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これからも頑張ろう -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 ようやく階位授与の日になり、アリシアは学校が終わるとすぐに学院に向かうべくやどりぎ館に帰ってきた。


 今日の夕飯は麻婆豆腐なので、式を終えて帰ってきても問題なくいつも通りに提供出来る。一応材料で足りないモノが無いかも確認しておいた。


 その麻婆豆腐を楽しみにしていた霞沙羅(かさら)は、関係者へ事件のレポートの講義を行っている時間だ。自分の時と同じ異世界魔術なだけに、魔術師からの質問責めにあうことは想像に難くなく、先に終わった者としては頑張ってとしか言いようが無い。間違いなく帰りは遅くなるだろうから、霞沙羅(かさら)の夕食は帰ってきてから作る事になる。


 せっかく楽しみにしているのだから、レンジでチンは可哀想だ。


「いい結果が出るといいわね」


 今日もエリアスに送られて、アリシアは学院の受付にやって来た。今回は顔パスで通して貰って、大賢者タウのいる学院長室にやって来た。


 この部屋に入るのは、冒険者になる時に挨拶に来た時以来なので、久しぶりだ。


 ノックして中に入ると、階位5位以上の賢者ばかりが座っていた。彼らは学院運営の役員でもあるので、魔導士以上の階位授与の際には出席する事になっている。


 ただ、まだ全員が揃っていないので、用意された椅子に座り、揃うのを待った。


 そして今回は特別にルビィも同席を許されているようで、顔を出した。


「それでは皆揃ったようだな」


 出席者全員が揃い、タウの号令で階位授与式が始まった。


「まずは魔女戦争終了から3年と少しか、よくぞ帰ってきた。我らが魔法学院から偉大な功績を残した英雄が2人も出た事は、他国に対しても実に鼻が高い。また、冒険の間にお前が作成した改良魔法についてもルビィの方から報告を受け、この学院の知識として保管されている」


 アリシアにどういう功績があったかという前口上が続く。


「そして先日、旧帝国残党からモートレルを救うばかりでなく、100年にわたり大陸を戦慄させた、かの王者の錫杖の解明を行った事に、王も驚かれていた。あの事件についてはまだ不明な点が残されてはいるが、アリシア、お前の残した成果は特に大きい」


 大賢者の言葉を出席者達は静かに聞いている。


「よって以上の功績を称え、お前には階位11位を与える」


「16も上がるんですか?」


 いきなり16個も階位が上がったという話は聞いた事が無い。


 冒険前に26位だったルビィでもいきなり8位になったわけではなく、この3年間で徐々に上がっていったのだ。


「それだけの事はしただろう。これは天望(てんぼう)()の決定だ。お前は控えめなところがあるが、たまには自分を誇るがいい」


「は、はい。それではアリシア=カリーナ、階位11位を拝命します」


 ただ、この11位という階位はちょうどいい位置なのだ。この学院で10位以上の人間は天望の座を目指すような「研究バカ」しかいない。この階位11位は研究バカへの入り口にあたることは誰もが認識している。


 アリシアがここから先に踏み込む気があるかどうかを試す位置でもある。


 確かにアリシア自身、自分は変わったと思う。やどりぎ館にたどり着いて、霞沙羅や吉祥院(きっしょういん)、前の管理人や色々な入居者と出会って、他の世界の魔術を覚えるところから、以前には無かった研究癖が着いた。


大賢者達には言っていないが、それぞれの世界の魔術をする際に魔法書を纏めているくらいだ。


「ふむ、これからも精進するのだぞ」


 大賢者から手渡された新しい腕輪を見て、随分と高い位置に来てしまったなあ、と思った。


 冒険者になった時には学院には深く関わることはないと思っていたけれど、フラム王国に復帰してすぐにこんな事になるとは想像もしていなかった。


 それはともかく、今日は渡す物がある。


「あと、会食の時に冷蔵の札の話が出たたじゃないですか。その解説を纏めてきたんですけど」


 アリシアは鞄から解説を纏めたレポートの束を出した。


「アリシア、お前は一体どうしたのだ。先日の書も想定外の速さで完成させたが」

「向こうの国では、霞沙羅さんがいる軍で採用されてますからレポート自体はあるんです。それをこっちの世界用に翻訳しただけなので時間はかかっていません。ただ、そのくらい霞沙羅さんとは付き合いがあったり、別の魔術師さんの助手をしたこともあって、書類を纏める機会が多かったモノで、それで癖がついたんでしょうね」

「また羨ましい繋がりが出来たものだな」

「そうかもしれません」

「ふむ、食料の保存についてはマーロン国王が注目している事業でもある。あの札は良いモノだ。実用化が早くなるとなれば国王もお喜びになるだろう」


実際の所、札はヒルダ経由でルビィから学院に提出されていて、コピーした札は実際に実験が行われていて、今後使用することは決まっている。あとは使われている魔術基盤の意図を解明して、理解した上で実用化する予定だ。


