出撃する英雄達と女神 -6-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
「まさか人生で2回も星堕の剣と戦うことになるとはなあ」
どうしても、前線から抜けてきてしまう通称「堕人」に押されている場所に出向いては、純凪モガミはそれらを殴り倒して回っている。
16年前と姿は違うけれど、敵として感じる雰囲気は同じ。ヤマノワタイの歴史上、誰もこんな経験をした事は無いだろう。
「時々魔術を間違えそうになるわね」
カナタが作ってくれた魔術の変換装置を使って、純凪アリサも魔法で対抗していく。
吉祥院と霞沙羅によって表面には大きくへこみが出来た小惑星ではあるけれど、出現した本体にはまだ大したダメージは入っていない。
「厄災戦の時の霞沙羅君は一人で突っ込む癖があったが、しばらく見ないうちに千年世君のサポートをするようになったみたいだな」
周囲にいる若い軍人からは「あの人達はあんなに強かったのか」と思われ始めている。
後ろに立ってサポートをするだけかと思ったけれど。雑魚とは言え、押し寄せる「堕人」を純凪夫妻は圧倒していく。
「お二人がこんなにお強いとは思わなかったです」
戦闘用の、家の正装である袈裟を着込んだ空地桜音が配下10名をつれてやって来た。
「父と祖父はお二人と知り合いとのことですが」
「そうだったね。君のおじいさんとの契約で、厄災戦の時は小樽周辺だけは守っていたが、地区限定だったからあまり知られていないんだよ」
やどりぎ館に引っ越してきた霞沙羅からは、この大僧正の孫は散々な評価を受けていたけれど、よくこんな危ない所まで出てきたものだと思っている。
勿論この国の一大事だ。各宗派のまとめ役である空地家が出てくることで現場に良い影響を与えるという効果はある。
「自分のことは霞沙羅さんから聞いているようでしょうが」
「変わったとは聞いているよ。千年世君もかなり悪口を言っていたが、辞めた方がいいとは言っていなかったからね。これからも経験を積めばいいじゃないか」
「そ、そうですか」
「君はまだ若いんだ。今の家で生きていくのなら機会はいくらでもある」
「桜音様、怪我人をお願いします」
軍人がやって来て伝聞を伝えてきた。
「早く行ってあげて。貴方たち神官がいるから、彼らは前に出て行けるのよ」
「わ、解りました。じゃあお前達、いくぞ」
「はっ!」
桜音達は気合いを入れて、怪我人が運ばれた場所に向かった。
* * *
水瀬カナタが槍を軽く一閃するだけで多くの「堕人」が真っ二つになっていく。
「お前はすげえな」
カナタの槍からは、霞沙羅の長刀のように魔力の刃は発生していない。一閃した瞬間だけ『気』で出来た薄い刃が発生して、遠くの敵を切り裂いていく。
「まだ至りませんよ」
槍の本領を発揮するまでではないということ。まだまだセーブしている状態だ。
「カナタ氏のところの二人組はあの配置でいいでやんすか?」
船形アオイと沼倉ソウヤは純凪夫妻がいる場所から星堕の剣を挟んだ反対側にいて、堕人の対応にあたっている。
「ヤマノワタイ人が片側にだけいるわけにはいかないでしょう?」
「まあそうだよな」
これまで学習はしたけれど、本番となれば現場は戸惑うこともある。あの二人は純凪夫妻と違って星堕の剣との実戦経験はないけれど、子供の頃にはその戦争時代を生きて、ヤマノワタイで散々学習をしているので、知識が違うし、アオイは魔術にも強い。そういう人間がいれば心強さが違う。
そして霞沙羅達4人は前線よりも更に前にいる。
「北海道はどうなるんですの?」
「余計なノイズになるだけだから連絡は切ってる。だが命令は出しているから大丈夫だろ。向こうには神が2人いるんだぜ」
「一人くらいこちらに欲しいですが、この星とは無関係の神ですからね」
そもそも神に期待しても仕方が無い。そういう気まぐれな存在は、最初からいないものとして考えた方ががいい。
北海道側で起きた重大事件によって引き起こされる軍の混乱が回避できたのならそれでよしとするしかない。
「アリシア君がどうにかするでやんしょ」
とりあえず吉祥院は左手に持ったトライデントを通して、空に浮かぶ空霜から小惑星に稲妻を落とした。
「大きいだけに耐久力は最上級の幻想獣以上だわよ」
「空霜は援護を頼みますわ」
カナタはまたコートの中から長い柄だけを取り出して、次にとても大きな刃を空中に放り投げて、落ちてくるそれを柄の先に装着した。
これで全長10メートルの槍のような武器が完成した。
「霞沙羅さんはこれを使ってくださいな」
「おいおい」
「私が作ったこの星用の聖法器ですわ。神の扱いに長けたあなたが使うのが最適でしょう」
剣だか槍だか解らない形状の聖法器は、大きさの割には霞沙羅の動きを阻害するほどの重量ではない。それでいてとても頑丈そうだ。
「名高い鍛冶であるあなたなら扱い方も解るでしょう。起動までの時間は私が稼いでいますから、落ち着いてあなたが信じる神にでもメッセージを送っていなさいな」
「神かよ、めんどくせえな」
まあ霞沙羅なら、掴んだだけでこの聖法器がどういう構造なの理解出来た。これに使われている素材も、その成分も把握できたけれど、これと同じモノは作れそうにない。
「それでは」
カナタの方はというと、またコートから大きな刃を取り出すと、手に持った槍の先に取り付けた。
「[嘆きの死火]」
対象が燃え尽きるまで決して燃え尽きることのない炎を、大きくなった槍に宿した。本体への着火は出来ないかもしれないが、火で斬ることによる追加のダメージはあるだろう。
「すみませんがそちらのお侍さん、しばらく私に合わせてくださいな」
榊はどうすべきかと霞沙羅の事を一度見た。準備に時間がかかりそうなら仕方が無い。
「いいだろう」
「[御守の胡蝶]」
カナタ達4人の周囲を蝶のようにひらひらと飛ぶ、四角い板が多数現れる。勿論魔法名のごとく、これは全て攻撃から身を守る壁となる。
「これの制御がある関係で、ここからの私は多少は動きが鈍りますのでご容赦を」
「1人でワタシら3人の上位互換とは恐れ入るねえ」
悔しいけれど、これで吉祥院は全力での攻撃が可能になる。ここは感謝しよう。
「それが我が家を継ぐということですから。あそこにいるひねくれ者は理解出来なかったのでしょうね」
星堕の剣にとどめを刺すには、霞沙羅が手にしている聖法器に頼るしかない。
カナタはマリネイラの力ですら使用出来るけれど、神聖魔法はやはり現地人に頼るのが最も効率が良い。
吉祥院よりも榊よりも、フィーネやギャバンと酒を酌み交わせるほどの、神と対話が出来る霞沙羅がここでは一番の適役だ。
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