祈りの声を聞く者は無し -3-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
「これは大丈夫だろう」
時を同じくして、大きな戦いが始まった北海道の状況を聞いて、軍本部で指揮を執る徳佐准将も一息ついた。まだ終わっていないけれど、ディスプレイ上で小さくしたウィンドウに映る札幌と空軍基地の今を見ると、これの結末は決まったようなものだ。
「新城君達にはどんな付き合いがあるんだ?」
情報ではアリシアの事は知っているけれど、星雫の剣を持っていたことと、どこからか現れたバカみたいに強い仲間については聞いていない。
それに准将でも知っている、小樽の魔天龍様も魔術師として軍に協力してくれたとか。
とにかく、この国の危機だという状況に来てくれた、あの古い時代から来たような人達には感謝しかない。
「だったら我々は新宿に集中するとしよう」
北海道を抑えてくれただけで、これほどまでに作戦に集中できる。後で礼を言わなければならない。
* * *
「ルビィの次の魔法まで時間を稼ぐぜ」
さすがに大規模な魔法を使ったので、ラシーン大陸最強レベルであっても、次の魔法を使用するまでにはワンクッションが必要だ。
空軍の施設を飲み込んだ巨大幻想獣はここに定着しているのか、歩き出すような事は無いけれど、全高で200メートルは下らないであろう最上級幻想獣は。その上から半分くらいが腕を二対備える人のような姿に変貌した。頭は髪の毛もなく、顔には大きなナッツ型の目があるだけというシンプルデザイン。
「なぜ我々の理想の邪魔をする?」
「誰も望んでないからに決まってるじゃん。バカなんじゃない? もう何度もこの手のとやって来て、ボクは妄想も言い訳も聞くつもりはないから、さっさと消えて貰うよ」
つまらない人間達の自己中心的な妄想を聞く気は無い。自分達から進んで平和を乱そうという企みに身を捧げたのだから、同情の余地もなく敵だ。今更説得する気も説教する気もおきない。
今回はカナタが関わっていない事もあって、事情を知る理由も無いから、アリシアだけでなく、ハルキス達も同じように、システィーから降りて走り出した。
「マリネイラ様! 我らの理想を果たすため、その力を与えたまえっ!」
幻想獣が空に向かって祈りを捧げたのだが、この空軍基地にはどこかで聞いたような声が響き渡った。
「かの愚か者がそち達、塵芥の言葉に耳を傾けることはもはや無い。これまで幾度も我の眠りを妨げ続けた罪、万死に値する」
「な、なに!?」
明らかに拒否のお言葉だけれど、これは多分マリネイラではなくて別の神様だ。
「本物の神様ってやっぱり違うわね」
「あれ、やっぱりこれって?」
「金星までお説教に行ったみたいね」
マリネイラを黙らせにちょっと金星まで、ってスケールが違いすぎる。そもそもエリアスは今のこの美女の姿しか無いそうなので、この辺からして大きく神としての格が違う。
「永久に歴史の笑い者となり、惨めに滅びるがよい。これは神よりの死の宣告である」
「ど、どういう事だ! お前は何者だ!」
フィーネだ。確かにさっき何か言っていたようだけれど、やどりぎ館の入居者兼管理者の立場から、いい加減騒がしい状況を生み出すマリネイラにクレームを入れに行ったのだろう。
なにがしかのパワーアップか、もしくは回復かをあてにしていた、三本木少尉と言っていいのか、幻想獣の中にある意識の集合体は、いつまで経っても届くことの無いマリネイラからの力の供給に対して焦り始めた。
しかし言うことは言ったフィーネがこれ以上なにか伝えてくることは無かった。
これまで札幌に飛ばした3回分の幻想獣と、ここに配置していた残りを全て失い、もう自分たちしか残っていない。そして消耗した力が補充されることはないから、もう一度作り出すというわけにはいかない。
「あとはもう削りきるだけみたいですね」
と、いきなりシスティーが容赦無く、最上級幻想獣を脳天から叩っ切った。
「あははは」
「そういうことかよ」
ハルキスもハルバードからの爆炎の一撃を振り下ろす。
「なんだか解らないけど残念だったわね」
