出撃する英雄達と女神 -7-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
空軍基地とは別にある、千歳市の駐屯地に山縣中佐はヘリで函館からやって来た。勿論現場の指揮をするためである。
危険を避けるために、ヘリは空軍基地を大きく迂回したけれど、その機内からは双眼鏡を使って幻想獣の姿を確認した。
恐らくかわいがっていた部下がその一部となっているだろう肉の塊。それを倒す指揮を執る事になろうとは、とため息が出る。でもだからこそ自分がやらなければならない。
「状況は?」
機内である程度の情報は貰っているけれど、中佐は改めて現地の人員から報告を受け取った。
空港周辺は、ジワジワと千歳空港の滑走路にも足を伸ばし始めた大小の幻想獣が守りを固めている状態だ。
攻撃の方はそれほどではないが、とにかく数が多い。
周辺の住民や空港にいた客や職員は避難を終了して、地上部隊がにらみをきかせている状態。
「札幌は無事なのだな?」
「はい。新城大佐から連絡のあった、前回と同じ傭兵、ではなく、札幌駐屯地で魔術の教育を行っていた伽里奈=アーシアを中心とした一団が、空霜とは別の星雫の剣を伴って防衛にあたり、大戦果をあげているという事です」
「あの少年か、大佐の右腕と言ってもよかった」
あまり会う機会は無かったけれど、全国でも新しく始まった魔術師教育プログラムのテキストは彼が原本を書き、とても評判が良い。
しかも別の星雫の剣まで持っているとか。
霞沙羅との対比もあって、随分と控えめな人柄だったけれど、そこまでの人物だったのか。
「現地駐屯地からの連絡では、第三波が片付き次第、空軍基地に陣取った幻想獣を討伐に乗り込んでくるということです」
「なんとバカな…、いやしかし、星雫の剣を持っているとなると不可能ではない、か」
貰った画像では、空霜とは違って、巨大な剣の姿をしている。
テレビやネットでは突然現れた謎の星雫の剣に関する話題で持ちきり。それというのも、札幌の防衛が成功しているからだ。正直、札幌にとっては絶望的な状態に現れた希望だ。市民が騒ぐ気持ちもわかる。
そこに札幌駐屯地からの連絡が入った。
「現在第三波の襲来が間近に迫っています」
「そちらは本当に大丈夫なのか?」
一応確認する。
「大佐が残していった伽里奈君の一団の活躍がめざましく、戦闘による建物等の被害はありますが、それもこの状況からすれば上手くいきすぎているくらいです」
札幌に本社を構える各テレビ局が、避難前に仕掛けるだけ仕掛けていったカメラにも、勇気があるのか無謀なのかオフィスに残ったカメラマンによる映像も使って、生放送で札幌の状況が放送されている。
町にはもう民間人の姿はない。地下に逃げたか、遠くまで逃げられたのか、とにかく無事に避難は終了している。
そのカメラの一つに、やたらと古風な姿をした一団が移っている。まるで中世ヨーロッパの時代からタイムスリップして来たようだ。
「彼らです」
「確かに、伽里奈君のような姿がある」
その中に黒いドレスを着た、赤い髪の少女、じゃなくて少年がいる。
その7人組が、駐屯地からの人員だろう、兵隊と話をしている。
テレビ局のアナウンサーは「彼らは何者でしょうか?」と言い、何も無い今の時間を使って、これまでの鬼神のような暴れっぷりをリプレイしている。
カメラでは捉えきれない程の素早い動きをする人物達と、次々とスライスにされて塵になっていく幻想獣。
一瞬で画面が真っ白になり、カメラが揺れるほどの威力の雷撃。
軽々と、次々に空に打ち上げられて、空中を走っているような女性に切り刻まれていくワニ。
ぐるぐると回転して乱暴に飛び回る巨大な剣。
「でたらめじゃないか」
避難先で生放送をしているアナウンサーからも「フーッ!」っといった興奮した叫びが聞こえる、あまりに強すぎて爽快としか言えない映像だ。
霞沙羅が彼らを「通せ」と言ったのも解る。
こんなの見たこと無い、山縣中佐も笑ってしまう。
これなら…。
* * *
到達した第三波の中には、向こうにもマリネイラに命を捧げた意地があるのだろう。なんとしても札幌を壊滅させるべく、完成態が一体混ざっていた。
雄のライオンのような頭部をした、かなりがたいのいい二足歩行で、全高四十メートルの大きな姿をしている。
たてがみの印象もあっていかにもパワフルで、強そうではある。
「マリネイラ様のためにもお前達は死ぬのだ!」
