その一撃のために -3-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
星堕の剣は、障壁を無効化してくるエリアスの正体がわからないままで戦いを強いられることになった。
「そんなモノを気にしている場合ではないでしょう」
早速カナタが槍で攻撃を行った。ようやく障壁が無くなったので、それなりのダメージが入った手応えがする。
「ここではありませんね」
ただしカナタが期待したモノを探すことはまだ出来ない。
「これだけ手数が増えるとなると、むんっ! これであれば」
星堕の剣の背中から二対の腕が追加で生えてきた。それぞれが刀と槍を持っている。
刀と槍を持っているのは、母親が槍、父親が刀が得意だったからだ。
向こうも増えた人数相手に、取り込んだ2人の力を連携させる気だ。
星堕の剣が独自に持っている破壊光線だけでなく、夫婦二人が使用出来る共通魔法も放ってくる。
「{氷槍・乱}」
共通魔法を使用してくるのなら、それが感知できる人間が防御するほかない。折角フィーネが教えてくれたのだから、カナタの代わりにアリシアが氷の弾幕でもって共通魔法を迎撃する。
その間に星堕の剣が持っている槍がいきなりエリアスに振り下ろされたが、エリアスだけが張っている障壁に完璧に防がれた。さすがにその程度ではダメージは入らない。
そして上空では刀を持った腕がシスティーと空霜のペアの相手をしている。
「あー、何するんだよー」
大丈夫とは思ってもエリアスが攻撃されるのはしゃくに障る。だからアリシアは魔剣で切りつけた。
「ボクの奥さんだよ。[喰らいつく野獣]」
こちらは共通魔法の攻撃魔法。アリシアが左手を突き出すと、巨大な肉食獣のようなシルエットが、エリアスに攻撃した腕に噛みついて、そのまま砕いた。
「こいつ、ホントに共通魔法が使えるのか」
霞沙羅には、このくらいの実戦ともなると、練度の低さから隙が大きくて使えない共通魔法だけれど、フィーネは本気でアリシアに教えていたようだ。
「なら私もやるか」
この中で最も星堕の剣に効果のある武器を持っているのが自分だ。障壁も無くなった今、やるしか無い。
「私の目的のことはお気になさらず。ダメならダメでいいですわ」
「解ったよ」
カナタが母親の一部を望んでいることは解っている。ただ本人も星堕の剣とは初めで戦うから、取り込まれにいった母親の存在がどこにあるのかは見当もつかない。
さっきからとにかく切りつけて、中の状態を確認しているけれど、まだ解らずじまい。ひょっとするともう一緒になっているのかもしれないので、半分諦めかけている。
こちらも、強力な増援が増えたと言ってもどこまで余裕があるのか解らない。
ただ手数が圧倒的に増えたので、戦局は間違いなく有利になった。
「そこの少年、いちいち迎撃するのは効率がよろしくないので、出来るのであればこの[御守の胡蝶]を使用してくださいな」
「え、あ、はーい」
カナタから魔術基板を見せられたので、アリシアは[御守の胡蝶]を使用した。
魔術師としての腕前が上なカナタが使った時よりも蝶がやや少なめではあるけれど、それでも全ての人間にまとわりつかせることは出来た。
「キッショウインさん、こうなればやろうじゃないカ」
ルビィに指示されたとおり、吉祥院は一つの魔法の使用準備を始める。
「{剛威練帯陣符・炎}」
ただし、先に完成したのはルビィの魔法。赤い魔術基板が二十枚が連なるように現れた。
このままでは何も起きないけれど、何かを察した星堕の剣からの破壊光線が飛んできたけれど、アリシアが操る蝶が飛来して、受け止めて打ち消してくれた。
「{滅却煌煌}」
その間にまばゆく輝く巨大な火炎魔法が発動。魔法はルビィの指示通りに、二十枚に及ぶ魔術基板を通り抜けていき、少しずつ小さく、凝縮されていく。
吉祥院が発した火炎魔法は最終的にサッカーボール大にまで縮み、星堕の剣に突っ込んでいく。
「ぬあっ!」
障壁が無くなってもまだ堅い表面を貫いて、体内で大爆発した。
「おー、すごいじゃんか、ルビィ女史」
サポートが上手なアリシア発想らしい魔法だ。あの二十枚の魔術基板は通り抜けた魔法を強固に圧縮して貫通力を与えるモノ。
欠点といえば、ある程度魔術師としての能力が近いか、上回っていないと対象の魔法を受け止められないというもの。その辺はルビィならではである。
星堕の剣は生命体ではないので、体内で爆発をしたところで致命傷になる程では無いけれど、これまでなかった程度には大きなダメージは入った。
