出撃する英雄達と女神 -4-
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地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
道路状況の為に仕方なく車両を捨てて、徒歩でやって来た軍人や警官や、他の協力会社達が増援としてぼちぼちと町に姿を現し始めた。
「な、なんだ君達は」
札幌駐屯地からやって来た軍人達がアリシアに接触して来た。
「伽里奈=アーシアですよ。霞沙羅さんがいないから、ボクの仲間を連れて幻想獣の退治をしてたんですよ」
「か、伽里奈君なのか…、確かに」
「とりあえず第一波は防ぎましたよ」
確かに、幻想獣の姿は町からも空にも無くなっている。
「こっちの騎士団の人? 次がすぐに来るから、アーちゃんと話をしてるヒマはあんまり無いわよ」
「もしくは住民の避難誘導をしててくれ。ここの人間じゃないオレらが言っても説得力が無い」
バカでかい剣と、赤熱化したハルバードを持った2人に声をかけられて、軍の、霞沙羅の部下達は戸惑うしかない。唯一顔見知りのアリシアはいつも以上に変な服を着ているし。
「これがこっちの騎士団の人? 鎧とか着ないの?」
イリーナもやってきた。
「こっちの世界に鎧は無いよ。プロテクターとか防弾チョッキとかそういうのになってる。持ってる武器が違うからねー」
「この前喧嘩を売ってきた人達と同じような武器を持ってるわね」
剣とか槍を持っているようなのはいない。普通の軍人はマシンガンやライフルなどの銃器をメインとしている。
「と、ところであの巨大な剣は一体?」
徒歩で移動中もさすがに大きすぎるシスティーの姿は見えた。
「あれはボクの星雫の剣ですよ。吉祥院さんのところの空霜とは知り合いなんですよ」
「せ、星雫の剣だと?」
「空軍基地が幻想獣に占拠されて、航空戦力が使えないみたいだから、空はあれに任せてください」
「ちょっと待ちたまえ」
札幌駐屯地から出てきた真田軍曹という軍人の所に連絡が入ったようで、通信機で駐屯地と話し始めた。
「すみません大尉、事情を説明します」
軍曹はとりあえず問われていた、現場の状況と、そこにいたアリシアと星雫の剣の事を説明した。知った顔だけに、いつもと違う状況にやや混乱しているけれど。
「ほれ軍曹とやら、装甲車とトラックを持ってきてやったぞ」
フィーネがやって来て、大きなトカゲ人間達に担ぎ上げられた装甲車が二台と、兵隊を乗せたトラック二台が到着した。
「お、小樽の、魔天龍様」
さすがにフィーネは有名すぎて、関係の無い軍人達でも解る。だたこの妙なトカゲは何なのだろうか。運ばれている方も、途中で意図は読めたとはいえ不安そうな顔をしている。
「我も魔術師でな。あれはゴーレムの類いじゃ」
「ご、ゴーレム…ですか…」
それとは別に、ここからは見えないけれど、翼竜のような飛行型のトカゲに捕まれて、他の場所にいる軍用車や警察車両や協力会社の車両が空中から運搬されている。
この辺は占い師として札幌市内にも顧客の多いフィーネならではの情報に基づいた行動だ。
「私の用は終わったわ」
エリアスも戻ってきた。
「ちょ、ちょっと待って貰えるか?」
怒濤のようにイレギュラーな情報が流れてくるので、軍曹は多少混乱しながら、大尉と連絡を続けた。
まだ第二波までには多少の余裕はありそうだ。
「伽里奈アーシア」
第一波の対処を終えた一ノ瀬達もやって来た。
「そっちはどうだったの?」
「え、あ、うん、なんか、あっさり終わった」
「やっぱりシャーロットってすごいのね」
学校では見ることが出来無いシャーロットの実力を目の当たりにしたようで、藤井も驚いていた。
「あれ、シャーロットが攻撃したの?」
「アンナが護衛してくれてるから、安心して魔法を撃てたわ」
「おう、任せろ」
こんな状況だというのにアンナマリーも度胸がついてきたんだなと、この半年の成長をアリシアは喜んだ。
「また次が来るからねー」
「この後の伽里奈君はどうするんだい?」
また来るとか言われると、第一波を退けたとはいえ気になる。
地元札幌にある家業を手伝っているとはいえ、今林三兄弟もこんな大規模な事件に身を置くことはは初めてだ。やはり不安もあるし、それでいて先程までの劣勢を一瞬で覆した張本人達が、いきなり移動されると困る。
「次のも相手はするけど、そのうちボクらは千歳の空軍基地に行くからね。そこから先は頼んだよ」
北海道の中でも特に人口が集中している札幌には人が多く住んでるだけあって、まだまだ逃げ回る人がいる。
町のそこかしこには、厄災戦の後に作ったシェルターもあったりするけれど、あまりにも急襲すぎて、想定される以上の住民が逃げ込むのは無理だから、少しでも安全だと思われる場所や、とにかくこの辺りから離れて貰わなければならない。
空軍基地に行くとすれば、その後だ。
「だだだ、大丈夫?」
これだけのことを見せられて、その中心人物達がいなくなったらと考えると不安になる。
「我はここに残ってやろう」
「それは安心ですねー」
