その一撃のために -1-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
「もうひと押しが欲しいところですわね」
16年前から研究して、この時のために改良した聖法器を使用しても、星堕の剣を崩すにはまだ火力が足りない。
やたら堅い障壁が面倒だ。
だからといって向こうも、切り札の一つだった共通魔法をカナタに防御されるので、なかなかダメージを入れることが出来ていない。
結局はお互いに膠着状態になってしまっている。
「良い聖法器なんだがな」
借りた聖法器は霞沙羅では作れないレベルの性能だった。本気で星堕の剣を倒すために作られた、霞沙羅がこのカナタを完全に信用するに足る威力を生み出している。
「残念でしたね、我が娘。なかなかに小賢しい仕掛けをしたところで、この星堕の剣に対抗するには力不足は明白」
「人の姿を捨ててまでこんな所にやって来ておいて、生身の娘にろくに傷も負わせられないとは、とても残念ですわね」
しかしこのままだと、基本的に体力が無尽蔵な星堕の剣がいずれ押してくるのは確実だ。
ここで何者かが飛び込んでくると…、例えば純凪夫婦が来るだけでも、戦況はこちら側に傾くだろう。
そこにズドンと、星堕の剣から生えている人型に、後方から、何も無い空間から突然現れた巨大な剣の体当たりが敢行された。
「おっと、こちらはなかなかに堅い様子」
エリアスが障壁を部分消去しての、システィーによる本体への突撃は成功して刺さったけれど、すぐさま始まった再生の勢いで体から押し出されてしまった。
「今日の獲物はこれで最後だよー」
「これまでとは全く違う雰囲気ね」
それでもヒルダの落ちながらの一撃で、小惑星部分が一部吹き飛んだ。さすがにロックバスターと名付けられただけはある。
「先生よ、助太刀するぜ」
「大きいゾ。これはさっきのより大きいゾ」
「やっぱり弓を持って来れば良かったわね」
「ライアさん、やどりぎ館から取り寄せたわよ。アリシアのだけど使えるかしら」
「おー、大丈夫よ。これで何回かやってるからね」
ライアは弓を受け取った。冒険者時代にアリシアが持っていた弓だから馴染みがある。
「お前ら、北海道はどうしたんだよ」
誰もがカナタと同じ事を考えていた矢先の事だった。しかしこっちが手こずっているのに、本当に終わったのか。いや、終わったから来たんだろうけれど。
「終わりましたよ。空軍基地は壊滅しましたけど」
基地についての詳しい話を霞沙羅は知らないけれど、まず無事ではないのだろう。それでもこの程度の時間で終わったというのであれば、町の方は大丈夫なのだろう。
「しかしホントに全員で来るとはな」
どの程度の幻想獣だったのかは、情報を遮断したので解らないけれど、空軍基地を飲み込むほどなので、厄災戦の時に発生した、霞沙羅達も何度か戦闘経験のある巨大タイプだと想像している。それをどうやって倒したのか、後で見てみたいモノだ。
この戦いが始まる前に霞沙羅が命令したとおり、現地の人間はアリシア達を通したのだろう。結構無茶な指示をしたけれど、ホントによくもまあ通したモノだ。
「アリシア君達は恐ろしいでありんすな」
「なんて無茶なことをするんですの」
増援があれば、と思った所にいきなり星雫の剣が突っ込んできてぶっ刺さるとか、あまりに乱暴な行動にカナタは呆れるしか無い。
ただ笑えることに、絶賛再生中ではあるけれど、母親達も不意を突かれた様子。足の小指をタンスの角にぶつけたような、不意の激痛に耐えているかのように、動きが止まってしまっている。
「おうサカキ、ようやくお前と同じ戦場に立てるな」
「ああ、助かる」
お互いを認め合う男二人は、立てた腕をぐっと押しつけあった。
「私もいるわよ」
「ああ、3人でこんな強敵の前に立てる日が来るとはな。これは楽しい時間になりそうだ」
ヒルダとも同じように腕を押しつけあった。
「見たところ無傷っぽいですけど、何か問題でもあるんですか?」
作戦が始まってからそれなりに時間が経っているのに、まだ小惑星は健在だ。
周囲を探知してみると、なんか小さな反応が、軍人達と戦っているようだ。
「障壁が邪魔をして、折角作った聖法器が上手く効果を発揮していないのですよ」
「霞沙羅さんが持ってるあれですか。あれスゴイ出来ですね」
と言っても霞沙羅達にも、何か致命的なダメージなどは入っていない様子。
