出撃する英雄達と女神 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈のスマホが、今まで聞いたことが無いような音を出して警報を伝えてきた。
この音は単に幻想獣が出ただけでは鳴らない。厄災戦の時に使用された、特殊な危機が迫った時にだけ、危険な地域に発信される警報音だ。
「ホントにこんな音がするのね」
シャーロットは厄災戦の時代を経験しているけれど、イギリスはそれほど影響が無かったので、多くはネット情報でしか知らない。
「やな音だな」
どこか体がしびれるような、不安になる音だ。こんな音はアシルステラには無いから、アンナマリーは聞いたことが無い。
見ていたテレビ番組は新宿の事を報道していたけれどここは北海道。これとは関係ない。
そこに突然、軍による緊急放送が割り込んできた。この辺はさすがに6年とちょっと前まで厄災戦をやっていただけあって、迅速だ。
「どうするんだ、リーダー?」
チョコレートがかかったバウムクーヘンを食べていたハルキスがアリシアに確認した。
「状況を確認したら行こうね。飛び出していってもゴール地点がどこかわからないし」
今回は霞沙羅の協力が無いから、勝手に出ていっても情報を得ることが出来ない。もう少しテレビを見ていたら何か言うだろうから待つことにした。
「千歳空港の隣ですよ。空軍基地があるじゃないですか。あそこを幻想獣が乗っ取ったんですよ」
「システィー、気が早すぎだよー」
テレビに映る広報の人間がまだ「落ち着いてください」としか言っていないのに、勝手に広域探知をして、もう目標の場所にたどり着いたシスティーは、嬉しそうにアリシアの肩をゆさゆさした。
「行きましょう、行きましょう」
「システィーはまあ、こういう所は変わらないわねえ」
ちびちびと生チョコレートを一欠片ずつ味わって食べていたヒルダは、まだ傍らに置いたロックバスターを手に取らない。
テレビではようやく広報の人間が状況を伝え始めたところだ。
映像は無いけれど、空軍基地が襲われてしまった事と、そこから幻想獣が札幌方面に飛び立った事。
システィーが言うように空軍基地はもう設備一式が飲み込まれてしまい、機械としては死んでいるので、代わりに隣接する空港の管制塔からの画像が、少し遅れて流れた。
「おー、サイズは解らないがすごそうじゃないカ。あれを退治すればいいのカ?」
バターとレーズンをビスケットで挟んだお菓子を食べながら、ルビィは日本の建築物のサイズを測りかねている。
肉で出来たような山のようなモノが空軍基地の建物類を飲み込んでしまっているショッキングな映像が流れた。
「ワグナール帝国の王都を飲み込んだ、魔女の砦よりは小さそうね」
そういえばあの時は全世界への宣戦布告が来た途端に、エリアスが作った砦に、どさくさ紛れで突撃したっけ、とミルクプリンを食べながらライアがしみじみ思う。
その魔女はすぐ側にいるけれど、苦笑いしている。さすがに女神の仕業と、特別製っぽいとはいえ幻想獣を一緒にして貰っては困る。
そして元空軍基地から多数の幻想獣が札幌に向かって飛び立ったという情報が入った。
「まずはそのサッポロって所に行けばいいの?」
オレンジ色のメロンゼリーを食べていたイリーナは好戦的すぎるシスティーに呆れながら、最後の一口を口に入れた。
「まずは札幌かなー」
あまりに事件が急すぎて、恐らく迎撃態勢は整っていないだろう。軍も警察も、その協力会社も。
それもあって、このまま放っておくと北の都である札幌で前代未聞の被害が出かねない。
「わ、私も行く。一ノ瀬とかでも出てくるんでしょ?」
霞沙羅製の専用の杖を作ったのだ。戦闘経験がほぼ無いシャーロットに何が出来るのだろうかと思うけれど、魔術の腕前だけ見れば、この北海道にいる魔術師の中でも上位だ。
それに、ここにはもう一人の女神がいる。
「まず我の側を離れるでないぞ」
「私も行っていいか? シャーロットが心配だ」
「アンナマリー、大丈夫なの?」
「領主よ、大丈夫じゃ。この小娘も半年前とは違う。それに我がおれば問題なかろう?」
ヒルダはモートレル占領事件の時に披露した、フィーネの謎の強さを知っているから、もう任せることにした。
「じゃあ行こうか」
空軍基地を飛び立ったという幻想獣が、札幌にどのくらいの時間で着くのか解らないけれど、状況が解った今は、早めに行った方がいい。
「アーちゃんはまたその服を着ていくのカ」
「このドレスねー、今回はこっちの世界だけど、こういう場面に着ていってあげるのが願いだからさー」
「アリシア様が着ているその服は何なんだ? 天空魔城に行く時も着ていたが」
「これあの、冒険している時に結構な腕前の女性剣士さんがいたんだけど、その母親が作ってあげた服なんだ。でも剣士さんはこの服を着る前に病気で死んじゃって、そしたら娘さんが着るはずだった服を戦場に持っていってくれって頼まれて、それでボクが着てるんだー」
「なんで伽里奈なの?」
「だってほら、見てよ。ボクかヒーちゃんしか着れないでしょ」
役割的にもサイズ的にも、ルビィは身長が足りないし、ライアは少し高い。イリーナは神官の服が正装なのでわざわざ黒いドレスを着る気は無い。
ハルキスは当然論外だ。
「ヒーちゃんは別の服を着てたから、ボクが貰ったの」
「それで作った人は納得したの?」
「当時ポニーテールだったから、女子扱いされててねー」
「それはいいから早く行きましょうよ」
やる気満々の システィーが急かしてくる。折角大暴れできそうなシチュエーションがあるのだ。早く行かないと人間に出番を取られかねない。
「おー、行こうぜ。ここは先生の土地なんだろ? 変な被害を出したら評判が落ちるぜ」
「霞沙羅さんが軍人として担当してるだけなんだけどねー」
「霞沙羅はこの状況を解っておるであろうが、あやつの名誉の為じゃ。そろそろ行くかのう」
これは高校通いも終わりかなー、と思いつつも、館の入居者のために立ち上がる管理人であった。
そしてエリアスも、伽里奈が好きだと言ってくれた、かつての魔女の姿になった。
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