これからもやどりぎ館で -7-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
翌日、学院の寮に戻ることになったクラウディアの荷物を持って、またアリシアは王都ラスタルにやって来ていた。
「また魔法談義をしようぜ」
「クラウディア殿は設備系が得意でござるからなあ。是非今後もお話を聞きたいでありんす」
ついでに霞沙羅と吉祥院もやってきた。
何をするのか気になったからだ。
「カナタさんはまだ来ていないようね」
エリアスも来ていた。エリアスがいるのは廃墟の扉を制限する作業をする為。
ヤマノワタイ側からは向こうの神様が細工をしてくれるそうだけれど、元々イレギュラーで動いていたから、使用を継続するには、お互いの星の神か、その神に準ずる存在が許可を出す必要があるとかなんとか。
さすがに人間の魔術師レベルでは解らないから、エリアスに任せるしかない。
今回は扉だけでの行き来にするそうで、その位置は、クラウディアの寮の中に設定される。これなら悪用もされない。
「おう、先生達じゃねえか」
やって来たのはなぜかハルキス。
「ハルキス君が学院に用とはなんぞね?」
遠目に生徒達に恐れられている吉祥院も、なぜハルキスが無縁の魔法学院にいるのかが気になる。
「俺はアリシアのおかげでちょっと魔法が使えるんだが、今日は一部の騎士達の研修があってな、その監督役だ」
「そういえば榊が気にしてたな。どのくらい使えるんだ?」
「こいつみたいに武器を振りながら魔法も、って程の器用さは無いが、初級魔法の風属性は一通り使えるぜ」
さすがに全部は無理だからヒルダも同じで、属性は限定した。
「サカキが魔法を気にしているのか?」
「あいつは全くダメだからな。世の中にはどういう魔法があるのかは教えたんだが」
「俺達が『気』を習得するのと同じだな。ところで、この間あのモガミとかいう別世界の英雄さんが使ったあの手から出るスゲエの、見せてくれえか」
「榊にやってもらたほうがいいぜ。あいつの場合はあれを刀に固定させて放つ事も出来るんだが」
「見たことねえぞ」
「私の魔装具を持っている時は省エネで使わないし、技が大きいからやや時間がかかる。純凪さんは子供の頃からずっと素手でやってるから、さすがに年期が違って、気軽に使ってくるけどな」
「そうなのか。なら今度見せて貰うとするか」
「盛り上がっているところお邪魔しますの」
ようやくカナタが栗栖を連れてやってきた。
「クラウディアさん、お久しぶりです」
「クリス、久しぶりね。そういえばこれからはなんて呼べばいいのかしら」
「クリスでもユズリハでもどちらでもいいですよ」
「それならやっぱりクリスにするわね」
クリスという響きのほうが、こっちの人にとっては名前としては馴染みがある。それに栗栖の方もクリスが名字なので、学校なんかでもそう呼ぶ人もいるだろうから違和感は無い。
「それじゃあ扉の設置を始めましょう」
早速クラウディアの部屋に移動して、以前に栗栖が使っていた部屋の壁を選んだ。
元々リュック一つしか荷物を持っていなくて、それを全部持って帰ったから、今の私物はこっちで買った服くらいしか残されていないから場所は空いている。
「じゃあここに扉を作るわ」
何も無い壁を選んで、エリアスは何者かと話しをし始めた。これはちょっと時間がかかりそうだ。
「私にはこの子に魔術師資格を持たせる試練があるのですが、あなたはどの時間にユズリハが必要になりますの? それに対応するようにこの子の勉強時間を作りますわ」
「カナタさん的には一日にどの程度の時間を使う予定なの?」
「3年で終わらせる予定ですので、3時間もあればいいでしょう。週休2日ですから、その日は自由ですわ」
「そんなモノでいいのか?」
地球基準の学生なら、一般的に毎日、7年間学んでやっと一人前。霞沙羅は誰とも師弟関係は結んでいないけれど、聞くところによれば平均では5年間毎日師匠について、やっとという話だ。
「あくまで大学卒業レベルでしょう? ユズリハについては一通り実力を試験をしましたが、この程度でもそのくらい時間があれば一人くらいは仕上がりますわ。落第寸前だったのはサボっていただけですから」
「それでもすげえな。何をやるのかチラッとでも見せて欲しいもんだが、お前はもう地球には来れないしな」
「管理人に頼めば、あなたはヤマノワタイに出入りできますでしょう? 時間があれば鍛冶も見せますよ? あなたの武器も相当でしたから、触らせて欲しいですの」
「なるほど、時間はあるんだよな」
「私は大体家にいますから、来ればいいですよ。これからは監視でたまにアリサさんも来ますしね」
