これからもやどりぎ館で -5-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
会見の翌日、小樽校附属高校では魔法術課の緊急全体集会が開かれて、アリシアの教員就任についての是非については、あっさりと満場一致で賛成が取れてしまった。
「ええー」
正直前代未聞の出来事だけれど、現在B級30位で、今回の件で更に昇級が決まっているような人間が小樽校にいる。それに年末頃からここ数ヶ月の全ての施策を行ったし、上手くいっている。それもあって、
アリシアの人となりも全員に知れ渡っている。これもあって上級生でさえも反対する人間はいなかった。
やっぱり先日の事件での活躍が大きすぎた。今日も今日とて各メディアが魔術師を呼んで擦られまくっている人物がこの学校に留まってくれるというのであれば考えるまでもない。
「あれだけの事をやっておいて、まだ小樽校に残るんなら断れないよ」
「伽里奈アーシア…、アリシアって呼べいいの? まあいいわ、例の話もあるわけだし、私は目の前で見てるんだから、魔法を教えて欲しいに決まってるでしょ」
今林も一ノ瀬も乗り気だ。実際に目の前で見てしまった、あのあまりに高い戦闘力には、現場では驚愕だったけれど、これまでの学校での動きを見れば、それをひけらかして馬鹿にする人間ではないのは解っている。
逆に、その能力や経験を生徒達に還元しようとしてくれている。その実績もあるわけだから、学校側に立った時の効果への期待も大きい。
だから多くの生徒はこの年末年始を境に、この小樽校を選択して良かったと思っている。
「吉祥院の奴が裏の事情も知らずに手を回してくれるんだ。引き続き私のサポートをしろよ」
あの会見の後、すぐに吉祥院が手配をしてくれたので、もう小樽校の教員として登録する準備は出来ている。
「わかりましたよ、もう。ただとりあえずシャーロットがいる間は生徒です」
シャーロットはこの春で留学生としての在籍が終わる。そうなればどっちにしろアリシアの、生徒としての居場所はないから、せいぜい生徒としての時間を楽しむとしよう。
「さて、こいつの在籍も決まったし、横浜校への嫌がらせの第一弾が始まるぜ」
* * *
その数日後、受験生に対して入試の結果が通知された。
試験の結果は進学を希望出来る学校の選択肢に現れる。高校から魔術師を志した受験生は当然だし、最初からA組の生徒となるような経験者の受験生であっても同様だ。
当然、試験の結果が良ければ横浜校が選択できるが、そうでなければ神戸か小樽の二択になる。
残念ながら小樽校は場所の問題で、これまでの人気は最下位。悪ければ募集人員割れなんてこともあるくらいだ。それに多くの生徒が北海道と東北出身者で、関東以西の生徒はほぼいないという状態が続いている。
ここ何年かは大学に新城大佐がいる、という事で希望する新入生がいたりするけれど、やはり大抵の受験生が目指すのは横浜校。
その進学先を決めるのに、各校からの最後のPRとなる案内動画の配信が始まった。
とはいえ受験生は受験前から各校の事は調べているわけだから、こんなものを見ても順位なんか変わらないのが毎年の事だったのだが、今年は生徒を悩ませる事態が起きた。
「霞沙羅、ズルいのではないだろうか」
今回の小樽校の動画には他校関係者が驚愕する内容が含まれていた。
一番驚いたのは受験生の方だけれど。
「お前のせいじゃねえが、小樽校向けの予算を渋っていることに憤った、とある国の英雄様がおりましてねえ」
学校の設備はまだどうしようもないけれど、教育指針や授業風景の紹介に時間を割いた小樽校の動画は、受験生の動揺を誘っているという。
「我が校はこの冬から学生の将来のために、実戦的な魔術の勉強に舵を切りましてねえ」
ゴーレムを使用した、実戦を想定した演習の風景に、どこの学校も悩んでいる練習場所の不足をいち早く解決する施策。そして通常の魔術書に加えた、とある英雄様がこれまでダメ出ししまくっていた部分を補完する、付属教材を独自に採用した。
そしてとどめの、アリシアの教員就任。先日の大活躍の熱がまだ冷めていない中、これは大きい。
「VRじゃあ実戦の空気はつかめねえだろ。時代遅れだなあ、そっちの学校は」
軍でも札幌発の妙な訓練メニューが始まるとか聞いたことがある。
「アリシア君がここまで手を回していたとは」
「まあ向こうの学院でもやる気だからなあ。あっちだって大陸が滅ぶような戦いの後遺症で魔術師の人員不足が深刻だ」
ゴーレムはさすがの吉祥院でも知識はあっても、自由に扱える程の技術は無い。それをアリシアが実戦経験に基づいた技術をもって、時間をかけて調整して、どの教員が使用しても同じクォリティになるよう規格化してある。
見た目も含めてあまりの出来の良さに、あれはCGですか? などという問い合わせもあったくらいだ。勿論魔法による本物のゴーレムだと答えた。
「横浜校は霞沙羅にとっても地元の母校ではござらぬか?」
「高校大学と3年程度しか通ってねえから愛着なんざねえよ。横浜校だけが多い予算貰ってんのが気にくわねえだけだ」
「シールにこめられた人格データを読み取って、ゴーレムを作った辺りでアリシア君の技術に気がつくべきでありんしたなあ」
こうなっては仕方が無い。まあ吉祥院はあまり生徒には興味が無いから、実際はそんなに怒ったり悔しがったりはしていない。
どちらかというと、霞沙羅ばかりに地球では馴染みの無い魔術が渡っていることが悔しいだけ。アリシアに頼めば教えてくれるだろうけれど、それを横浜校に活かす気は毛頭無い。
「まあ、横浜優位はかわらんだろうさ。だが神戸くらいは追い抜く嫌がらせはしてやる」
結局の所、校舎サイズの関係で、小樽校は受け入れられる生徒数が少ないので、その分野で他校を追い抜くことは出来ないけれど、結果としては小樽校を選んだ新入生が増加して、他の2校は、特にライバルの位置にいる神戸校希望者がその数を減らすことになった。
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