そして「今だ!」とばかりにハルキス、ヒルダ、榊の3人が猛攻を加え始めた。
「【怒濤なる魔矢】」
先程、エリアスから弓を手に入れたライアが、オリジナルの魔法を使用。自分で作成した魔力の矢をまるでガトリング砲のように、高速で連射してくる。
「【神の剛拳】」
イリーナが拳を振り上げると、巨大な魔力によるアッパーがきまった。
霞沙羅は、今のルビィの魔法を見て、発生している聖法器の刃を細く集束されるイメージをもって振り下ろすと、星堕の剣が受け止めようとした腕の一本が切断された。
「おっし」
いいものを見せて貰った。長さは変わらないけれど、魔力の刃は細くなり、威力が集中した。
急な使い方に応えてくれたこの聖法器も相当なモノだ。作ったカナタの方は、「あら、そんなやり方が」と驚いている。
「カナタさんて、何か探してるんですか?」
カナタの攻撃は深くえぐるようなモノでは無く、チクチクと移動をしながら色々なヶ所を刺している事に、アリシアは気がついた。
「え、ええ、説明したと思いますが、お爺様との約束で、あの中から母親の体の一部でも回収できないか、探していますの」
「それならちょっと出来るかどうか、やってみますよ」
アリシアは、システィーを操るための青の剣を手元に呼び寄せた。これでどこまで出来るかどうか解らないけれど、やってみる。
「少しだけ霞沙羅さんを守っててくださいね」
上空ではシスティーと空霜が戦っているけれど、二本とも現在は自分の意思で動いている。下の状況的に、指示を与えられる状態では無いからしばらくはそのまま戦って貰う事にして、もう一つの能力を使用する。
アリシアはシスティーの攻撃タイミングに合わせて、青の剣に魔力を注ぎ込むと、突然加速して、星堕の剣の背中に刺さった。
「今のうち」
アリシアは高く跳び上がって、腰の辺りに青の剣を刺した。さすがに反逆心レラの眷属程度とはちがって、強烈な拒否反応があって突入までは出来ないけれど、短時間だけ、体内の捜索を行うことが出来だ。
「いたいた」
この巨体には3つの意思がある。その1つはちょうど霞沙羅の聖法器に槍で対抗していた女性の精神だったので、間違いなくこれだと確信した。
それだけ解ればいい。青の剣を引っこ抜いてアリシアは離脱する。
「あ、しまったなー」
飛び降りてすぐ、あーこれは痛いかなー、とアリシアはとっさに盾を構えた。
体内をのぞき込んでいたアリシアを見つけた星堕の剣そのものの意思が、大きな手で虫を払うかのように振り下ろしてきた。
「私の夫に何をするつもり?」
エリアスの浄化の力でその腕が消滅した。
「エリアス、ありがと。愛してるよー」
「私もよ」
さっきのお返しとしてエリアスのサポートもあって、アリシアは無事に着地すると、カナタの所に戻った。
「今は、人体で言えば肝臓の所にいるよ。お父さんの方は完全に溶けてるけど、お母さんの方はなんとか体を維持できてるねー」
これは本人の能力差によるものだろう。なんだかんだで、水瀬家の人間なのは母親の方なので、よその家から来た旦那とは体の出来が違うのだと思われる。
惑星間移動中がどうだったのかは解らないけれど、片方は星堕の剣と一体化してしまうくらいだから、それなりに長い時間は経っているのだろう。それにもかかわらずまだ肉体を維持しているくらいには、水瀬家の人間は優秀なのだ。
「!」
アリシアに言われて、それならとばかりに、カナタはまた適当な箇所を、何度か槍で突く。
「普通こういうのは頭か股間じゃねえのか?」
「頭はシスティー達が狙ってるから、避けたんじゃないですか? …なんで股間なんです?」
頭を突けばそれで勝てるというワケではないけれど、空を飛んでいる星雫の剣らしい所を狙っている。
「少年、恩に着ますわ」
カナタは自分でも槍で星堕の剣を刺すことで、アリシアが教えてくれた場所に、魔術師として意識を向けた。それで母親の位置と存在を正確に把握することが出来た。確かにあんな所はなかなか狙わないだろう。ヒルダ達も心臓とかお腹とかそういうところの方を攻撃していて、まんまとズレている。
そうはいっても危険が迫れば移動するかもしれないが、次は一度刺した後、その存在の位置を把握して、すぐに本番を打ち込めばいい。
あの母親とはもう20年近くもろくに話しもしていないのによく把握できたモノだと、カナタは苦笑いした。
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