新しい出会いと久しぶりのおもてなし -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「領主の館ってのは、町を見下ろすちょっと小高い丘の上なんかにあるモノだと思っていたんだが、町中にあるんだな」
「町の地形とか領主のやり方次第ですよ」
ヒルダの執務室に案内された霞沙羅は、今回も興奮した様子で部屋の中をぐるりと見回した。
「私は今ファンタジーの世界にいるぜ。いやー、私のキャラはこんな所を旅してたのか」
前回は夜だったので、あまり風景が楽しめなかったけれど、今日はまだ明るい時間だからハッキリと見えるファンタジーな世界をたっぷりと楽しめる。
地方領主なりの豪華な、それなりにお金のかかった建物内は、霞沙羅には初体験で夢のような世界だ。
町のトラブルを解決した冒険者一行が領主の家に招かれて、クエストを受注するとかTRPGじゃよくあるシチュエーション。奇しくも霞沙羅はジャイアントバット討伐に手を貸して、今こうやって領主と話が始まろうとしている。そうかそうかと、霞沙羅は何かに納得している。
「おう、自己紹介だな。新城霞沙羅、あのやどりぎ館の一応の住民だ。向こうの世界では軍人をやっている」
軍人と聞いて、同じ英雄と呼ばれながらもアリシアとは違い、随分と堂々としている理由が解った。
この霞沙羅は背も高いし、綺麗な女性的スタイルでありながら、体は随分と引き締まっている。実際に腕前を見てはいないが、猛者であるヒルダから見ても中々に腕力もありそうだと解る。
そしてこの人がアリシアに「どさくさ紛れに復帰しろ」と言った人だ。
「失礼ながら、あの晩は何をされていたの?」
「後で解った話だが、ウチの国でも同じ人間が関わっているらしい事件が起きててな。あの町から遠く離れた場所で対処していたからいなかったんだよ」
「それで、向こうの世界で何をされて英雄と呼ばれているのかしら」
「私ら側では魔物とか魔獣ではなく、幻想獣という名前なんだが、そいつが成長しまくった大ボスのようなのが、ウチの島国を含めた大陸で暴れてな、各国が連携して数年がかりで殲滅したんだが、最後にそれを倒したのが私を含めた数名なんだよ」
「それは中々。さぞお強いのでしょうね」
ヒルダは霞沙羅が持ってきた長刀をちらっと見る。さっきはこの長刀で何かをしたわけでは無いけれど、これが魔剣である事はよく解る。
「先生は鍛冶が出来るから。自分達で魔剣を用意しちゃうからねー。ボクの魔剣の性質に手を加えてくれたのも先生だし」
単に黒い魔力の刀身が出るだけだったアリシアの魔剣がいつの間にか大幅に改良されたのは、霞沙羅の手によるモノだ。あの剣に不満があったわけでは無いけれど、遠距離もカバー出来ればという要望を反映させた結果があれだ。
「その槍を見せて貰えません?」
「槍に見えるが、ウチの国特有の別の武器なんだぜ」
槍にしては穂先が長く、湾曲していて大きい。しかしその穂先、というか刀身は非常に美しく、触れただけで切断されそうな雰囲気を持っている。
これに込められている魔術が何なのかまでは解らないけれど、見事な魔剣なのは解る。
「これをご自身で?」
「まあな」
「前にも言ったけど、先生はヒーちゃんのロックバスターも気になってるって。直したいところとかあったら相談してみたら?」
「6人の魔剣は私の勉強になりそうだから、金は取らないぜ。無理にとは言わないが、いつか見せて欲しいもんだ」
「そうですね、少し考えておくわ」
実際にアリシアの魔剣も見て貰っていて、大夫性質が変わってしまっているようだから、ロックバスターを見て貰ってもいいかなとは思っている。ただ、今日出会ったばかりなので、頼むのであればもう少し霞沙羅の人となりを見てから、というところだ。
そこでドアがコンコンと叩かれた。
「ヒルダ様、ルビィ様が到着しましたが」
使用人の一人が、来客を告げに来た。
感知装置の修理に不足している素材としてジャイアントバットから採れるパーツがあったとアリシアが言うので、引き取りに来て貰ったのだ。
「ここに通して貰える?」
「畏まりました」
使用人は玄関へと向かい、しばらくしてルビィがやって来た。
「うお、こないだの英雄とアーちゃんの嫁ガ」
女神、だと言葉が消去されてしまうので咄嗟に嫁に変更した。
「あら、ルビィは会った事があるのね」
「この前急にアーちゃんが私の研究室に連れてきてナ」
ルビィはなぜか霞沙羅を避けるように、エリアスの横に座った。
「ルビィさんどうしたの?」
「いや、何となく。それでパーツはどうしたのだ?」
「今は分校の人達に解体して貰っているわ」
「11体分か。それだけあれば一つは解決したナ。ところでこれは何ダ?」
