大事件の後は -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
偽アリシアにされてしまった劇団の子を助ける時に「劇を見てみたい」とは言ったけれど、結局日本での生活もあって見ることは出来なかった。
移動劇団なので次の予定もあって、今日がモートレルでの最終公演日とのことなので、せめて町を出て行く前に一声かけるくらいは、と劇場に向かった。
「アリシア様でしたらどうぞ見ていって下さい」
着いた時には公演中だったけれど、座長さんの計らいで舞台袖に案内された。今はもう最終幕で、ヒルダとレイナードがお互いの愛を確かめ合い、散々振り回されたアリシアが呆れながらも「ああ良かった」と言っている場面だ。物語も終わりが近い。
この後カーテンコールもあるから、出番が終わった役者さん達は一旦幕が下りるのを待っている、そんな状態だ。
アリシアは邪魔にならないように、人が少ない方の舞台袖で、横から演劇を見る事にした。あのマリナとかいう、アリシア役の女の子はとても頑張って役作りをしている。
そのせいで悪事に巻き込まれてしまって可哀想だけど、利用されたのもよく解る。
やがて劇が終わり、観客から拍手が起きる。そして幕が下りて、役者さん達が舞台に出ていって、再び幕が上がると拍手は最高潮に鳴り響いた。
その後にもう一度幕が下りると、舞台にいた役者さんからマリナは「あっちに捌けろ」 と指示があったようで、アリシアの方にやって来た。
「お疲れ様ー」
「アリシア様、いらしていたんですか?」
「ごめんねー、見たいとか言っておいて、今日が最終公演なんだよね。色々事後処理とか管理人の仕事があって、時間が無くて」
「そ、そんな、わざわざすみません」
マリナは嬉しくて、目を潤ませながら握手を求めてきた。
「最後の方しか見れなかったけど、すごくよく演じてたと思うよ」
アリシアはこの話の主役ではないから台本上の出番は少なめで、物語的にはあまり格好良くないとは聞いている。しかしどのくらい格好悪いのだろうか。
「あんな事件に巻き込まれちゃったけど、これからもボクの役、やって欲しいなあ」
「は、はい」
「それとごめんね、ルビィが話の中でボクに変な武器を持たせちゃったみたいで」
「ですがアリシア様の戦いを特等席で見れましたから。あの剣とお花屋さんの話は、今後の劇に使わせて貰います」
なんと商魂たくましい、というか役者魂のこもった発言だ。システィーと花屋さんの事実を知っている劇団は今のところここしかないから、他の町でやったらさぞや驚かれるだろう。
でもこのくらいバイタリティー溢れる言葉が出るなら多分大丈夫だ。
「ボクもこっちの世界に帰ってきたからね。またどこかで会おうねー」
「これからラスタルに向かって、街道沿いの町で公演をしていくんですよ」
「ラスタルに行くんだ。今後はボクも魔法学院に行くこともあるだろうから、王都で劇が見れそうだね」
「はい。あ、そうです、以前に家族の方が見に来て下さって、すごく喜んでくれたんです」
「そうなんだ。今度こそ見たいなー、もうちょっとボクが格好いい演目を」
「ふふ、ラスタルの劇場で待ってます」
マリナと再開を約束して、アリシアは劇場を出た。
* * *
劇場での激励を終えてやどりぎ館に戻り、夕食を終えて、今日はアンナマリーへの神聖魔法の勉強会を行った。
騎士見習いとしてまた一つ大きな戦いを経験して、今必要な魔法は何かを実感した事と、教えてくれている人が憧れの英雄アリシアだという事もあって、更に勉強に身が入るようになった。
モートレル占領事件では、戦闘後に怪我をした騎士団の人達に治癒魔法を使用して、結果を残せたことが自信にもなり、自分がやるべき課題が見えたのが大きい。
アリシアの方針は、まずは治癒魔法、状態回復魔法、浄化魔法の基本3点セットをきっちりマスターさせる事だ。既に一通りの講義は終えてあるので、今は実際に魔法を使う事に体を慣れさせる段階だ。
あくまで剣士の補助としての神聖魔法だけれど、今は頑張っても治癒魔法が3回使える程度。しかも1回使用して、その次を使うまでに時間がかかるので、実戦で使うには心許ない。
やどりぎ館の敷地内では繋がっている世界の神聖魔法も使用出来るので、ギャバン教信徒として、アンナマリーには部屋で神聖魔法を使って貰っている。
怪我人どころか毒に侵された状態異常の人間も、浄化するゴーストもいないけれど、発動自体は確認出来るので、アンナマリーはアリシアの指示に従って、アリシアが制作した、規模の小さな練習用の治癒魔法の発動を何度も繰り返している。
「じゃあ今日はここまでかなー」
「ありがとうございました」
