これより作戦開始 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
新宿での作戦が開始されると、空軍基地から戦闘機が発進し、周辺の駐屯地からは戦闘用ヘリが飛び立った。
「こういうのは久しぶりだが、軍の作戦ってのはこういうのだよな」
厄災戦の時はどこの国でも魔術師団だけでなく一般の兵隊までもが参加して戦ったものだ。
戦う相手は侵略者だったり、敵国では無かったけれど、敵の中には幻想獣だけでなく、中には信者の人間や元人間が変貌したモノも混ざっていたから、普通に武装した兵隊が国内を走り回っていた。
幻想獣の幼態や弱い成長態相手には地上戦だけでなく、通常兵器による空爆だって行われた。
まさに戦争といえた。
霞沙羅達は空霜に乗って、一足早く新宿上空まで来ていた。定められた時間が来れば、カナタが結界を解くのだ。これをしないと攻撃が通らない。
「私も現場に出るのは初めてですけどねえ、家の周辺で事件ともなれば武器を手にして蹴散らしたモノですよ」
「お前、そん時は年齢一桁だろ?」
「私もそこの吉祥院さんと同じで成長が早かったんですよ。6歳の時にはもう身長が150ありましたからね」
カナタは吉祥院と違って身長は180くらいで止まったけれど、大きな子供ではあった。
そしてカナタ達の武装はというと、カナタは一本の槍と、背中に少し刀身が大きな刀を背負っている。
服装は事務服では無くて、上着は袖なしのシャツと、下はジーンズに脛くらいまでのショートブーツという動きやすい姿になっている。その上に羽織っている薄手のコートには色々仕掛けがあるらしい。
アオイは変わらずに女子高生ルックだ。武器は刀が一本と、白衣の裏に多数の刃物を仕込んでいる。
ソウヤも同じく刀と、短めの弓を背中に背負っている。矢は沢山持っている楊枝のような小さな木辺に『気』をまとわせるのだそうだ。それから暗器を幾つか持っている。
全てがカナタ製。霞沙羅が一目見てもそれぞれが見事な出来だ。多分自分たちが持っている霞沙羅製の武器よりも精度は上だろう。
この戦いが終わって時間があったら、単純な興味としてその技術を見せて貰いたいくらいだ。
「定位置についたのだ」
空霜は小惑星…、星堕の剣が見える、旧代々木駅の少し先で制止した。
「それでは始めますか」
カナタはコートの中から長い板をとりだした。
「どこにそんなモノが入っていたでありんすか?」
「事務所に置いてある、私が作成した魔工具類だけを掴むために手だけを小規模空間転移させているんですの。ある程度の世代までの一族の製造物なら、場所さえ特定できれば、例えば結界に囲まれていようともこのように、座標指定でダイレクトに持ってこれるんですの」
地味にすごい技術だ。吉祥院も感心している。
「それで宝物庫の錫杖を呼び寄せたのか」
「そうですわ。曾曾お婆さまくらいまでなら楽勝ですね」
学院の連中が訊いたらさぞや驚くだろう。まさか手だけを空間転移させているとか、自分の製造分までは探せる霞沙羅もそんな手段は考えてもみなかった。
驚きの手段でカナタが取り寄せた板を、こんな遠くからでも星堕の剣に投げつけると、結界を貫いて、その穴を中心として、結界が消滅していく。
「空霜、上昇するでやんす」
そろそろ戦闘機が到着して、ヘリも、ミサイルも飛んでくる。その邪魔にならないように、空霜は予定されている高度の上に上昇すると、まずは足の速い戦闘機が三十機到着して、搭載したミサイルを星堕の剣に向けて次々に発射させる。
もう、ここで戦闘が行われることは国民に向けて告知がされているから、着弾による激しい音が響いたとしてもお構いなしだ。
続いて同じ数のヘリも到着して、こちらはもう少し近づいて攻撃を始めた。
攻撃を終えた戦闘機が去っていき、全弾を撃ち尽くしたヘリも去っていき、地上に配置された車両から撃たれたミサイルの着弾が始まる。
「幻想獣はいないようだな」
榊が、伽里奈が作った探知機を見ながら、やって来ている地上部隊の為に、幻想獣を確認しているけれど、何年も軍が手を出せなかった程の危険な新宿周辺だというのに、その姿は無い。
「新宿一帯がはっきり見えるほどに、マリネイラの魔力が薄くなっているでありんす」
視覚の阻害だけで無く、通信障害も無いと言っていい。この10日ほど設置していた結界が、マリネイラの魔力を消費した結果だ。
車両で移動してきている地上部隊は、一応は幻想獣の警戒もしているけれど、それは無駄になりそうだ。