「そのレポートは一旦儂が預かろう。また後日、騎士団などの関係者を集めるので、そこで説明を行って貰う」

「はい、解りました。もう依頼は無いですよね?」


 そこで階位2位の大賢者が挙手をした。


「先日見せて貰ったが、お前の記録盤(デバイス)には我々のものにはない機能が追加されているな。その仕様を明らかにして欲しい」

「そうですか、どれを追加したの解らなくなっていますから、とりあえず纏めてみます。学院の機材に繋がらなくなってますしね。何が悪いのか考えたいですし」

「ところでお前はこれからどうするのだ? マーロン国王もお前が、この王都にある学院に戻ると喜んでおるのだが」


 土地を貰わない理由作りで、魔術師として学院に戻ると宣言はしたけれど、具体的にどのようにするとは言っていない。


「館の運営がありますし、学生もやってますし、週に一度くらいしか顔を出せないのですが」

「アーちゃんはなんで学生なんかやっているのダ?」

「元々は向こうの世界を知るためで、魔術の勉強の為じゃ無いんだー。後は料理かな。軍とか大勢向けの料理の授業があってね、料理だけじゃなくて予算管理も学んだりして。ヒーちゃんの騎士団向けの料理に対応出来てるのって、軍での経験もあるけど、授業もあるんだ」


 料理、そういう言葉が出てきてしまうと天望の座といえども、アリシアが学生をやっている事への反対意見が言いにくくなってしまう。


 食料の保存の目処が立ったとなれば、次は料理の話に移行するだろう。アリシアが帰ってきたので、本来の学院の意義から外れてしまうが、間違いなく王からは騎士団の料理改善の話が出てくる。


 伝え聞いた話ではヒルダの騎士団にはもうアリシアが幾つか料理を習得させているというし、事件の後始末の時にこちらには無い料理を味わった人間がこの部屋の中にもいる。


 それであれば学院寮のメニューにも関わって欲しいし、そのアリシアが勉強中と口にするとなると、やめろとは言いにくい。


「お、王にはその状況を伝えておこう」

「それでなんですけど、ボクも言っちゃった手前こっちの世界に顔は出さなきゃならないとは思っていますから、モートレルの分校に部屋を貰えないですか? 館から歩いて10分くらいの場所なので」

「アーちゃん、あの分校は階位11位の人間がいていい場所じゃ無いゾ」

「資金を提供して頂いているパスカール家には悪いのだが、あそこは勧められぬ」


 別にヒルダを優遇しているわけではなくて、場所的に都合がいいし、学院に関わっているというアリバイが欲しいだけなのだが、本校上層部から見ると随分と酷い場所のようだ。


「うーん、でもアンナマリーに魔法を教えたり、向こうの友人に教えたり、軍人さんの指導をしたりで、教育用のテキストを作ったりしてるんですよね。どれだけ本校と差があるのか見てみたいですし」

「アーちゃんは向こうの世界で何をしているんダ?」

「入居者のアンナマリーと霞沙羅さんのお手伝いなんだけど。友達は別として」

「お前は転移も自在に出来る、と考えればどこにいても変わらんとは思うが…。まずは保留にしておこう。学院に関わろうという意志は解ったし、お前がやっている事をこちらに持って来る事が出来るのなら、それも検討はしておこう」


 新たな課題は出来てしまったけれど、もうここまで来たらフラム王国には関わる事は決めている。あとはどう関わっていくかだけだ。


  * * *


 魔法学院から帰宅すると、すぐに夕飯の準備に取りかかった。


 予想外に階位も上がって嬉しいには嬉しいけれど、その分の責任も求められ始めている。今後はどうするのかという方針を考えなければならないので、ちょっと頭が痛い。


 とりあえずヒルダに頼んで、モートレルの分校がどういう状態なのか見せて貰う事にしよう。


 個人的な考えとしては、今のところ週に一回程度顔を出すか出さないかなのに、ラスタルの学院本校に部屋を貰うのはちょっと気が引ける。


 ヒルダ一家の援助が入っているとはいえ、分校の運営の主体は本校だから、繋がりが無いわけではないから、学院と関連のある場所にとりあえずの拠点が欲しいだけなのだ。


 それで何もしないワケにはいかないので、テーマを決めておこうというだけだ。


霞沙羅(かさら)は時間がかかっておるようじゃのう」


 午後6時半になっても霞沙羅は帰ってこなかった。お昼過ぎ開始の会議なので、レポート自体の説明はとっくに終わっているだろうから、やっぱり色々と出てくる質問の対応をしているのだろう。


 メールであっても連絡も取り辛い状況なので、帰宅時間も解らず、霞沙羅用の麻婆豆腐は材料の状態で残してある。帰って来たら一人分だけ作ればいい。焼き小籠包は全員分一緒に作ってしまったので、こちらは申し訳ないけれどレンジで温めよう。


「国はそこまで興味は無いと思いますけど、やっぱり魔術師としては異世界の技術ですからねー、気にならないハズが無いんですよ」

「魔法学院の時のように遅くなりそうね」

「メールは送っておいたから、返信待ちだよ。館の方に帰ってきたら料理は作れるようにしてあるから」


 ラシーン大陸とは違って、24時間営業のお店もあるし、コンビニもあるから、自分で何とかするかもしれない。ただそうではなかったのなら、起こして貰えばご飯を作りますよとメールを送っておいた。


予想通りお互い大変な事になってしまったようだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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