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出撃する英雄達と女神 -5-

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  地球      :アリシア

  アシルステラ  :アリシア

 幻想獣の第二波が札幌に迫る中、フィーネのトカゲがせっせと運び込んできた軍人や警察、協力会社達が札幌市街地に配置されていく。


 住民達は、各所に配置された軍の警報機材からの声を受けて、南から迫る幻想獣から逃げるために、札幌市内を北へ北へと移動していく。


 厄災戦を生き延びた人達も、一時的とはいえ現在起きている事態が落ち着いたこともあって、当時の感覚を思い出して、車両を乗り捨ててでも逃げ始めた。


 勿論、軍の発表により「星雫(せいだ)(けん)」と報じられて、あの吉祥院(きっしょういん)千年世(ちとせ)様の持つ空霜(くうそう)と同じ存在として、札幌市民の味方だと認識されたシスティーによる影響も大きい。


「この小さい人は大丈夫なの?」


 日本人の高校生から見てもルビィは小さい。中学生にも見える。


「ルビィの魔力は吉祥院さんが自分と同格だって認めてるくらいだよ」

「ええーっ!」

「この大きな武器を持ってる2人はどうなんだい?」

(さかき)さんと本気で斬り合いが出来る剣士だよ」

「こ、このちょっとおしゃれな人は?」

「場所の条件はあるけど、霞沙羅(かさら)さんがまだ一度も勝ててない人だよ」

「この神官さんは?」

「基本的には神官だけど、ハンマーで霞沙羅さんと殴り合いが出来るよ」

伽里奈(かりな)君は?」

「霞沙羅さんと10回やったとして、5回負けて4回勝って1回引き分けるくらい」

「それってメチャクチャ強いじゃない!」

伽里奈(かりな)君はそんなに強かったのか。それは大佐が横に置いておきたくはなるな」


 敬愛する新城大佐が急に連れてきて、札幌駐屯地で壮絶な斬り合いをしたのは懐かしい話。あの時は大佐が手加減しているものとばかり思っていた。


 この軍曹も驚いたモノだけれど、その後のアリシアは非常に控えめで、霞沙羅の威を背景にしてしゃしゃり出てくるような事も無くて、指示が無い限りは動くことはないので、印象も悪くない。


 それに魔術の腕も文句はなかった。キャンプに参加した時も隊員達が唖然とするくらいフィールドワークに慣れていたし、料理も美味しかった。


「それで空軍基地はどうなってるんです?」

「幻想獣が鎮座していて、設備はもうダメだ。犠牲者も出ているが、多くはなんとか待避は出来ている」


 奪還のために攻めていこうにも、多数の幻想獣が配置されていて、近隣の駐屯地からの増援を集めて、今はデータを収集しつつ、にらみ合いをしている状態だ。


 隣にある空港の方は閉鎖されて、客や職員が待避している最中といったところ。


 基地か要塞のようになっている大きな、正式に最上級として認識された幻想獣からの攻撃も威嚇程度に行われているけれど、今はそれを迎え撃つ人員の編成が出来ていない状態。


「現在は山縣中佐が代理として指揮を執っているが」

「マスター、そろそろ到着しますよ」

「第二波は、第一波が失敗したのを理解したようで、先程より多いと観測されている」


 軍の感知装置からの連絡が来ている。


 途中で感づかれたのか、少し遅れておまけまでついてきている。


 向こうの幻想獣が現場をどの程度把握しているか解らないけれど、なんとしても札幌で被害を出したいようだ。千歳市や途中にある北広島市などは素通りしている。


 関東から人口が地方に流れたといっても、北海道という地域での札幌一強は変わらないから、被害を出そうと考えたら、狙うはここしか無いし、あの新城大佐が赴任しているというのは広く知られているから、一泡吹かせたいのか。それとも明星共和国とやらを建国する際のインパクトを狙っているのか、ついでに住民を取り込みたいのか。


「私がもらした分は地上でお願いしますね」

「システィーってすごいのね」


 これまでずっと家の仕事をしているところしか知らなかったシャーロットは、空に浮かんだ、ビルのような巨体になったシスティーを改めて見上げている。


「アシルステラでは地上でも魔物を薙ぎ払ってたもんだが」


 ハルキス的に見ても、ここは建物が多すぎてそんな動きは出来ない。


「え、あんなのが地上で?」

「一振りすれば百体くらいの魔物がバラバラに吹き飛んだものよ」


 刃渡りだけで半径が何十メートルもあるから、その殲滅力はヒルダとハルキスの比じゃ無い。


「まあ本稼働は千歳まで我慢だねー」


 空軍基地と空港なら広い滑走路があるから気兼ねなく動けるだろう。


「来たぞ」


 アリシア製の新型探知機を軍曹は持っている。その隅っこに沢山の光点が入って来た。


「こ、これすごいわね」

「これ、売ってるんですか? 一つくらい会社に欲しいな」

「北海道だと通常品は電波状況が気になるが、これはこいつだけでリアルタイムで感知できるんだ」


 タブレットPCみたいな姿をしているから、ネット経由で軍の観測データを受信しているのだろうと考えた。地形や建物の位置もちゃんと表示されているから、札幌での仕事が多い一ノ瀬も今林も仕事で使える。