フィーネなら、自分達よりも安心だ。本気を出すことは無いけれど、出す必要も無い。
「それと落ち着いたら説教をしにいってやろう。最近の所業にはいいかげん頭にきておる。我はここには休みに来たということを忘れて貰っては困るのじゃ」
「何をするんです?」
「エリア的に管轄違いじゃが、我の方は∃≫∝じゃ。誰もやらぬのであれば我がクレームを入れるしかあるまい」
フィーネが発した言葉の一部がノイズのようになって聞こえなかったけれど、アリシアの頭には「自分は創造神側だ」と流れてきた。
なるほど、こんな大勢の前で女神であるなど言えるわけがない。
「特にこのところあまりにしつこいのでな、この界隈の管理者どもがやらぬのであれば、あの阿呆をいっぺん張り倒してこよう」
「わかりました」
フィーネが高次元なレベルで何かしてくれるようなので、神々の事情の方は任せようかと思う。
とりあえず今は、軍の方といざこざを起こさないように話しを進めていかないといけない。
「か、伽里奈アーシアって二子玉川の、あの完成態を倒した女性3人の一人ってことでいいの?」
さっきシャーロットから説明されたけど、一ノ瀬としてはやっぱり本人に確認したい。何といっても魔術師の卵の間では話題の人物なのだ。
「シャーロットが言ったとおりだよ。上野の本命とは違う伏兵がいるっていうからボクとエリアスとあのシスティーで殴り込みをかけたんだけど」
「え、あれ、伽里奈君だったのか?」
結局詳細は教えて貰っていないので、今林達も霞沙羅が連れてきた知り合いの傭兵女子三人組だと思っている。
あれも突然だったから、高性能なカメラも用意できず、軍の管理地区なので民間のドローンが進入禁止だから、遠景からしか残されていない映像と簡単な情報しか知らない。学校でも社内でも、それでも何をやっているのかは見ることが出来たので、まだ話題にしていた所だ。
信じていいのかわからないけれど、今さっき見た強さの一旦と、目の前で変身して空を飛んでいる星雫の剣があるので、そうなんだと納得し始めている。
「ほっといたら川崎が壊滅しそうだったからって、そこの占い師さんに言われてねー」
「我の名を出すでない」
「じゃああの人達は?」
「遠くに住んでるボクの仲間だよ。最近霞沙羅さん達との付き合いが出来て、その手助けがしたいって来てくれたんだー。さっきも言ったけど、ボクも含めて全員が、霞沙羅さん達と同レベルの戦力だよ」
「じゃあエリアスさんは?」
「ボクの地元の、偉い巫女さんだよ。これだけ揃えば千歳の大きな幻想獣も倒せるよ。ただ…」
「ただ、何?」
「ボクはもう高校には行けないねー。今までは吉祥院さんの権力でなんとか誤魔化して貰ってたけど、さすがにもう無理だねー。こんな町中じゃテレビにも映っちゃってるだろうしねー」
前回は廃墟での戦いだったけれど、今回は現役の大都市でやっている。国営放送の支社だけでなく地元民放テレビ局の本社も数社あるから、どこかからか撮られていてもおかしくは無いし、目撃者もいる。避難しながら動画を撮っているかもしれない。
これから厄災戦時に現れた、かつては霞沙羅達が倒した、観測史上最上級レベルに匹敵する幻想獣を倒しに行く。しかもそれは軍の施設にいる。
それがかなってしまったら、アリシアはもう学生ごっこで遊んでいる場合ではなくなってしまう。
「伽里奈アーシア君。大佐からの命令が届いているそうだ。自由にやっていい、というか千年世様や榊中佐も認める君達しかこの状況を止められないだろう」
「はーい、じゃあ頑張りまーす」
「ちょ、そんな簡単に言っちゃうわけ?」
「大丈夫だよ。ボクらはこれ以上のことをやってるからね。じゃなきゃ、星雫の剣なんて持ってないよ」
空を見上げれば、気分良さそうに意味も無くくるくるとローリングしている巨大な剣がある。
システィーは久しぶりに大勢相手に大暴れが出来て、しかもまだ続くというからご機嫌な様子だ。
「霞沙羅も今、この国の危機に立ち向かっておるが、ここもまたそれに類する危機に瀕しておる。こやつらが何者であろうとも、お主らも…、本職も学生も同じ局面に立ち向かう者じゃ」
有名占い師の言葉はやけに心に届く。
「こういう場合は誰が手柄をあげたとか関係なく、各自が最善を尽くすのよ。この防衛戦の戦果は全員のモノと知りなさい」
「誰が何体やったとか気にすんなよ。自分一人がいることで救われる命がある事を名誉に思え」
「神は平等に見ているわよ。誰が優れているかではなく、己の役目をどれだけ果たしたかが大切なのよ」
現役領主と次期族長と神殿を一つ任される司祭の言葉もたたみかけてくる。
「なんかみんなが小難しいこと言ってるけど、ボクらだけじゃこの状況は平和的解決にはならないからねー。みんながいるからボクらは安心して千歳に行けるわけだから。まあなんかあれだよ、最終的にはここを頼むよー」
全く焦っても混乱もしていない、平常心のままの人間に言われれば、安心感もハンパ無い。
ここはもう、第二波を迎え撃つしか他はない。
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