周囲の建物も振動するような咆哮を上げて、手に持った大きな斧を振り上げて、大きな幻想獣は札幌の町を歩いてきた。
「うわあーっ、完成態だっ!」
今林3兄弟も、こんなに間近で本物の完成態を見るのは初めて。
この辺りに立っているビルよりも大きい事が解る。そんなのが敵として歩いてくるのだから足がすくむ。
どこの協力会社も警察も軍の人間の多くも、実際に完成態と相対するのは殆ど機会は無い。こういうのは霞沙羅達ほどとはいかないまでも、軍でも上位の人間が対処するモノだ。
さすがに一目でヤバいと感じる大きさに、一度部隊を下がらせようとする。
こんなのと平然と戦っている霞沙羅達には、今更だけど尊敬の念しか沸かない。
「これが完成態なの?」
シャーロットも勿論初めて生で見た。その見上げるような巨体は映画のワンシーンのようだ。
「ワイバーンよりは小さいな。アリシア様達ならどうにでもなるんだろ?」
「アンナマリーは2回も大きいの見てるからねえ。まあいいや、今回は周りが廃墟じゃないからさっさとやっちゃおー」
あんまり長居されて、町を壊されては困るからアリシア達で率先してやるしかない。
ライオンの幻想獣が口を開いて、大きな火球を放ってきたけれど、エリアスは変に受け止めずに、人には見えない奇跡の力で消去した。
次にハルキスとヒルダが接近して行って、それぞれが魔剣を一振りすると、魔力を纏った範囲の広すぎる斬撃に真っ二つになりそうになったのを、幻想獣は意地を見せて踏ん張り、修復を始めた。
「【神の鉄拳】」
イリーナが拳を突き出すと、飛んでいった巨大な拳が幻想獣の腹に命中して巨体がよろけた。
そこを地面から空中に落ちていくように、逆さに飛び上がったライアが、サーベルで下から上へと切り刻んでいく。
「ライジングブレード」
上空で柄に乗ったアリシアとルビィから雷魔法を受け取ったシスティーが幻想獣の上に落ちてきて、刺さった。
「これもうメチャクチャでしょっ!」
強大な敵に怯まないどころか、倒せるのが当たり前のように連携攻撃を流れるように決めていくアリシア達の動きに、一ノ瀬も笑うしかない。
幻想獣の身長よりも長いシスティーからの激しいスパークの後には、もう巨大な幻想獣はいなかった。
先日の二子玉川で幻想獣を倒したのがアリシアであることはもう間違いは無い。これは本当に一人一人が霞沙羅達に匹敵するのだろう。
「第四波はまだ準備が出来ていないようですね」
システィーは千歳の状態を見た。さすがにこの短時間に300体を超える幻想獣を放ったからか、息切れを起こしているのだろうか。それとも、本部となる最上級自身の防衛のためには、これ以上送れないのか。
「千歳の立入禁止区域に残っていたマリネイラの魔力と、今回の祈りによる力を足しても、無限にはならないから」
エリアスが見ても、もともと閉鎖区域に残っていた残存魔力はもうなくなっている。
空軍基地にいる巨大幻想獣はそれを利用するために持っていったのだろう。
元々旧23区ほどは魔力が残っていなかったから、取り込まれにいった人達がまだマリネイラに祈っているとしても、これだけ短時間に無駄遣いをすれば弱体化してもおかしくは無い。
行動を起こすタイミングは良かったのだろうけれど、さすがにアリシア達がイレギュラーすぎた。
「もう次は無いみたいだから、ここにいるのが全部片付いたら移動するよー」
「私らはこっちのことは解らないから、アーちゃんと女神に任せるゾ」
「そろそろ大物を狩りにいこうぜ」
「なんだったらカサラさんの方にも行ければ良いわね」
あっちはどうなのだろうか。日本にとっても戦ったことがない相手だから解らない。ただ、星堕の剣は神になりたいだけで神ではないから、倒せない相手じゃない。
「ちょ、伽里奈アーシア。ちゃんと帰ってきなさいよ」
「伽里奈君にはまだまだ色々と教えて貰わないといけないだろうからね」
「ん、んー」
これだけの差を見せつけられて、まだ何かを教えて貰おうという考えに至る心意気はどこから出てくるのだろうか。このお祭りみたいな状況がそうさせているのだろうか。
とにかく、やる気があるというのなら、もうちょっと、高校にいられる間は付き合うことにしよう。
早藤や中瀬のいるE組の生徒達は果たして今のこれをどう見ているのだろうか。
まあそれは、この事件を終わらせてからだ。
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