これからも頑張ろう -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
結局、霞沙羅は午前1時過ぎに帰ってきた。途中休憩などはあったようだけれど、魔術師達からの質問が多く、予想通り長引いてしまったそうだ。
「メシを作り終えたらお前はもう寝ていいぞ。私は一人で食べるからな」
「はーい。あと、どこで寝ます?」
「ん? んー、ソファーで寝させて貰っていいか?」
「宿泊部屋でもいいですよ? あっちの方がゆっくりと寝られると思いますし」
「いやー、何か動きたくない」
「そうですか。じゃあソファーをベッドにしておきますね」
麻婆豆腐を作り、スープを温め、焼き小籠包をレンジに入れ、遅い夕飯が出来上がった。
「炊飯器はここに置いておきますからね。食事が終わったら、食器とかはそのままにして貰ってもいいですよ。朝にかたしますから」
「そうさせて貰うか」
こんな夜中でも伽里奈は起きてきて、食事や寝床の世話をしてくれる事にはとても感謝している。
時間も時間なので、麻婆豆腐は辛さを控えめにされている。やや物足りなさはあるけれど、この後すぐ寝る自分に対して、あまり刺激の強い食べ物は良くないかと、良い調整をしてくれた。本当にこの館に世話になることが出来て助かっている。
厨房の方を片づけ終えた伽里奈は、ソファーベッドのベッドメイキングを始めてくれる。まさに至れり尽くせりだ。
ただ、深夜なので温泉に入れないから、そこは朝にでもサッと入っておこう。
「結局、階位とやらはどうなったんだ?」
「27位から11位になりましたよ」
「随分上がったな。世界を救えばそうもなるか」
「霞沙羅先生はどんな感じです?」
「まあ協会のランクは上がるだろうぜ」
軍では大きな事件も起こっていないから、現状のままだろうけれど、あれだけのレポートを出したのだから、魔術師協会では評価もされるだろう。霞沙羅は元々かなり上位ランクなので、伽里奈のような大胆な昇格は無いのは仕方が無い。
「お互い大変だったな。だが一旦終わりだ」
「ボクは色々と始まりそうですけど」
「その話はまたにしようぜ。お前は朝もあるしな。ああ私だが、一応いつも通りに起こしてくれ。気分次第で朝は食べないかもしれないが」
「解りました。カーテンは閉めて寝て下さいね」
アコーディオンカーテンでこの談話室は簡易的な個室になるから、閉めておけば朝食の準備で起こされる事は無いだろう。
本当にいいところに来たもんだな、と霞沙羅は思う。無論、前の管理人夫婦も良かったのは大前提だ。この伽里奈は年下でありながら、宿屋の生まれという下地もあるし、2年も冒険仲間の食事の世話をしてきた事もあって、とても気が利く。
邪龍様も、あの外見もあって、アリシアが来た当初は頼りなさそうな印象を持っていたけれど、すぐに館の仕事と日本の料理を覚えてしまい、ワガママにも応えててくれるので、ずっと好印象のままだ。
そんなアリシアはベッドを作り終えると、自分の部屋に帰っていった。
「向いてねえんだよな、こういうの」
伽里奈は自分の事を「格好いい」と思っているようだけれど、どうだろうか。壁に掛かっている鏡を見るけれど、見た目だけだろ、と苦笑いしてしまう。
「何作らせても美味いんだよな」
霞沙羅としては、伽里奈の性格がとても羨ましい。
* * *
今日の料理の授業では、先日の野外演習の反省会と次回予定の作成が行われている。
生徒達からのアンケートでも、今回からデザートが全員に配られた事に異議を挟むような人間がいるはずも無く、次回以降も各班からデザート用の予算をカンパし合って、全ての生徒向けに用意する事が決まった。
次回から春までは演習は校内で行うこともあって、料理は室内の調理室で行われるから、持ち運びの調理機械に比べて、設備は良くなるから、デザートにももうちょっと力を注げるかもしれない。
「アイスがいいという話しを聞きますが」
別の班の生徒が言った。
アイスは9月の暑い日に出したのでとんでもなく好評だった。あまりにも可哀想だという声が挙がったので土壇場になって、担当班には多めに、対象外班にはアイスクリームディッシャーひとすくい分を出す事になってしまった。
それが前回からのデザートは全員に作る、という方針のきっかけだった。
「寒いのに?」
「伽里奈、食べる場所も校内で暖かいという事を忘れるなよ」
「そうだった」
寒い冬であろうとも家が温かいのでアイスの需要が減らない、それが北海道だ。