巨体のワイバーンを真っ二つにするどころか、城塞の城壁をも砕くロックバスターの一振りを、ヒルダはお見舞いする。
「信じる神にそっぽを向かれて哀れね」
イリーナがハンマー投げの要領でくるくる回り出して、その手にしているハンマーから浄化の力の塊を打ち出した。
「このサイズになると私は出番が無いわね」
「ルーちゃん待ちだからライアはそうなっちゃうね、じゃあルーちゃんの守りを頼むよ」
今回は役を交代してアリシアが前に出て行く。
とはいえ、ここで動きを止めるわけにはいかない。巨大幻想獣の表面からいくつもの、人間サイズの手が生えてきて、漆黒の火球を放ってきた。
それに対してハルキスは先程のイリーナのように、ハルバードを構えて上半身を二回回すように振り回すと、炎の竜巻を起こして、黒い火球を吹き飛ばした。
「アーちゃん、氷」
「はいはーい【氷棺】」
アリシアは魔法でちょとしたビルほどの大きな氷の壁を作成した。それを軽く跳んだヒルダが猛烈な勢いでロックバスターをひらめかせると
「【粛正の御手」」
イリーナが掌で壁を叩くと、バラバラになった氷の塊が、数百の破片となって無数に生えた手に向かって音速を超えて突っ込んでいき、次々に潰していった。
本当はこんな使い方をする魔法では無くて、目標を氷に閉じ込める魔法だったけれど、ランダムに攻撃するにはこういう使い方も悪くない。
「弓を持って来れば良かったわ」
「これを見ると、久しぶりに【怒濤なる魔矢】を見てみたかったもんだナ」
「貴方たちは特別だったものね」
女神の出番が無いなあと、エリアスは嘆く。そのくらいテンションが上がってきた。
「女神が何かしてもまだあれは踏ん張りそうだゾ」
そういうルビィは準備中。
「そうね。女神が舐められてるみたいだし」
そう言うといきなり幻想獣の胸に大きな穴が空いた。
「な、なにいいいっ!!」
余所の女神からいきなり謎の攻撃を食らい、幻想獣が絶叫をあげる。
「あそこだけ浄化しただけよ」
「私たちはこんなのと戦おうとしてたのね」
「アーちゃんは一人でどうするつもりだったんダ?」
「私と戦うことよりも自分の人生のことを考えていたのよ」
「貴族になるのがよっぽど嫌だったのね」
「しかしアーちゃんのおかげで美味しい料理が食べられるようになっタ。じゃあそろそろいくカ」
幻想獣の胸に空いた大穴はなんとか埋まっていく。さすがに1000人以上の人間が命を捧げただけあって、ただの完成態とはワケが違う。魔力の供給がなくなったとはいえ、まだタフである。
そこに仕掛けを終えたアリシアが帰ってきた。
本当にフットワークが軽い。
幻想獣を囲むように、ポールのような、青い棒のような魔力結晶が10本生えてきた。これはアリシアの仕業だ。
これにて役割を終えたハルキス達も急速に離れ始めた。
「殺意が高いわ。絶対に逃さないつもりね」
「ウチのリーダーは帰ることを一番考えていたのよね」
逃げるための話を例に挙げることが大きけれど、勝って帰るという事も勿論考えている。
「【轟雷逸激】」
霞沙羅につけて貰った制御装置を解除した轟雷の杖からの極太のビームのような一撃は空に消えていき、その数倍の威力になって落ちてきた。
スパークする巨大な雷の塊は幻想獣の上空ではじけて、10本の魔力結晶に降り注いだ。
「ぐほあああっー!」
猛烈な雷の力に満たされた結界に閉じ込められて、幻想獣は絶叫をあげて、全身が黒焦げになり、ボロボロと崩れはじめた。
システィーの先制をくらい、ハルキス達に散々攻撃され、エリアスからの浄化まで貰った幻想獣は、雷の檻に閉じ込められて段々と姿を失っていく。
「ぬおー、なかなか粘るじゃないカ」
ここまでの攻撃をくらっても、サイズが規格外に大きいだけにまだまだ形は残っている
「マリネイラさまっ! なぜ、なぜ、我々は」
「もう誰も聞いてませんよ。お疲れちゃん」
ズドンと、無慈悲にシスティーが脳天から刺さって、今度こそ巨大な幻想獣は一斉に灰となって崩れ落ちた。
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