出撃する英雄達と女神 -2-
ここから主人公名の表示が変わります
地球 :アリシア
アシルステラ :アリシア
千歳市から飛来した幻想獣達は札幌市街地上空に到達すると、地上型は降下していき、空中型は空から攻撃を開始した。
空中型はいちおう鳥モチーフの姿をしているけれど、航空基地にあった戦闘機や輸送機、それとヘリを素体として取り込んだり、それをコピーしたものだと予想される。
対応が遅れた市内の駐屯地からはようやく準備を終えた魔術師団を先頭にした兵隊達が出てきたり、警察も魔術課だったり、協力会社達も動き始めた。
「な、な、何なのよ。金星も遠ざかったっていうのに」
「まだ確定じゃないけれど、行方を追っていた少尉の仕業じゃないかって。軍には通信があったとか、声がそのものだったとか」
一ノ瀬寺院もとにかく出てきているそうだ。
ただ一ノ瀬達のグループは札幌中心部をパトロールしながら少尉の捜査をしていた所だったので、警察から情報を貰いながら、まずは今いる札幌の中央区を守ることにした。
「一ノ瀬さん達じゃないか」
「あー、今林君の会社ってこの辺だったわね」
今林セキュリティーもまだ準備は中途半端だけれど、とにかく出てきた。
どちらも全体的に準備不足だけれど、幻想獣が札幌に来てしまった事には仕方が無い。戦力が充実するまでは今の状態でなんとかするしか無い。
それにしても数が多い。
記憶の中でも、厄災戦の時でもこんなに一気に出現する事は無かった。
「新宿で大きな作戦が展開されてるってのに」
「新城大佐がいないのに」
いくら強いとは言っても、霞沙羅一人がいなくてもどうにか…、どうにかなるのだろうか?
とにかく準備をしていると空から幻想獣が降りてきた。
クマのような姿、オオカミのような姿、クワガタのような姿、表面がのっぺりした人間のような姿…、色々なのがぱっと見で三十数体。いや、まだ降りてきている。
それに一ノ瀬達がいる場所以外にも降りていっている。全部でどれだけいるのだろうか。
一番問題なのは空を飛び回っている幻想獣だ。空軍基地が使えないから、航空戦力が不足してしまっている。
あれを落とすには、射程の問題もあるから、地上から対処できる人間にも限度がある。
「まあ霞沙羅さんはしょうがないよねー」
「あの先生は有名人なのね」
「貴方たちだって大陸じゃ、知らない人はいないでしょう?」
「まあそうだがな」
そんな中、場違いとしか言えない呑気な感じの声が聞こえてきた。
「一ノ瀬さんと藤井さん、今林君達。霞沙羅先生は今新宿にいて戦力ダウンしてるっぽいけど、大丈夫だよー」
「ええー、伽里奈アーシア。なんでここに?」
大学襲撃の時から強いのは知っている。それでもこの場には何にも関係がないはずだ。
「シャーロットもいるじゃない」
「伽里奈君、その服は?」
数々の疑問が浮かんでくるけれど、その問いをとりあえず伽里奈…、アリシアは無視した。
「あれ、この前のと同じで生き物じゃないから気にせずにバンバンやっちゃっていいよー」
本番前の準備運動がてら、アリシアはヒルダ達に指示を出すと、一ノ瀬達に説明を始める。
「原因になってる大型幻想獣がいる千歳の空軍基地に行こうと思ったんだけど、さすがに200万人都市はほっとけないから、こっちをある程度かたづけてからにするよ。今日は霞沙羅先生が来る事は無いけど、
まあボクらがいるから安心してよ」
アリシアが自慢の魔剣から黒い刃を伸ばし、それを振るうと、近くに降りてきた数体の幻想獣が真っ二つになった。
「ボクらは組織じゃないけど、勝手にやらせて貰うよ。多分駐屯地には霞沙羅さん辺りから連絡来てると思うしねー」
ヒルダ達も、市民を襲おうという幻想獣に襲いかかり、一撃で仕留めていく。
「ななな、何あの人達っ!」
かなり古い時代の服装をした5人が、圧倒的な力で軽々と、周囲の幻想獣を事もなげに蹴散らしていく。
そういえばアリシアの着ている黒いドレスもやや古めのデザインだし、今日はその上に鎧まで着ている。方向性としてはいつも通りだけれど、どうにもセンスが違っている。