話し合いの末、次回は三種類のアイスクリームをしようと決まった。材料的にもそこまで高くならないし、手間もそこまでかからない。
そして料理のテーマは「カレー」だ。カレーをメインとしたメニューを予算内で作る。やっぱり軍といえばカレーは外せない。
普通のカレーでもいいし、インド風でもいいし、ドライカレーでもスープカレーでもいい。題材としては馴染みがありすぎであっても、意外と選択肢が多く、これはこれで悩ましいテーマが与えられた。
「断然スープカレーだよな」
と別の班ではスープカレーに決まりそうだ。
他の班と内容が被ってもいいのだけれど、どうしても先に「これを作る」と言いだした班のモノを避けるという考えになってしまう。
今までは料理の指定は無かったけれど、今回は明確に「カレー」と決まってしまったので、選択肢が限られている。しかし何の工夫もないカレーは作りたくない。
「函館のレトロ風のカレーもいいと思うんですけど」
伽里奈の班の一人が言い出した。函館には日本でも古くからカレーを提供している洋食屋さんがあるから、それを参考にシンプルに攻めてみてもいいような気がする、と言う。
「あれを作ろうとすると時間が足りないような」
そこまで豪華なカレーでは無いけれど、仕込みから煮込みまで、結構な手間がかかっているので、調理時間が限られた講習であれに近づけるのは無理だろう。
「これなんかどう?」
授業に関する事なので、手持ちのスマホを活用するのも許されている。藤井はネット上の写真を見せて、とある一つの料理を提案してきた。
「それカレー?」
「ここにカレーがかかってるじゃない」
スマホに表示されているのはトルコライス。どれが主役か解らない料理だが、確かに画像のピラフにはカレーがかかっている。
以前に横浜で食べた中華街のカレーはどうか、と見当違いな検索をしていた伽里奈は、いいアイデアなんじゃないかと思い、検索を取り消した。
「単純にカツカレーを出すよりは豪華でいいでしょ?」
カツとピラフなどのライスとスパゲティーが基本で、カツにはカレーをかける場合もある。
「ボリュームあっていいよねー」
たまにやどりぎ館で作る事があって、あれはあれで好評だ。見た目が楽しいし、北海道では見かけない料理なのでインパクトもある。
「じゃあこれでいいわね?」
班の皆からも賛成されたので、次回はの料理トルコライスになった。どういうトルコライスにするかは次回にアイデアを持ち寄るという課題は出来たけれど、そうでないとこの授業は面白くない。
しかしカレーが作れるなら、これもフラム王国に持って行けるのではないかと考えてしまう伽里奈だった。
* * *
千歳市には政府が管轄している立ち入り禁止区域がある。
厄災戦中に幻想獣の発生スポットとなった場所で、かつては空港がすっぽり入る程の広大な土地が厳重に柵で覆われていたが、現在も軍によって日夜監視されている場所が残されている。
元々は農地や原野であったこのエリアは、掃討作戦の結果空き地となってしまい、まだ人は戻ってこない。
それは厄災戦が終わって6年が経ってもなお、今でも他の地域に比べて幻想獣の出現が多いからで、その発生を確認する為に、木々で覆われないように定期的に伐採が行われていて、だだっ広い草原になっている。
寺院によって土地の浄化が行われているので、これでも全盛期の半分以下になっているのだが、人が住めるようになるにはまだ時間はかかる見込みだ。
その立ち入り禁止の敷地に2人の女性の姿があった。
「召喚玉は採用されましたが、陽動用には数が足りないと、大量にご所望とは」
背の高い事務服姿の女性は、呆れたような口調で言った。
「あの男、単なるコレクターじゃないの。現場も外注だし、本業が儲かってるから金だけはあるのね」
女子高生のような女性は言い値でお金はもらっているのでニヤニヤしている。
2人は「鐘」を強奪するその準備でこんな所に足を踏み入れているのだが、面積はあるけれど浄化が順調に進んでいる土地なので幻想獣の発生は多くはなく、、今日は残念ながらどこにも姿は無い。
先日は3体ほどいたのでとっ捕まえて、お試しという事で小樽の外れにばら撒いてやったが、残念ながら最終的に望まれている数は、ここでは確保できそうにない。
「一応、予行用の数は確保しましたので、東京にでも行きますわ。あそこならまだいくらでもいますからね」
「なんかもう行ったり来たりねえ」
そう言って2人の女性は空間転移を使い、東京の元都心部へと跳んだ。
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