はいるが、校舎に引っ込んで貰って、治療中とのことだ。一ノ瀬達、生徒には被害は、数名が今さっき崩れたベランダの破片に当たったくらいだ。
「伽里奈アーシア、魔術師でもないのに、勝手に何してるのよっ!」
通常は大学を卒業する事で正規の魔術師として登録されるが、生徒でも環境によっては仮免のような仮登録魔術師はいる。仮登録であれば、予め届け出を出した環境下で魔術の使用が許されるが、未登録では授業や指定された教育施設では違反となる。
「ボクは協会に登録された、正規の魔術師だよ」
仕方ないので、登録証明書を見せた。
「仮登録証じゃない。なんでその年で正規登録なのよ」
「ボク、訳あって横浜大の卒業資格持ちなんだよー」
「か、伽里奈君、何者なの?」
今まで料理の授業だけだけど、普通科の人間だと思っていた伽里奈が正規の魔術師だ、と言われれば、さすがに藤井も正体を聞きたくもなる。
「一応、軍事機密」
「その剣も?」
「軍事機密」
軍事機密と言われてしまうと、もうこれ以上はどうしようもない。
「そうか、新城大佐から聞かされていたのはキミなのか」
元軍人の教師が思い出したようだ。以前から言われていた、普通科に一人魔術師を紛れ込ませている、という話を。
「あのー、状況を教えて下さい」
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