「エリアス殿が来てくれてその問題は解決しそうでやんすが 人が増えてしまっては、共通魔法対策が手薄になってしまうでありんす」
「あのー、フィーネさんに少し前からラーナンの魔法を教えて貰ってたんですが、じつは共通魔法だったとさっき言われました」
「あいつは未来が見えるからな。じゃあお前はお前の軍団をサポートしてやれよ」
正直ここまでやって来て、戦力増強は嬉しいけれど、守りとなると保証は出来ないと思った。カナタは上手くやってくれたけれど、そのせいで攻撃力も落ちていたから、そういう事情があるならこれで状況は良くなるとは思う。
冷たい言い方になってしまったけれど、アリシアなら言われなくても解っているはずだ。
「じゃあルーちゃんは吉祥院さんをサポートしてあげてよ」
ルビィだけは頑張りすぎている感じがあるので、今回は無理をさせない。冒険者時代は、場合によっては交代してアリシアのサポートをして貰う事もあったから、そう指示すればやってくれるだろう。
吉祥院がどういう事が出来るのかは、これまでの練習で解っているだろうから、合わせてあげて欲しい。
「ルーちゃん、この魔法を教えるから。使い方は解るよね?」
アリシアはルビィの手を握って、地球側の魔法と連動できるようにしたアシルステラ製の魔法を、魔術基板ごと送った。
「おう、これは例のあれカ。こっちだとこうなるんだナ」
地球の魔法はまだ初級までしかマスターしていないけれど、さすがに一回触らせれば、ルビィなら理解出来る。二人はそういう仲だ。
「これは今まで使う機会が無かったから吉祥院さんに説明しておいてね。それじゃあボクは霞沙羅さん達のサポートも始めるかな」
ここまでの人間が揃えば後はもう攻めるしか無い。
システィーは空霜に対して何かのアドバイスをしている様子だ。システィーはこれまでこっちの世界であの剣の状態になる事は無かったから、ペアになるのは初めて。
そうこうしていると星堕の剣の人型が、修復を終えて再び動き出した。
「まさか星雫の剣がこの星に二本もあるとは思いませんでしたよ」
「一つの宇宙に一本ではありませんからね。余所の星に飛来した星雫の剣がここにあっても不思議ではありませんよ。異世界など無いとあなたが解き明かしたというのに、この考えに至らないとは間抜けですわねえ」
実際はカナタも最初に見た時に驚いたクチだけれど、ここはこう言って、母親の動揺を誘っておいた方がいい。
「じゃあ新城大佐、みんな見てますから、ここは頼みますよ」
「お前な」
アリシアが「大佐」なんて呼んだことは一度も無かった。
「霞沙羅さんの関係者って事にしておかないと後で説明がつかないですよ。ボクら、北海道の件でテレビとか動画でリアルタイムに配信されちゃってますから、多分」
「わーったよ」
まあ心強いことこの上ない。
自分たちの防御をしながら、自分の攻撃をしていたカナタも相当に心強かったけれど、付き合いが長いだけあって、信頼度も高いアリシアご一行様の方がいいといえる。
ここに来てルビィに何かを仕掛けて吉祥院の横に行かせているし、あっちはあっちで何か策があるのだろう。ここに来てもまだ策があるというのなら面白そうだ。見せて貰おう。
話には聞いていたけれど、ライアは飛び道具も得意だと言っていたし、イリーナも防御は得意。
「そこのかわいい英雄さん、そちらは任せましたわ」
ここまでの状況を見てこの二組は連携できるだろう。そう判断したカナタは防御魔法をやめた。ここからは誰の援護もせずに、自分の事だけに専念するのだ。
母親の腕の一本だけでも山に埋めたいと言っていた。それが上手くいくかどうかは解らないけれど、やる気だ。
「霞沙羅とアリシアはホントの姉弟みたいね」
エリアスがやって来た。
「私には本物の弟がいるんだがな」
「袴の仕事で着付けをしてくれたから知ってるわよ」
「霞沙羅先生がボクのお姉さんだったら自慢しちゃいますねー」
アリシアは霞沙羅を尊敬してくれているし、霞沙羅はアリシアを信頼している。戦場では出来る事がほぼ同じなので、アリシアは霞沙羅を見事にサポートしてくれる。アリシアは自分が必ずしも手柄をとらなくても良いと思っているので、出しゃばる事が無く、この辺りの位置調整はとても上手い。
この後の軍の発表の事も気を遣ってくれているから、ここは現地人である自分たちが撃破するのが筋だろう。
「頼むぜ、弟くんよ」
「はーい」
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