「あれはボクの仲間達だよ。ボクも含めて全員、霞沙羅さん達と同等の人達だからこの場はどうとでもなるよ。だから皆も落ち着いてやれば良いよー」
「怪我をしたら私に言いなさい。即死じゃ無ければ完全修復するわよ」
「え、エリアスさんも?」
羊のような角まで生やして、黒い衣装に身を包んだエリアスが現れた。
「その前に私はちょっと行ってくるわ」
「はーい」
怪我人がいればと一旦こっちに来たけれど、それもいないようなのでエリアスは一旦消えた。
「シャーロットさん、これ、何?」
いるはずの無い所にいるけれど、シャーロットは服装からしていつも通り。今林はこっちの方が聞きやすそうだと、シャーロットに疑問を問い合わせた。
「霞沙羅がいないから、代わりに伽里奈が出てきただけよ。この前、二子玉川の幻想獣を倒したのって、伽里奈とエリアスとシスティーだから、戦力としては安心していいわ」
「貴族の小娘はシャーロットを守っておればよい。見知らぬ魔物ばかりじゃが、どれもこれもお主が見たドラゴンほどの強さは無い」
ドラゴン系はモートレルと火山の前で見た。だからといってアンナマリーには何も出来ないけれど。この謎の魔術師がいれば問題は無い。だから焦らないで自分の仕事をするだけ。
「は、はい」
「ま、魔天龍様もいるじゃない」
小樽の魔天龍ことフィーネもいる。
「伽里奈君、どうなってるの?」
「ボクとエリアスと…、あそこの5人はずっと遠くの場所から来た人間でねー、そこで色んな国々を滅ぼそうとした魔女を倒した冒険者仲間だから。ボクはその実績で霞沙羅さんの手伝いをしててね、札幌駐屯地の人とは顔なじみだし、多分霞沙羅さんが命令出してるから、ボクらは出て来たってワケ」
「はいはいマスター、私もやりますよ。こんなのを見せられては血がたぎって仕方がありません」
「じゃあ空飛んでるのやってくれる? あれだけいると撃墜するのも魔術師じゃ難儀しそうだし、ヘリとか来てもやりにくそうだしねー」
「はいはいさー」
システィーは跳躍すると、そのまま空高く飛んでいってしまった。
「あの人、館の人じゃない?」
「あれ、ボクが持ってる星雫の剣だよ」
システィーは札幌上空で巨大な剣に変身して、空中の幻想獣を狙って、高速で追い回し始めた。
「星雫の剣って、千年世様しか持っていないんじゃ?」
「ボクは遠くの人だから。それで今更悪いんだけど、ボクってメチャクチャ強いんだよね。ごめんねー、黙ってて。っていうか霞沙羅さんと2人で、大きい被害を出さずに完成態を倒せるくらいでしょ。だからまあ、今はそういう話は後でねー」
話は途中だけれど。まだまだ空から降りてくる幻想獣に、アリシアも襲いかかっていった。
「というわけで、私達はあの人達が漏らしたのをどうにかしましょう」
「シャーロットは知ってたの?」
「下宿に来る前からそう言われてたわ。伽里奈がいるから留学の延長までしたのよ」
どこからか大きな瓦礫が飛んできたので、シャーロットは焦らずに障壁を張ってはじき飛ばした。
「あの人達は勝手に動き始めたけど、私は一ノ瀬達と動くわ。魔術の腕はあっても、私にはこういう経験が無いから、お互いに一緒にいた方がいいと思うのよ」
「ほれ、無駄口を叩くヒマがあったらお主らも仕事をせい」
フィーネが指を鳴らすと、いつの間にか近くにいたカマキリのような幻想獣が何の前触れも無く塵になった。これは偽りの命を消去しただけだ。
「ひえー、とにかくやりましょ」
「お、おう、そうしよう」
とにかく、先制攻撃に対応できなかった分は、アリシア達が走り回って、怒濤の勢いで数を減らして押し返していっている。
警察からの通信によると、また千歳の方から第二波が飛んできているようだから、とにかく対抗するしか無い。
じきに軍も展開して、戦局は好転するだろう。それまで、人々が逃げ惑っているこの札幌の市街地に飛来する幻想獣を、一ノ瀬達も迎撃し始めた。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。