大事件の後は -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日には霞沙羅が一日かけて4つの道具の解析を終えたので、夕食後に説明を受ける為に隣の家に移動した。
「ほら、お前から貰ったデータには私が追記をしてやったぞ。地球側のデータは追加で入れといてやったぜ。後はお前が好きに纏めろ」
霞沙羅が横浜から持ってきたのは刀のデータだ。いわゆる魔剣。それを手にした者を強者として操る妖刀だ。
所有者は身体能力や剣士としての腕前を強化され、一種の剣豪のようになった人間による辻斬り騒動が起こっていた。それを霞沙羅が成敗したのだ。
「こっちの人間じゃ理解が出来んからな。発見が遅れてかなり被害が出た」
「横浜で事件が起きてますけど、吉祥院さんはどうしたんです?」
吉祥院という人間は、霞沙羅の元チームメイトで、日本の英雄の一人。やどりぎ館に来たばかりの時に、地球の魔術を習得する時にお世話になった魔術師だ。彼女もこの館に住む権利を持っていて、以前は何度もここに来る事もあったので、前の管理人さん達とも交流がある。だから霞沙羅が行かなくても事件の解決は出来たはずなのだ。
「あいつは神戸に出張中だ。魔術師協会で外人技師を招いて、呑気にセミナーだとよ。あいつが悪いわけじゃないが、協会のやつらも気を利かせろってんだ。とにかく、私はこれを軍の上と協会に届けるから、お前はお前の国に届けろよ」
「はい、解りました」
霞沙羅から貰ったデータには、伽里奈が渡したデータにも色々と補足が入っているから、一旦部屋に持ち帰って、最終的に自分なりの構成にする予定だ。魔術師としての能力は互角くらいとは言え、やっぱり鍛冶という分野が絡むとこの人には勝てないと思ってしまう。
「じゃあこれは終わりとして、面倒事が2つある」
「2つもですか?」
「一つは古い聖法器が大学に送られてくる。ちょっと前のニュースに鐘が見つかったって流れただろ。ああいう宗教系の道具を研究しているのがいてな、発掘したのもそいつだが、その縁で小樽大で研究する事になった」
「そうですか」
地球側の魔獣や魔物に相当する「幻想獣」と呼ばれる存在は、日本ではかつて「あやかし」「妖怪」と呼ばれていた。
それを退治するために今の長野県のとある寺院が宗教的な道具「聖法器」を作り、その「鐘」は、蛇のような妖怪達を打ち倒した後、どこかに行ってしまった。
学者達が長年探し求めていたその「鐘」は、最近になって福島県の山の中の廃寺院で発見されて、ニュースにもなった。
そして、それを研究するために、発見者が所属している小樽校に持ち込まれるという話だ。
「鐘を欲しがっている奴からの声明もあったようだし、それでなくても研究中に何があるか解らん代物だしな。警護は道警の案件だから私の出番は無いが、ちょっと大学が騒々しくなるぜ」
「警察と話が付いているなら、それに任せるだけですねー」
道警にも魔術専門の課があるので、そこが中心になって動くだろう。ただまあ研究施設がある大学と高校は場所的には一ヶ所に集まっているので、警備でうるさくなるものと予想される。
「それともう一つは、イギリスのホールストン家という歴史ある魔術師一族から、そこの娘が使う杖の発注を受けた」
「お仕事ですか、やったじゃないですか」
イギリスというと、この世界における魔術の標準を纏めた国であり魔術師の本場だ。そこの名家から杖を発注されるくらい霞沙羅の腕は確かなのだ。
「今年13歳なんだが、来年の6月に大学へ入る準備をしている。そいつ用の魔装具なんだが、勉強の一環で製造過程を見せてやれと言われてな」
「飛び級で魔装具持ちですか。すごい子がいるんですね」
「もう高校には通う必要は無いからと、私の所に送られてくる。仕事上付き合いのある家だし、厄災戦ではイギリスには手を借りてるから、どうにも断れなくてな。まだ子供だしどこかのマンションで一人暮らしってワケにもいかないだろ?」
「やどりぎ館に来て貰うんですか? 確かに一部屋は空いてますけど」
霞沙羅は横浜から小樽に移り住む際に、やどりぎ館への入居が許されたのだが、鍛冶をする場所が必要だったので、売りに出ていた元自動車修理工場を買い取って、そこを住居にしている。
鍛冶は出来ても家事は出来ないので、館に住んではいないけれど、先代の管理人時代から入居者という扱いで、家の掃除や洗濯、食事の用意を任されている。
建物は2階建て。1階のガレージだった場所を鍛冶や研究スペースとして活用し、元は事務所だった2階はリフォームして、2LDKに書斎スペースのある居住空間にしている。
