祈りの声を聞く者は無し -2-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
「第四波は来ぬよ」
フィーネはそう言っていなくなってしまったけれど、まだ事件は終わっていないので、札幌市街地では各所で警戒が続いている。
確かに軍の広範囲警戒システムにも、アリシアが作った新型探知機にも、札幌周辺にはもう幻想獣の反応が存在しない。
札幌では各区域を守っている軍の部隊が、落ち着いたこの時とばかりにドローンを飛ばして被害状況と確認を始めた。
それとは別に軍の兵士達は、臨時で制御を借り受けた千歳空港のカメラを見ているし、警察や協力会社の人間達はテレビか、同時に流してしているネット配信を見ている。
どこからか、テレビ局のドローンまでもが飛んできた。
そして、建物の中に身を潜めていた人間がこの映像を見て、思わずあげた声が小さく聞こえてくる。
「ホントに終わりそうね」
「アリシア様達はやっぱりすごいな」
勿論地球人である霞沙羅も吉祥院も、シャーロットからすれば尊敬している魔術師だけれど、アリシアだけじゃなくて、あの背が低くてなんとなく子供っぽいしゃべりが特徴のルビィも異常なレベルの魔術師だった事が解った。
「うわー、ロンドンに帰りたくなーい。あの人ともっと話をしておけばよかった」
「ルビィ様は大陸最強レベルだぞ」
学院の賢者に比べたら魔術の知識も制御能力も劣るけれど、火力だけなら誰も勝てないという話だ。
「あの小さい人ってすごすぎるじゃない」
札幌にいた時にはアリシアがわざわざ魔法を分割していたのも頷ける。
ルビィが使う魔法に合わせて全員が動いているのもすごい。誰もがバラバラに動いているようでいて、互いの状況を把握しているようでもある。
あれでも4年ぶりになるような全員集合の本格的な戦闘なのに、連携が崩れていない。
その中でアリシアが場面によって立ち位置を変えているのが面白い。今回は前に出ることも無く、ルビィの側にいてあの魔法が出るまでの護衛にあたっている。
「ところで、アリシアって誰?」
さっきからシャーロットが連れているアンナマリーがここにいない人間の名前を口にしているのに、二人の会話は成立している。
じゃあ誰のことを言っているのかと、一ノ瀬からすれば気になる。
「伽里奈の本名はアリシア=カリーナなのよ。日本では逆にしてるだけ」
「アリシアって…、女子みたいな名前なのね」
あの外見でアリシアと言われたら確実に女性と思われても仕方がない。一ノ瀬も入学してすぐ辺りは変な女子がいると勘違いしていたくらいだ。
* * *
「お母さん、そっちですごいこと起きてない?」
エリアスによって無理矢理避難させられたやどりぎ館でゆっくりしていろと言われたので、ハラハラしながらテレビを見ている吾妻社長の所に、神奈川県川崎市にいる娘から電話がかかってきた。
「北海道の事件なのに関東でも放送してるの?」
「そうそう。それでネットでも話題になってる。それになんか魔術師の人がすごい見てるって」
関東は新宿での軍事作戦を放送しているはずなのにそうでもないようだ。一応北海道でも新宿の映像は流れているけれど、それは軒並みサブチャンネルに移動している。
当然、新宿なんていう、随分離れたところで起きていることをメインで流している場合じゃない。道央はかつてないほどに大ピンチなのだ。
軍からの情報提供もあるし、地元テレビ局が各地に設置したカメラを総動員して、この事件の行く末を追っている。
正直、新宿の方は画が遠景過ぎてちょっと面白みが無い。
現場では軍が記録を撮っているだろうけれど、極秘作戦だ。そんなモノを無編集で生放送してくれるわけは無いのだ。
「起きてるわよ、あなたに勉強を教えた伽里奈君が最前線に立って対応しているわ」
「お母さんは大丈夫なの? 札幌でしょ?」
「今は会社の人達と一緒に、隣の小樽市にいるから大丈夫よ」
「そうなの? ねえ、あの黒い服の人って、この前二子玉川で戦った人だよね? 伽里奈さんだったんだ。確かに女子みたいだもんね」
「私もあんな子だったなんて知らなかったわ。実力で言えば新城大佐くらいはありそうね」
魔術師だとは聞いているから、先日は空間転移に頼ったけれど、後で知った話だと一日にあんなに何度も連続で使用することは出来ないらしい。そんな事が出来る人間だとしたら、本当に魔術師の上位に位置しているハズだと言われた。
「社長、なんかすごいことが起きそうですよ」
テレビではちょうど、エリアスが抱えているルビィが魔法を使用したところだ。エリアスが何食わぬ顔で空中を滑るように飛んでいるのも驚きだけど、範囲の大きな雷撃系の魔法が炸裂して、轟音を伴って画面が真っ白になる。
しばらくして元の景色が映し出された後は、広範囲にわたって滑走路が爆ぜて黒焦げになっているだけで、その跡には何も残っていない。幻想獣が消滅したためだ。
しかもどさくさ紛れに巨大な幻想獣の一部も巻き込んでいて、その表面が焦げてしまっている。
「わあ、もう大きいのしか残ってない」
「あの大きい剣て何なのかしら」
アリシアに接触した人か、札幌中心部にいる人しか情報を知らないから、まだシスティーがなんなのかの説明はテレビ上では出てきていない。
ネット上ではあれも星雫の剣なのでは、と考察されているけれど、その例が一本しかいないので解っていない状態だ。
「早く小樽に行きたい!」
「そ、そうねえ」
ネット経由で魔法を教えてくれた人があんなに強かったことに娘が興奮している。
わざわざ小樽校を希望するなんて、と思っていたけれど、大学を卒業するまでに良い勉強が出来そうだ。
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