ミサイルや砲弾による攻撃が終わり、その煙や土埃が晴れていくと、星堕の剣の表面には多数の破損が見受けられた。それでも図体が大きいので果たして効いているのかと言われると、残念ながらそうは見えない。
そんな先制攻撃が終わり、兵隊達を乗せた輸送用のヘリも近づいてきている。
そんな中、星堕の剣から圧力を感じるほどの魔力が発せられて、その余波が、衝撃波か突風かのように新宿周辺に広がっていった。
「すごいでやんすな」
これは厄災戦で戦った数々の幻想獣の比ではない。そして空霜は星堕の剣に近づいていく。
「母様、久しぶりですわねえ。そちらの空間転移中がどういう状況かは解りませんが、あなた方が星を出てから6年が経ちましたわ」
「これはあなたの仕業ですか?」
「この星の軍ですよ。ヤマノワタイに比べて文明は劣るとはいえ、目が覚めましたか?」
「追ってくるとは思っていましたが」
「あなた方がいなくなってから6年も費やしましたが、私も共通魔法にもたどり着き、準備も万全。この私に6年もの時間を与えたのが間違いでしたわねえ。余所様に迷惑をかけるのなら、その石ころ共々滅びてくださいな」
その余所様である霞沙羅からすれば、お前が言うな、と言いたいけれど、ここは我慢だ。
「これは星堕の剣だ。お前程の人間ならどういう事か解るだろう?」
「父様ですか。16年前に星堕の剣を破壊した聖法器を作り出したのは私だと言うことをお忘れですか? 当然今回も改良して持ってきていますよ。そのとどめを刺した英雄、純凪モガミとアリサの夫婦もこの作戦に協力していますわ」
「あの2人がここに」
「なぜこんな所にいる?」
「戦いの後、館の管理人をしていたのですよ。転移する星を間違えましたわねえ。ああ、お2人とも昔から間抜けですものね」
攻撃が来ない。
カナタが親子の口喧嘩で時間を稼いでいる間に、いつの間にか姿を消しているアオイとソウヤが地上に降りて、純凪夫妻がいる地上部隊を誘導している。
そして静かに、吉祥院が広範囲攻撃魔法の準備を始めている。
「純凪夫妻がこの国の中心に人脈があったおかげで、軍がこの件に納得するのも早かったですよ。来て早々残念ですが、星堕の剣をもって他の星に多大な迷惑をかけようというのであればさっさと死ぬとよいですね。あなた方レベルが抱えている技術知識は私がとっくに凌駕していますから、水瀬家の未来は気にせず、塵になりなさいな。まあせいぜい、この世に生まれた証しとして腕の一本くらいはあの山に埋めて差し上げますがね」
これが普通の親であれば「子供ごときが」とでも言い返すのだろうけれど、結局この状況を生んだのが、この2人の両親の、カナタに対する敗北感というか挫折からくる嫉妬なので、娘にここまで言われても何も言えない。
代わりに一条の光線が放たれたけれど、カナタはかざした掌で受け止めた。
「準備も整ったようですしね、始めようじゃありませんか」
軍の地上部隊も所定の位置についた。そして吉祥院の大型魔法も完成した。
「【劫火燦然・極】」
大きな杖から、巨大な炎の塊が放たれたが、それより一瞬早く
「【雷の楼閣】」
霞沙羅が8枚の板を投げて、以前に伽里奈が使用した雷撃系魔法を発動した。
8枚の板は強化のため。それぞれが星堕の剣の表面に張り付いて大きな雷の結界を作り、その中に吉祥院が放った炎の塊が吸い込まれていく。
「やるでやんすねえ」
結界の中から逃げられない炎の力は、一方だけ開けた、星堕の剣の表面だけを焼いていく。
表面は赤く変色し、ドロドロと溶けていき、大きなクレーターを作った。
「おのれ、地球人が」
とはいえまだまだ原形をとどめている星堕の剣の表面から、砂のような魔力の粒が大量に発生し、それが人の形を作っていく。
そして星堕の剣の下から、大量の、イカとかタコのような多足の生命体がワラワラと出現する。とはいえ走る脚も持っているというアンバランスな仕様で、かなりの早さで広がっていく。
「あれが浸食か」
星堕の剣を中心として、ほんの少ししか無かった草原が一気に半径200メートル程度広がっていく。そこから先も広がっていく速さは、カナタの予想よりも速い。
「あの範囲内にいる場合は、星堕の剣の制御区域ということで、あの兵隊…、《堕人》はかなり強いですの」
「だからお前が作った杖があるんだろう?」
「まあそうなんですけどね」
あの兵隊には通常兵器も効くので、魔術師と通常戦力で対処して貰う。
下にいる兵隊達がシールも起動したようで、準備は整った。
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