1人住まいとしては余裕のある空間で、もう1人くらいなら住むこともできる。
「お前が何を言いたいか解るが、まあそう言う事だ。この家には住めないだろ?」
放っておいたらお菓子や飲み物のゴミだけでなく、洗い物の衣類が散乱しているし、朝起こしにいけば結構な確率で寝間着を脱いで半裸で寝てるし、家事は全く出来無いしで、部屋はあっても自分と同居なんか考えられないと、自己申告をして来るとは偉い。
「住民には推薦権があっただろ。あれで申請したい」
「ありましたね、そんな制度」
やどりぎ館に住む事を許されている霞沙羅は、実際には入居していないから一部屋開いている。そこを霞沙羅が推薦する人間に使わせる申請が出来る。館のオーナーというか、運営をしている神々が認めれば、という審査はあるけれど。
「申請してみるから、ちょっと頼みたい。入居期間は長くても半年程度だろ。大学は来年の6月からだしな」
「じゃあ後で用紙を渡しますね」
申請書は専用の置き場所に置けばオーナーの手元に飛んでいく。そこから審査があって、許可が下りたらそのホールストン家にこの館の案内をすればいい。
今回はこの世界の人間だし、正統魔術の本場であるヨーロッパのイギリス、その名家のようだから、この館が異世界と繋がっていて、住民も異世界人でだらけであろうとも、さほどの抵抗は無いだろう。
「悪いな」
「いえいえ、そういう場所ですからね」
来るのはまた女子だけど、住民も増えて賑やかになってほしい。
* * *
その後、霞沙羅から記入された申請用紙を受け取り、所定の処理をしておいた。これで入居者の件は審査待ちとなった。
それから、明日は午後から王都ラスタルで国王と謁見してくると住民には伝えた。夕食には帰ってこれると思うけれど、念のため明日の午前中に仕込んで行く予定だ。
「結局制服を着ていくしかないねー」
メイド服は戦闘で汚れてしまったが、そもそもやめておけと言われた。だからといって最後の挨拶の時に着ていたドレスもやめておけと言われた。
では男っぽいきちんとした服となると、ブレザーの制服しかないので、仕方なく、本当に仕方なくこれを着ていく事にした。
「冒険者時代はどうしてたの?」
魔女戦争時代は「戦いを終わらせる事になる人間の一人」としてエリアスに目を付けられていたようだったけれど、だからといって四六時中見られていたわけではない。
「冒険者にきちんとした服装なんか求められないよー。天空魔城に行く前の謁見は、あの時点での最後の装備だったからドレスでも許されたけど、それ以外ではヒーちゃんとハルキスから注意されて、男っぽい服を着てたねー」
「あなたにはあんまり似合わないような気がするわね」
「でしょー。まあでもヒーちゃんとハルキスがいるから、他の国に行っても領主さんとか王様とかから依頼を貰えてね、服は場合によりけりだったかなー」
お隣の国に行った時には、そこのお姫様を守る依頼を受けて、その時は側にいる為に女子な感じの服を着ていたこともあった。
でもあれはそういう任務だったから、向こうから支給されたのだ。
「これからラスタルには何度も行く気がするから、礼服っぽいの用意した方がいいかなー」
「魔法学院には制服はないの?」
「学生にはあるけど、教員とか職員にはないかなー。羽織るローブはあるけど、その下は自由だったよ。うーん、その手があるなー」
「今後のことは同僚になるルビィさんにでも聞いてみた方がいいわね」
「そうだねー」
とりあえず、明日は高校の制服を着ていくのだ。
そう決めて、伽里奈はエリアスが寝転がっているベッドに入った。
「とうとうこの日が来ちゃったなー」
「あなたはそれだけの事をやったのだから、与えられるものはちゃんと受け取っておきなさい」
「はーい」
いつかはこのやどりぎ館を去る事にもなるのだから、帰る場所は作っておいた方がいいとは思う。前の管理人さんも、正式に館を引き継ぐまでの3年間の付き合いで、自分の世界との縁は切らずにやって来たのを見ているから、月に数回くらいは誰かとコンタクトは取っておいた方がいいかもしれない。
「私も巻き込んでいいのよ」
エリアスは伽里奈に腕を絡めてくる。
「パートナーなのよ。アシルステラの人間くらい、正体を誤魔化す事はワケないわ」
「そうだったね」
でも女神の力はあまり使って欲しくないなー、とも思う。とにかくそうならないように注意して、エリアスも巻き込んでいこう。
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