忘れかけていた男 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
星堕の剣の破壊作戦の予定が決まり、関係者を集めて、作戦本部からの最終計画が発表された。
勿論、今回も作戦の要である霞沙羅達3人とカナタ達3人、それから前線で作戦補佐をしてくれる純凪夫妻も会議室に集められた。
その日時は2日後の午前9時。星堕の剣には朝も夜も関係ないので、人間のコンディションを考えて明るい時間を選んだ。
その日は高気圧が関東地方を覆い、作戦の支障となるような天候にはならないという予報が出ている。
この辺は冬の関東地方ならではというか、気圧配置も冬型で、広く晴天が広がるという。
カナタの見立てでは、仕掛けた停止の結界はあと4日で終了するだろうという事なので、これは今しか無い。
「供給された武器についてはどうだ?」
「各自、使用方法は充分に理解したと思われます」
カナタは練習用を含めた結構な数の杖やシールを提供してくれたので、作戦に参加する人間達はその具合を確かめる機会を何度かもうけることは出来た。
「星堕の剣の知識は?」
「提供された映像や文献を通しての教育は終了しております」
純凪夫妻が持ってきてくれた、ヤマノワタイノの戦闘記録を使っての座学も、全員終了してある。
正体不明の敵に対して、できる限りの知識を入れて、そして準備はした。
流れとしては、結界を解除した後に、旧二十三区でも安全な地区に配備した輸送車両からのミサイル攻撃、航空戦力による空爆により、小惑星本体への攻撃を行いつつ、出現すると思われる星堕の剣から出現する兵隊の一部殲滅を行う。
その間に地上戦力を接近させ、本体意思の具現が確認されれば、接近させた魔術師戦力による攻撃を開始し、上空から空霜による霞沙羅達の運搬で接近し、本体を攻撃する。
カナタが予定していたとおり。相手の意表を突いて、一気に攻撃、殲滅するという作戦のための準備は出来ている。
「連中の横やりは無いんだろうな?」
霞沙羅が意見を述べる。連中とは金星の虜の事だ。
「少なくともこの関東を根城としていた幾つかの組織はリストによって壊滅したとの事だ。逃亡した小さなコミュニティーもいるようだが、それは警察が追っている」
これには今回も作戦のトップを務める、徳佐准将が答えてくれた。
「それから今作戦に向けて、神奈川、千葉、埼玉、東京の警察には特別警戒を依頼している」
「そうか」
恐らく先日壊滅した「安らぎの園」は、厄災戦を招いたカルト教団を除けば、この四半世紀でも大きな組織であったというくらい、金星の虜の集団は基本的にそこまで大きくは無い。
その前のバングルも含めると、この関東の組織でしっかりとした、テロ的な活動に充分と言えるような人数のいる集団はもう無いだろう。
先日の連中から、なにがしかの大きな軍事作戦がありそうなことは少し前には漏れてしまっているけれど、関東以外の地域で便乗して、多少の騒動があったとしても、現地で対処できると予測される。
「寺院庁からも、各地域の各寺院には警戒するようにとの通達がされている。我々は星堕の剣の破壊に集中する。それだけだ」
「解った」
霞沙羅はその言葉を聞いて一応の納得はした。
厄災戦の跡地として一番危険な旧23区は当然警戒をしているし、マリネイラの魔力もカナタの施した結界もあって、全体的にはかなりその濃度は低下している。
準備は整っているはずだ。
そして直前になり、旧23区に隣接する地域には、先日の後処理のための軍事作戦が行われるという名目の特別警戒情報が発せられた
* * *
関東を深夜に出たフェリーが、午後8時頃に苫小牧に到着した。
用途の多くがトラックやコンテナといった貨物利用がというこの便だけれど、旅客もそれなりにいる。
フェリーターミナルから出てきた乗客の一部が、駐車場に停めたマイクロバスの前で待っていた男の元に合流していった。
「これで最後か?」
呼びかけに応えた同志達のうち、無事だったのはこれで最後だ。
「我々にはもう後が無い」
警察による追跡は今までに無い程の勢いで、本来は集結予定だった同志が何人も捕まった。
だがこれだけ集まれば、この北海道に、安らぎの園では出来なかった理想郷の造成が出来るだろう。
「先に来た人間はもう祈りを始めている」
「私たちも祈りを捧げましょう」
軍が旧23区で何かをやろうとしているという情報は入っており、そのおかげで霞沙羅がいない事は確認している。だから北海道は今手薄だ。
その為に今がチャンスなのだ。ここしか無い。
最後の22人を乗せた、何度もの冬を走り続けてたびれたマイクロバスは千歳方向に走り出した。
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