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アリシアと賢者達 -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 王者の錫杖、神降ろしの杖、結界の三点全てが異世界の技術という事もあって、食いつき方は凄まじいの一言。


 出席者全員が配られたテキストを食い入るように読み、アリシアの言葉を一言一句逃すまいと聞き、テキストにメモを書き込んでいく。誰からも質問は出ず、ただただアリシアの口から出てくる言葉を待っていた。


 特に王者の錫杖は、突然この大陸に現れてから100年間も厄介事をばら撒いてきた、非常に危険な魔工具であり、それ故に魔術界に身を置く者の研究心をかき立て続けてきたモノだ。


 そして4年前にアリシア達が崩壊した帝都から奪い取ってきてから、何人もの研究者が挑むものの、全く刃が立たなかった。その謎が今、アリシアとその後ろにいる異世界の英雄の手で解かれ、手の中にある。


テキストでは異世界の術式を提示しつつも、最終的にはこちらの術式に訳しているので、オリジナルその物とは言えないが、どういう魔術が使用されたのか、それが今、多くの人間に明かされた。


 王者の錫杖は、最初に登録された人物と、その血を濃く受け継ぐ子孫への忠誠心を植え付ける呪いを撒き散らす魔工具だ。


 皇帝の代が変わる時には、新たに錫杖を手にした後継者への忠誠心を追加していく、という使用方法で国民達を操ってきた。


 効果範囲は平均的な地方領主の領地一つを飲み込む程なのだが、一つ欠点があり、それを可能とする魔力を補充するのに50年程度の時間がかかるようになっている。


 中途半端な魔力貯蔵量でも作動はするけれど、その分効果範囲は狭くなる。だから二代目以降の即位の時には、初代皇帝ほどの威力は無かったのではないかと想像する。帝都に重要人物を集め、即位の場で洗脳し、辺境の一般国民は力で支配していたのだろう。


 そして、今回モートレルの町だけ狙ったのは、9年前の最後の皇帝即位の時に使用してしまった為、絶対的な魔力が足りなかったからだ。


 背の高い城壁に囲まれた中の町に結界を張ったのは、あの霧が外に漏れ広がって中途半端な効果しか発揮出来ない事を防ぐ為だ。


「この王都ラスタルで使用しなかったのではなくて、出来なかったんでしょうね。王都周辺を包むには恐らくはあと10年近くかかりますから」

「欲深いあの連中には我慢出来なかったのであろうな」


尋問の結果、アンナマリーと住民達、可能であればヒルダを人質として、あの後フラム王国と色々と交渉しつつ、モートレルを拠点としてやっていくつもりだった事が解った。


「皇帝の子孫でなければ使えないので、錫杖自体は今のところもう誰にも使えないですね」


 一応個人レベルではあるけれど、錫杖の呪いへの対抗策も載せてはいる。


 ただ、人間が持ち歩けるサイズに作られた錫杖が秘めた能力は、例えば塔のような施設を建造しなければ足りない程の出力があり、現時点では同じサイズの魔工具を作って対抗する事は不可能なレベルだ。


魔工具のランクに「神律器(しんりつき)」「絶器(ぜっき)」「常器(じょうき)」の3つがある。王者の錫杖は「神律器」に該当される。人の手で作るには常軌を逸した制作物だ。


 そして残りの「神降ろしの杖」と「結界装置」と、霞沙羅(かさら)が追加で提供した魔剣も異世界案件として説明が行われた。


「レポートは以上になります」


 たった一回の講義で4つも異世界の技術を見る事が出来た魔術師が未だかつていただろうか。


 ラシーン大陸の歴史上、類を見ない講義内容に、アリシアと霞沙羅の共同で作られたレポートの内容に、場は静まりかえった。


「アリシア、お前は3年以上も姿を消して何をやっていたのだ?」


 ややあって、階位1位の大賢者タウがやっと口を開けた。


「館の管理人の仕事には、他の世界からもやってくる入居者の手伝いをする事が含まれていますので、館がある地球という世界の魔術を軸にして、先代管理人や他の住民の世界を勉強してました」

「まさかお前がここまでの研究者になるとは思ってもみなかった。しかし一人ではここまでの習得は出来まい。周囲に余程良い人物がいるのだな」

「大賢者様は先日顔を合わせましたが、新城霞沙羅さんは、魔術師としてはボクと同等の実力者で、しかも他世界の魔装具を制作・整備が出来る人です。その友人で、あの地球で有数の魔術師の人にも協力はして貰ってます。代わりにボクは自分の魔術知識を渡してはいます。それから、この3つの魔工具はボクの先代の管理人さんの世界のモノですから、同じように教えて貰ってます」


 説明が面倒なので、ここでは霞沙羅意(かさら)以外の名前は出さない事にした。


「そこまでの人間がお前と交流があったのか。あのシンジョウカサラ殿だけでなく、もう一人の者もここへ連れてくる事は出来るのか?」


「もう一人はどうですかね。ただ、向こうでも同じ人間の仕業じゃないかっていう事件が起きていると言いましたけど、2人とも軍人なので情報共有としては、うーん」


霞沙羅は情報の共有を希望しているけれど、吉祥院(きっしょういん)は異世界人との交流と知識はあっても、異世界にはあまり出入りした事が無い人だから、こんな場所まで来てくれるだろうか。


「もう一人はどういう人物なのだ?」


「霞沙羅さんと同じチームとして、向こうの世界でボク達6人と同じような事をした英雄の一人で、日本という国に昔からいる魔術師一族の人です。戦力的な実力ならルビィと同等くらいです」

「そのような人物と知り合えたのか。いや、急がんでも良い。ただ我等は一度話が聞いてみたいと伝えておいて欲しい」

「解りました」

「では、質問に入ろう」


 説明だけで3時間以上に及んだので、ちょっと休みたい。


「あの、一旦途中で帰りますからね」

「む、むう」

「なのでその間に纏めておいて下さい」


  * * *


 それから1時間が過ぎて、休憩を取る事になった。


 結局質問が止まらないので、館の仕事が片付き次第再開、という事になってしまった。


 4時間以上もやっているのに、そのくらいの休憩時間でさえも名残惜しそうにして一旦解散していく、まだまだ全然元気な参加者達を振り切って、アリシアは学院から出てきた。


 どうせこれからあれを持って研究室に籠もるんだし、質問は内容を纏めてからにして欲しい。


「ああ疲れた…」


 ずっと喋りっぱなしだったので疲れた。持ってきた飲み物ももう空っぽだ。


 実家でちょっと休んでいってもいいけれど、もう夕飯時で忙しくなる時間帯だからやめておこう。


「エリアス、お願い」


 先日霞沙羅に注意を受けたばかりだし、折角なのでエリアスに頼んでやどりぎ館に戻った。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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