昼間の勤務もあるし、魔力消費だけではなく精神集中も必要とあって、慣れないうちは心身共に疲れるから、この実習は状態にもよるけれど、20分以内と決めている。
アンナマリーがもう少し慣れたら長くしてもいいけれど、今しばらくはこの方針で行う予定だ。
「疲れたし何か飲む?」
「こ、ココアを」
実家の屋敷でも頻繁に味わえるわけでもないチョコ風味の飲み物に、アンナマリーは見事にハマってしまったので、ここのところよく飲んでいる。
食堂に設置されているウォーターサーバーの横には、時々スティックタイプのお茶やコーヒー、それとココアが置いてある事があるので、それでハマってしまった。
置いていない時は、伽里奈がわざわざココアパウダーと牛乳で作ってくれるのだが、今日はそんな日。
やや時間をかけて伽里奈がココアを2つ作って戻ってきた。
折角のまったりタイムが到来したので、今度は伽里奈の方から、頼れるお嬢様ことアンナマリーに訊いておきたい話がある。
「国王様との謁見日はそろそろ決まるのかなー。最後に会ったのは天空魔城に行く直前で4年近く前になるから、お城の中に入るの、緊張するなー」
「ええと、んん」
もう勉強時間は終わったから、アンナマリーは喋りのモードチェンジを試みる。
「国王様は2年前にマーロン様が即位したから、そこがまず変わっているぞ」
「え、そうなの? あの第一王子に? 前の王様ってどうしたの?」
「2年程前に酷く体調を崩した時期があって、政務もままならないこともあってそのまま退位をされたが、今は大夫体調も良くなって、元気にされているぞ」
「そうなんだ」
子供の頃から王様と言えば、現国王の父親「ジョナサン二世」だったから、その話しを聞いてなんだか寂しくなった。魔女戦争時代にマーロン王子とは面識があるので、知らない仲では無いけれど。とりあえず前王も生きてくれてて良かった。
折角国に顔を出す事になったので、魔女戦争の中には冒険者である自分達に対して色々と便宜を図ってくれた前の王様に挨拶くらいはしたい。
「事前に聞いておいてよかった」
お城に行って出てきた王様を王子呼ばわりしたらさすがに失礼だ。
「でも連絡が…」
と、以前にヒルダに渡していた通信道具に着信があったので出るとルビィが出てきた。
「アーちゃんがこんなモノを作るとは思わなかっタ」
「なんで、いきなりルーちゃんとか?」
「謁見の日が決まったから伝えに来たゾ」
映像投影用のクリスタルにヒルダがちょっと見切れているので、わざわざモートレルに来ているようだ。
「そこにアンナマリー嬢もいるのカ?」
「うんいるよ」
「それでいきなりなのだが、明後日の昼だ。大臣達も集めてお茶などをしつつ、アーちゃん達の話しを聞くという事だ」
「まあ明後日なら」
土曜日なので学校は休みだ。
「アンナマリーは勤務の日だけれど、私の付き添いで一緒に来るように」
「私もですか?」
勤務先の領主命令だ。付き合う他ないし、久しぶりに王都ラスタルに帰りたい気持ちもある。
「同席するお父様が会いたいそうよ」
「解りました」
そういうことなら是非着いて行きたい。
「でもさー、ボクは久しぶりだからモートレルからラスタルへの転移が出来無くなってると思うよ」
転移先の認識が出来なくなっているだけで、魔術が使えなくなっているわけでは無い。転移先の情報を術式に書き込む必要があるのだが、間違えてしまうと発動しないばかりか、最悪変な場所に行ってしまう危険性がある。
「それは私が迎えに行ク。だから当日はヒルダの屋敷に来て欲しイ」
「そうなの、それは良かったー」
1回でも転移を行えば、その後は座標を思い出すだろう。なんと言っても生まれ育った出身地だ。そうなれば次回以降は自力で移動出来るようになる。
「うーんじゃあ、住民に言っておかないとねー」
「それとアーちゃん、この会話用の魔工具を貸すのダ。その代わり、私の鏡を渡そウ」
「うん、いいけど」
例の鏡をくれるというのなら範囲の狭いこの小さな道具はいらないから、貸しても問題無い。
それにしてもさすが階位8位の大がつく魔導士になるだけあって、ルビィは研究熱心だ。自分が作った大したことの無い通信用クリスタルでも気になるようだ。
しかし、いきなり明後日に来い、という事になってしまったけれど、事前に空いている日を伝えてあるのでそれは仕方が無い。
「それと、レポートはどうなっているんダ?」
「住民の人が今日帰ってきたから、今はボクが纏めたメモを見て貰いながら、確認中だよ」
「うむ、天望の座一同が首を長くして待っているからナ」
「はーい」
とりあえず今後の生活のために決めておかなければならない事があるので、謁見で無事に着地点を探る事が先決だ。
多分もうこれしか無いと思うのだが…。
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