ルビィは机の上に置いていた、細い棒の生えた鏡、携帯型魔獣感知装置を手に取った。さすがに形が特徴的すぎて目立つ。
「小型の魔獣感知装置だよ。色々欠点はあるんだけど、無いよりマシだって、ヒーちゃんに貸し出すの」
「さっきの襲撃で機能は確認できたから、あれば嬉しいわね」
霞沙羅の目の前に置いてあったので、挟まれているエリアスがルビィの目の前に移動させてくれた。
「町の設備よりは範囲が狭いし、ずっとは動かなくて、停止させて魔力チャージが必要なんだー」
とりあえずルビィは操作法を教えて貰い、起動させて様子を見る。まだ光点はあるけれど、数も減っているし、大夫町から離れていっている。
「またアーちゃんはこんな物ヲ。一体どうしたと言うんダ」
「霞沙羅さんの影響だと思うけど。色々と教えて貰ったからね」
「だから先生って言ってるわけ?」
「それもあるけど、学校の先生もやってるし」
「非常勤だがな」
「うーむ、アーちゃんはこっちにいない間に妙な人脈を作っているナ」
ルビィはこの魔工具に興味津々だ。確かに小さいし、効果範囲も狭いし、ずっとは動かないようだけれど、ちゃんと探知はしているし、何より大がかりな設備もいらないし、持ち運びが出来るという利点はある。
「持って帰りたイ」
「さすがにやめてね」
「それとそこの魔剣は何ダ?」
「霞沙羅先生の長刀っていう武器だよ。本人制作の」
「すごそうな魔剣だが、かかっている魔術が全くわからン」
「日本の魔術だからねー。錫杖の魔術ともまた別の世界の魔術だよ」
「くうー、アーちゃんだけ解るのが悔しイ」
「何だったらあのやどりぎ館にでも泊まりに来て、アリシアに教えて貰ったらどうだ?」
「そんな事が出来るの?」
「ヒーちゃんだって現に泊まったじゃん。宿泊部屋があるから、ボクかエリアスか霞沙羅さんの客人として招かれたら入れるんだよ。あの晩は結局ボクの知人て事になってたんだけどねー」
「嫌な予感もするしな」
あの時は管理人であるアリシアが同じく管理人のエリアスを使って招いたので、全く問題無く入る事が出来た。
今はヒルダが一人で路地裏に入る事は出来ないが、例えばアンナマリーに招かれた場合は、一緒にいれば路地裏からやどりぎ館に入ることが出来る。
「例えば、剣の相手をしてくれとか魔術を教えろと頼んだとしても、私が招いた事にも出来るぜ」
「ボクがお茶会に招いても入れるよー」
「じゃあアーちゃんに頼めばあの温泉に入れるの?」
「入れるよー」
「あらそうなの」
あのちょっとぬるっとした感じのある泉質は、緊急時であってもとてもよかった。あの時は楽しめなかったが、機会があればまた入りたいな思っていたところだ。
それに事件の後処理などでちょっと疲れている。
館はこのモートレルと繋がっているし、あの晩も鏡を使ってラスタルにも連絡が取れたらから、当然モートレルであっても繋がるはずだ。
「あの建物には温泉があったのカ?」
「あるぜ。女子には嬉しい美肌の湯だ。疲労回復もあるが、肌の老廃物が流れ落ちていくのが特徴だ」
「ぬうー、アーちゃんの料理を食べて温泉にも入れるのカ?」
「アンナマリーはなんてところに住んでいるのよっ!」
元々寮の修理があるといってやどりぎ館に来たアンナマリーは、あまりに居心地がいいのでそのまま住み着いてしまった。
寮を運営している側のヒルダも、さすがにあれならアンナマリーは出ていかないなとは思っている。
「日々の生活に疲れたから一泊したいわ。何も考えないでゆっくりしたい」
「場合によっては宿泊料は取るけどねー」
「大した値段じゃねえだろ」
日本で言えば一万円。お昼から一泊すれば三食付いて温泉入り放題とお得すぎるお値段だ。
「来る時は事前に言ってねー。元入居者とか、入居者のお客さんとかが来る事があるから」
「でも今は男性エリアに誰もいないから、気にしなければ何とかなるでしょ?」
「早速今日行きたいわ」
「今日はやめてね。ご飯の準備してないから」
「えー」
ヒルダは今日の襲撃の後始末と、小型探知機の運用についての話があるし、ルビィは素材を学院に持ち帰らないといけないので、今日はダメだ。それにもう夕方が近い。
「何だったら、私の魔装具や魔工具、聖法器も見せてやれるから、それで私の腕を判断しにきてくれ」
ちょっとガラの悪い喋りをするが、冒険中にはこういう人はいたから、その辺は誰も苦言を呈しない。それに向こうの英雄らしい自信の表れでもある。アリシアが敬意を示すくらいには有能な人のようだし、傍若無人な態度を取るような感じでもない。
近いウチに製作物も見せて貰いつつ、ちょっとお酒でも飲みながら親交でも深めよう。ヒルダとルビィは今日のところはそう結論づけた。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。