 これが市販のタブレットだったら中にソフトを入れているのか。でも軍の観測データにアクセスできる端末があれば、会社に一つは欲しい。


 と思ったら、説明が想像していたのと違う。


伽里奈(かりな)君が作ったのを、千年世(ちとせ)様の所で少数量産したモノなんだ。これ一枚で完結しているからネットワークには接続していないよ。北海道じゃ場所によっては電波問題があるから前線に

持っていくにはちょうど良い。ある程度が軍に出回ったら警察にも配備される予定だ」

「え、伽里奈アーシアが?」

「学校に置いてあるのもボクが作ったヤツじゃん」

「あのレトロな鏡みたいなの、そうだったの?」

「ほれ、システィーが大雑把な仕事を始めておるぞ」


 大きいからか、幻想獣を運搬している空戦タイプは倒せても、撃ち漏らしが発生して、幻想獣がバラバラと落ちてくる。


 今回はやや大きいのも混ざっているから、成長態もいるようだ。


 システィーが追撃しようとすると大小様々なビルや電波塔や観覧車、それに電線が邪魔をしてくるので、ある程度の高度までしかカバーできない。だから落ちていくのは無視して、今は対処が難しい空中型を優先して潰していっている。


「不便な街だナ。アーちゃん、あれできそうカ?」

「いいよー」


 電線やら電柱が邪魔だけれど。あの魔法を使用すれば攻撃相手を術者が任意に設定できるので、被害は少ない。


「【操威分体陣符(そういぶんたいじんふ)・雷】」


 20枚が折り重なった魔術基板が、通りの上空に出現し、ルビィがそれに対して轟雷の杖からの雷撃を打ち込んだ。


「な、なんであんなコトしてんのよ」

「単純にボクよりもルーちゃんの方が強い魔法が撃てるからだよ。ただ、威力が強すぎるからこういう町中だとボクが分割して、コントロールするんだー」


 轟雷の杖から放たれた雷の力は各魔術基板に20分割された。それでもまだ一発の威力が大きいけれど、これをアリシアが任意で選んだ相手にぶつける。


 アリシアは狙う相手を見つけると、それぞれの魔術基板を飛ばしていく。


 そしてヒルダとハルキスも、再び降りてきた幻想獣に突っ込んでいく。


 イリーナは下から、ライアはまたビルの壁を走って、上下から狙うつもりだ。


「ボクは霞沙羅さんと同じでオールラウンダーだけど、剣はあの二人に勝てないし、神聖魔法もイリーナに勝てないから、状況に応じてサポートに回る事もあるんだよ」


 改めて強さを実感したアリシアからは、一ノ瀬達が驚くような言葉が返ってきた。仲間に対して自分が勝てない分野を的確に把握している。


 遠くで激しい閃光がいくつも起きた。


「こういうのって、一人でやるもんじゃないでしょ?」


 そういえば学校でも、全員に対して複数人でゴーレムの破壊をやらせたりと、ワンマンにならないようにしてたんだなと、一ノ瀬も今林兄弟も今解った。


 アリシアは自分たちよりもずっと強いのに、と思いかけていたけれど、なるほど、ずっと前から集まった仲間内で分担するようにしていたのだ。


「一人でやらなくていいんだよー」

「わ、解ったわ」

「こんな事態も経験無いんだし、みんなでやればいいよ。その方が確実。確実が一番」

「お、おう」


 そういえばシャーロットもアンナマリーに前を任せているし、それで落ち着いて魔法を撃てている。慣れない場でも盾を構えたアンナマリーがいるだけで気持ちは落ち着く。


 ずっと前にフィーネにも言われたことだ。


 今林三兄弟は互いを見て、何かを納得し、藤井も改めて従者として、一ノ瀬の横に立った。


 あんなに強い伽里奈(かりな)がチームでやってるんだから、自分たちだってやっていいよね、と思った。勿論、今は組織の大人達と一緒だけれど。


「じゃあまた後でねー」

「ルビィさんの移動は私が担当するわ」


 急にやって来たエリアスが、ルビィを後ろから抱え上げて飛ぶ。ルビィは6人の中では移動が遅いので、その脚をエリアスが担当する。


「エリアス、お願いねー」


 そんな感じで前へ前へと行ってしまったアリシア達を見送り


「我々は抜けて来た幻想獣を狩るぞ」


 軍人達も、一ノ瀬達も動き始めた。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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