これからもやどりぎ館で -4-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
始まった会見だけれど、メインの話は当然のように日本の英雄である霞沙羅達3人の方の事件、新宿で展開された戦において、とりあえず使えそうだと判断された画像を軍が提供してくれて、それをなんとかでっち上げたダイジェストとして流しながら、どういった事件であったのかという解説と質問が進んでいく。
今回も戦闘中は近くの建物の残骸にドローンを設置していた。当然これは作戦遂行のデータ取り用途ものであって、PR用の撮影専用の機材ではないけれど、その性能は高いからとても綺麗に撮れている。
なるべくカナタの姿を映さないようにしているけれど、彼女は3人を守りながら戦っているので、なんとか頑張って消しているようだけれど、どうしてもチラッと映ってしまう。それでも軍からの指示があって、その存在は極力スルーしている。
幸いなのは、カナタはあまり派手に攻撃をしていないから目立たないという事だ。
それと、共通魔法はどうやらカメラ越しではハッキリとは映らないらしく、蝶々のような形の魔法も、なにか半透明な板が舞っているだけ。さすがに全宇宙で封印された禁忌の魔術なだけはある。
「ここで増援が入ってくるんですよね」
いきなり登場したシスティーに乗って、アリシア達が星堕の剣に突っ込んでいった所だ。
「これは星雫の剣という事でいいんだね、千年世」
「お兄ちゃん、公衆の面前で千年世はやめて貰おうか。それとこれはウチにいる星雫の剣じゃない、別の個体だよ」
「こいつの持ちもんだぜ」
「伽里奈君も星雫の剣を持っていたんだね?」
「そうなんですけど」
巨大なトライデントとソードが空中で舞うように戦う姿はかなり豪快だ。
ただ、地面で戦っている、追加で現れたアリシア達も、霞沙羅達に劣ることの無い力をもって戦闘を行っているところが映像で流れる。
「この剣士達は榊中佐と互角くらいはありそうだね」
「実際そのくらいはある。今ではいい練習相手だ」
映像で吉祥院が珍しく別の人間と連携して魔法を使用したところでは
「これはどういう魔法を使用したんだい?」
初めて見たとは言え、吉祥院兄にとっては{剛威練帯陣符・炎}は見ればある程度は理解出来る。ただこれは報道番組なので、魔術の知識が無い一般視聴者にも説明しなければならない。
「アリシア君のオリジナル魔法で、あの20枚の魔術基盤でもって、この場合は火系の魔法を圧縮して、貫通力を付与するんだよ。だから本来は広範囲魔法の{滅却煌煌があんな丸になっちゃってる。あの敵は、かなり頑丈だったからねえ、外部からじゃダメだったから、内部に放り込もうと、この彼女に言われてねえ」
それはルビィ。
「千年世が大きすぎるのもあるが、彼女は中学生くらいに見えるけれど」
「見た目はともかく、彼女は私と同程度の魔力を操れるよ。撃った魔法を加工する関係上、双方に差がありすぎると連動できない魔法だからね」
あの千年世様と同程度の実力…。その言葉に会場もどよめいた。
「最後のここも、新城大佐と伽里奈君はとても息が合ってるねえ」
「そりゃあ私のアドバイザーだぜ」
霞沙羅が何を望んでいるのか、アリシアの経験からそれを見抜いた動きをしているどころか、星堕の剣の弱点に導いている。
「伽里奈君は、普段は何をしているんだい?」
無論、会った事もあるし、妹からも訊いているけれど、ここは会見の場。
「小樽校の、と言えば解るだろうが、そこの高校生だ」
「あと下宿の管理をやってます」
「それでこれなの?」
「これで横浜大の卒業資格持ちだし、今はB級魔術師でやんすよ」
「すごいねえ」
と、この兄も卒業検定の審査に参加していたりするが、そこは紹介のため。
「なんでこんな子が?」
「軍の機密情報だ。ただまあ、こいつには最近刷新された、魔術教育の研修用テキストの原案を作成して貰った。私と吉祥院で監修はしているが、ほぼそのまま採用されて、最近では全国で実用化されている」
もうここまで言っちゃうんですか? とアリシアが怪訝そうな顔をするけれど、もはや軍関係者という扱いにしておかないと収拾がつかないので、もう止めない。
「今回の金星接近や新宿の件に間に合ったとは言えないが、次回以降には効果を発揮するだろうさ」
「まさに大佐のサポート役だったんですねえ」
北海道での事件も映像が流れた。こちらは霞沙羅達の姿は無いけれど、霞沙羅が準備していたことになっている。
「こっちはこっちで、色々とすごいですね」
千年世様が同等だと言ったルビィが放った一つの強力な魔法を分割する魔法とか、あまり見ることは無いし、それを全弾命中させる腕はかなりのモノ。
星雫の剣の使い方も巧いし、最上級幻想獣を倒す際の落雷の補助は、ぱっと見地味な事をやっているけれど、広範囲魔法の威力を分散させない補助というところが素晴らしい。
徳佐准将はアリシアが周囲をきちんと把握しながら、自分の居場所を限定していないことにも気がついた。
「伽里奈君はあんなに動くんだなあ」
この前してやられた榊も、客観的にアリシアの本物の戦闘を見るのは初めて。確かに霞沙羅が戦闘スタイルを変えたい、と言った事に納得がいく。