もうカナタは何もやらないだろう。けれど一応、しばらくはアリサが確認しに来る事になっている。
「お前はどうするんだよ?」
「ワタシも気にはなるでやんす」
軍に合流してからのカナタは、これまでの悪行が嘘のように真摯に共通魔法を教えてくれたものだ。
吉祥院が苦手としている、超初心者への教育がカナタには出来るので、どうやって栗栖を魔術師にするかは見てみたい。それにカナタは地球の魔法も極めているから、話は合わせてくれるハズだ。
吉祥院が将来的に弟子をとるかどうかはともかく、現状を変えるヒント位にはなるだろう。
「それにお侍さんの相手も出来ますから、私の暇つぶしに来てくださいな。ただ個人的にはそこの英雄さんと話をしてみたいですの」
「ボクですか?」
「結局あなたとは技術的な話をしていませんしね」
「そうですね、ボクもこれからは時間が出来ますから」
「私も男の娘ってどういう人なのかを知りたいです」
「折角ですからね、出会った人のキャラクターを覚えておくのは悪くないでしょうね」
栗栖の言葉に対して、案外優しいことを言うカナタだった。
「繋がったわよ」
エリアスがそう言うと、壁に扉が出来ていた。
「この扉を本当の意味で開けることが出来るのは栗栖だけよ。クラウディアさんでは開けても壁があるだけね」
試しに栗栖が扉を開けると、その向こうの風景は森の中だった。
「我が家の敷地ですねえ」
一度扉を閉めて、再びクラウディアが開けると壁だった。
同じようにカナタが開けると、やっぱり壁だった。
「成功みたいだね」
「じゃあこいつはどうやって帰るんだ?」
「栗栖がドアを開けて一緒に帰ればいいのよ」
「そういやそうだな」
考えればやどりぎ館もそんな感じで運用している。とにかくこれでもうカナタは一人ではアシルステラに来る事は出来無くなった。やらないとは思うけれど、これでもう他の星にちょっかいを出せなくなった
「ところで例のモノは埋葬したでありんすか?」
「お爺様が敷地にある木の下に埋めましたよ」
あれだけ重要なことのように口にしていた割に、本人はさして興味が無さそうだったけれど、祖父に頼まれたからと本気になって持って帰った母親の一部。
それを祖父母に手渡した時は、親である自分達がうまく育てられなかったことをかなり悔やんでいたけれど、孫がちゃんと技術を継承しているのも確認出来たので、納得して埋葬された。
「これで私の旅は終わりですかね」
「なんか上手くまとめようとしてねえか?」
「さてね。それと喝采の錫杖を破壊するか機能を停止させるかが決まったら言ってくださいな」
「あれは、学院の天望の座が管理してますから、ボクではどうにもなりません」
王者の錫杖は2回もアリシアが学院に持ち込んだわけだけれど、危険物なので、宝物庫に収納した後はアリシアであっても触らせて貰っていない。個人的には壊したいのだけれど、どうにも魔術師という人間は危険と解りつつも特別レベルの魔工具となると壊したくないらしい。
「そうですの。ですがまあ、もうあれは魔力を蓄積する機能が壊れているんじゃないですの? いい加減経年劣化もありますからねえ」
「喝采の錫杖って何?」
この謎の名称はカナタと話をした人間にしか解らないから、クラウディアには初耳だ。
「あの、王者の錫杖の事なんだけど。そんな事になっているんですか?」
「作られてから百年経ってますからねえ」
こうは言っているけれど、恐らくカナタがその機能を破壊してとぼけている可能性はある。学院で何かの機会に錫杖を研究する事があったら、そういう事にしておいてあげよう。この百年で何回も使ったのだろうし。
「ユズリハの勉強に関しては、この一週間の状況を見て時間を決めますか」
扉も設置できたので、明日からクラウディアのお世話を再開してみて、それを見てスケジュールを決めてから勉強を始めた方がいいだろう。
「それじゃあ明日からまた、お願いしますね」
「はい。色々迷惑をかけました」
「迷惑をかけたのはこの女じゃねえのか?」
元々はカナタが勝手に連れてきて、カナタが連れて帰ったワケだ。
「カサラさん、あなたがアリシアと出会ったのと同じで、出会いには色々な形があるんですよ」
クラウディアもここしばらく、小樽で生活をしてみるという奇妙な体験から、こういう偶然があってもいいんじゃないかと思っている。
水瀬家の親子喧嘩のせいで、本来あり得ない出会いがあったわけだけれど、悪い話では無かった。
そして今日の所は、カナタと栗栖はヤマノワタイに帰って行った。
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