忘れかけていた男 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
国立小樽魔術大学付属高校の魔法術科では、伽里奈とシャーロットは受ける必要の無い期末試験が終わり、生徒は試験の結果報告や解説を受ける事になり、数日にわたり午前授業だけの期間に
なっている。
これが終われば春休みまでは、各学年ともに、次の学年や大学進学を前にして、この一年間の復習的な授業がしばらく続く。
伽里奈的には、しばらくは生徒達もヒマそうなので、新学期からの施策の調整や、一ノ瀬達からは三校による実技大会に向けての練習がしたいという声があったので、まずは意見を聞こうと思ったのだが…。
「なんか、中身は言えないんだけど、警察から協力要請が出て」
「あらら、でも仕事じゃしょうがないねー」
一ノ瀬寺院も今林セキュリティーにも同じ話が来ているようだ。
その辺は部外者の伽里奈だから、捜査の守秘義務としてその中身は言えない。
「そっかー、じゃあ延期になっちゃうけど、どういう分野の練習をしたいとか希望があったらまとめておいてね」
「うん」
「兄さん達は大会に参加経験があるから、競技内容とかをメールしておくよ」
学校は普通に通うけれど、それが終われば稼業の手伝いになるそうで、バックアップとはいえ仕事のために、家に帰っていった。
そして教師の方はというと、今度は受験という大きなイベントがあるので、その準備に追われているという。
吾妻社長の娘さんも今年の受験をするわけだけれど、希望する学校で試験を受けるわけではなく、住む場所によって三校と魔術師協会の施設のどこかを試験場として指定されるので、川崎市住民となると残念ながら横浜校で受けることになる。
ここ小樽校に来ることになるのは新学期からとなるので、しばらくお預けだ。
試験まではラストスパート。久しぶりの親子三人での生活のために、頑張って欲しいものである。
* * *
「というわけで、今日は見に来たよー」
時間があるのでヒルダに依頼されて、そのうちこっちでも作りたいティラミスを手土産にして、アリシアはモートレルにやって来た。
「なぜかハルキスがいるけど」
「今日はランセル将軍から依頼を受けて、ヒルダの所を視察に来たんだよ」
勿論ランセル将軍も来ている。ここまで2人を運んできたのはルビィだけど、今日は視察の内容に関する打ち合わせもあって一泊するので、転移で連れてきただけで帰って行った。
しかしこれではティラミスの存在が王都に知られることになってしまう。王妃に作れと無茶振りをされないか心配だ。
「じゃあアーちゃん、始めましょう」
「はいはーい、【立てゴーレム】」
出来上がったのは土で出来たトロール。それを練習場のサイズに合わせて、実物よりはやや小さめにした四体を用意した。
「レイナード、始めなさい」
「ああ。ではあのゴーレムを破壊するぞ!」
「おーっ!」
レイナード達はゴーレムに挑んでいく。
中にはオリビアの小隊もいて、勿論アンナマリーもメンバーとして参加している。
最近の方針としては大型のカクカクしたゴーレムはやめて、オリジナルに近い姿と動きを再現させて、それと演習をして貰う事を始めた。
この辺は、大陸中のメジャーな魔物を散々蹴散らしてきたアリシアらしい鍛錬を、と経験を生かしてやっている。見た目だけでなく、ある程度の動きもちゃんと再現されているから、予行練習としてはもってこいだ。
「向こうの軍でもやってるからねー」
「ホントかよ」
「この前戦った幻想獣なんだけど、ゴーレムの技術がマイナーな世界だから、出来る人の教育から始めないといけないんだけどねー」
正直なところ、戦闘経験豊富なハルキスは必要としていないけれど、部族の人間にはとても良い経験になるだろう、と興味津々。
なにせ、魔物というのは部族の自治区でも時々沸いて出てくるけれど、普段の練習相手なんかしてくれるわけでもないので、なかなかに対処方法を身につけるさせることが難しい。
そのビジュアルを記憶しておくことも戦う上では大事なので、この試みは悪くないと感心した。
「天望の座メンバーには話をしてて、学生レベルでやる企画を練ってる最中なんですよー。向こうの学校でもお遊びみたいですけど、やってますからねー」
王都にも無断でやっているわけでは無さそうなので、ランセルも一応は納得する。
「ヒルダの所だけ鍛錬メニューがおかしくないか?」
「いやだって、入居者のアンナマリーがいるから」
どこまでいけるかは解らないけれど、アンナマリーの夢のお手伝いをするのがアリシアの仕事だ。そうなると当然、アンナマリーが所属している、このパスカール領に優先的に関わっていく事になる。
「ここはヒーちゃんと、そこそこ腕の立つレイナードがいるから、訓点用としてどこまでやっていいのか、領主としての目線で意見を貰えるし」
「アリシア君、今度城に来なさい。我々三人の将軍で話を伺おう」
「あらあら、アーちゃん怒られちゃった」
「いやいや、ヒルダ卿、そういうわけではない。ここで培った技術はどこまで使えそうなのか知りたいだけだ」
アリシアは近衛騎士団の実力をよく知らないけれど、家族が住んでいるラスタルの防衛力強化の為にも、どこかの機会で教えておきたい。その上で鍛錬メニューの作成に協力して貰う。王都には優秀な魔術師もいるので、再現は可能だ。
そのうち息子達だけでなく、あそこで果敢にゴーレムに挑んでいる娘をその分野に参加させて…。と考えるランセルであった。
「それで先生の方はどうなんだ? なんならまた手伝うぜ」
「他のカレー屋さんにも付き合うわよ」
「軍の作戦が近いんだけど、この前出てきたあの内通者のせいで霞沙羅さんとはもう距離を離しててねー」
「あー、なるほど。いくらお前とはいえ、状況的に部外者には近寄らない方がいいわな」
「まあねー、だから今は基地の方に行ったままで、小樽にはあんまりいないんだよねー」
「あらら残念ね」
ヒルダは吉祥院が用意してくれる料理とかお菓子を食べたいだけのもあるんじゃじゃないだろうか。
「でもねー、声をかけることになると思うよ」
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