霞沙羅が邪魔というわけではなくて、オールラウンダーな人間として刻々と変わる戦況に対して、戦術を変えてくれるとこんなにありがたいのかと、6人の中では主張が弱めなアリシアがどうしてリーダーだったのか理解出来た。
「こいつの魔術の使い方は面白いんだよな。それに私と同じようなことが出来るのに、平然と手柄を仲間に譲って脇役に徹することも出来る。話に出た二種類の魔法もそうだし、私が最初に使用した【雷の楼閣】はこいつのをパクったんだぜ」
「あれは面白い試みでやんしたな」
果たして有効なダメージが入ったかどうかは解らないけれど、突然自分の魔法に細工をされた吉祥院は、一目見て意味がわかったので文句は言わなかった。
「私は手柄で大佐にまでなったが、ここ2年くらいは、兵隊の教育に関してはこいつが色々と手を貸してくれた。今の小樽校はな、金が無くて施設がショボい分を、こいつが勝手に提案をして、教師も講師も教授達もそれに乗っかって新しい教育をやろうとしている」
何を言い出すのかと、吉祥院が霞沙羅を見た。
「今の私は、名実ともに大佐と呼んで貰えるような勉強をしたいと思っている。ここまでの事を人前でやってしまった伽里奈は恐らくもう生徒ではいられないだろう。だが愛着があるようだから小樽校の改革には引き続き手を貸してくれるだろう」
「お前、どうするつもりだ?」
霞沙羅がおかしな事を言いだした。それで准将が慌て始める。
話が予期せぬ方向に行こうとしているので、現場の空気も凍る。
「正直、私の戦い方は良くない。慕ってくれる人間がいる事はありがたいが、私自身が周りを信じていないから教育が上手く出来ていない。よって私は一度軍を離れる。こいつと、こいつの仲間を見ながら教育
というものを勉強をする。徳佐准将、一年の休職を申請する。まあクビってんならそれでも構わん」
む、霞沙羅さん大きく出ましたねと、アリシアは思う。以前からアシルステラに興味津々だったけれど、来る時間が無かったから魔法学院への出入りも中途半端。タウ達と議論を交わすのはこれまでの状態では無理だった。
「准将、ワタシも実はアリシア君とさっき映ったルビィ女史との話し合いの時間が欲しくてねえ。空霜も上手く使えないし、魔術の形は人によって違うのが最近とても気になっているだっちゃ。まあワタシは軍をクビになっても大学と家と協会の仕事があるでありんすが」
吉祥院も魔法学院に興味があると言っていたから霞沙羅の勢いに相乗りし始めた。
その言葉を聞いて榊までもが口を開いた。
「俺は魔法に弱くてね。伽里奈君はさっきの剣士達にも生き残るために最低限の魔法を教えたというから、知識の差で先日嫌な負け方をしてしまった。俺も彼らに対抗するために魔術を覚えたい。それに自分と互角のあいつらとやり合うのが今は楽しい。まあ俺も軍をクビになっても構わないな」
「なんでボクが全員の話の中にいるんです? なんかボクすごい人みたいじゃないですか」
「いいんだよ、んなこたあ。お前のあの映像を見て納得してない奴はいねえよ」
急に日本の英雄3人が軍を休むとか言い出して徳佐准将は慌てはするが、そもそもここのところの連戦で、彼らを休ませるべき、という意見は軍内にはあった。
それに霞沙羅達は帰ってくる為に離れると言っている。自分たちの欠点を発見して、それを克服しようというのだ。
まだ3人は若い。これからもいくらでも変われる。
そもそもこの3人をこんな事でクビにするとかしたら、日本は全世界から笑いものになるだろうし、あっという間に他国からスカウトされてしまうだろう。
こんな日本中に流されている、生放送の会見場でやりやがったなとは思うけれど、ここで寛大なところを見せる事で軍の評価も上がるだろう。
3人が抜けた後の人事は一時的に混乱するだろうけれど、しばらく大きな事件は起きないだろう。金星の虜関係者は逮捕と自滅で大きく数を減らし、金星の次の接近までは1年以上ある。
「帰ってくる席はそのまま残しておく。ただし一年だ。こちらとしても厄災戦以降にまだ次の世代が育っていない状態だ。あの過酷な戦いを最前線で生き延びた3人の経験を手放すことは出来ない」
「その辺は今、私がこの伽里奈とやってるよ。こいつも色々事情があるから、両方でやっててな。こいつも私が必要なのさ」
「必ず成果を持って帰ってくるように」
「ああ、それはな」
「伽里奈君の就職はワタシとお兄ちゃんが手を回そうじゃないか」
「おいおい千年世」
「いや、あの、話が進んじゃってますけど、そもそも小樽校の生徒が認めるかどうかなんですけど。春から急にボクが教育側に回るとか嫌な人もいるでしょ」
「明日聞いてみろよ。それにお前、忘れたわけじゃねえだろ。今は一蓮托生なんだよ」
「そうでしたねえ」
憎っくき横浜大から予算を奪うということには、アリシアが色々と試作を打ち出しているから生徒は協力的になっている。それを放っていくわけにもいかない。
「話は解った。ただ今日明日から開始というわけにはいかない。日程は調整して、一週間以内には伝えよう」
准将がすんなりと了解したことで、撮影スタッフも、それ以外の報道陣も空気が戻った。
相変わらず吉祥院はアリシアと霞沙羅が何を目的としているのか知らないけれど。
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