忘れていたあの事 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ところで霞沙羅さん、来客のようですわ」
休憩しているところに、カナタが霞沙羅に話しかけてきた。
「恐らく身の程知らずですわね」
言われた霞沙羅も意識を演習所周辺に拡大して、遠くを確認する。
無理矢理演習所に入って来て、明らかにここに向かっている集団が2組ほどある。
「なんだ、自分達を使って練習してくれってことか? 涙がちょちょ切れる献身ぶりじゃねえか」
「一応話だけは聞くか?」
榊もその話しを耳にして、気配を探っていた。
「今攻撃してもいいダスが、変に山火事が起きても嫌でありんすな」
結局は彼らが姿を現すのを待つことにした。
「お、あれは何だ」
演習所に幻想獣が現れた。ネコ科やクワガタのような姿もいて、数は…、20体程度とかなり多い。さすがに完成態はいないが、少し大きめな成長態の姿もそれなりにある。
これを見るのはアシルステラ勢にとっては初めてだ。
それでもヒルダは食べていたBLTバーガーを置くことなく、食べ続けるという余裕を見せている。
「新城霞沙羅、吉祥院千年世、榊瑞穂の3人がここにいると聞いた」
幻想獣に続いて、ザザっと10人ほどの戦闘服姿の軍人達が現れた。
「どうやら幻想獣を操っているようだな。お前の魔工具か?」
「私はもう何もやっていませんわよ」
「出来も良くないし、自分たちで作ったんじゃない?」
声をかけてきた男はなにやらランタンのような姿の魔工具を持っている。あれで幻想獣を引っ張って来たようだ。
カナタならレラの目の地球版でも使用するだろうから、やはりこう見るとかなりの技術を持っていたんだなと、今更ながら思ってしまう。
それにしてもどこにどうやって隠していたのか、それとも新たな金星の虜集団が、霞沙羅達が軍施設を離れて何かをしている事を嗅ぎつけて、チャンスとばかりに襲撃を企てたのだろうか。
実際のところ、金星の虜にも魔術師もいれば、神官と呼んでいい人間もいる。出来ない訳では無い。
そういえば、幻想獣を圧縮していたあの石はどうやって作ったのか、聞こうと思っていたのを忘れていたが、今はそういう時ではない。
「連れてきただけですわね。操っているというわけではありませんの」
ランタンのような魔工具からはマリネイラの神聖魔法が感じられる。あれが出している魔力に惹かれて幻想獣がついてきただけだ。
まあ10人は幻想獣よけの魔法を使用しているので、ここまで来れば、狩りの対象と認識した霞沙羅を襲うので、もう操る必要は無い。
かなり割り切っているけれど、考えようによれば効率的な魔工具だ。
それでもあまりに原始的で、どう考えてもカナタが絡んでいるとは考えられない。
「お前ら人の話しを聞けっ!」
顔を出したと思ったら、当の霞沙羅は横にいるカナタと話を始めて、自分たちの方を向いてくれないので、リーダのような軍人男はさすがに苛ついて大声を出した。
「少し前からお前らが来るのは解ってるって。いちいち騒ぐな」
「軍職員のデータベースで見たことのある顔がいるでやんすな。なるほど。今回の件で横須賀に集められた人間の中に、潜伏していた金星の虜が入っていたという事だっぺか?」
もしくは裏は知らないながらも、しばらくこの3人が横須賀で強化研修をすることを知ったのか。それはまあ後で尋問すればいい。
吉祥院が見覚えがある中で、この男が一番高い階級の曹長という程度。もっと高い階級の人間が指示約か何かでバックにいないかどうか、あとで調査する必要があるだろう。
「それで何だ? 要件だけは聞いておいてやる」
「お前達のおかげで我らマリネイラ様の使徒が集う多数の組織が崩壊の一途にある」
飯能の農家から得られたリストをたどり、警察による本格的な追跡が始まっている。
それによって、日本各地にいた金星の虜が続々と逮捕されているという話は聞いている。
「いずれ我々も追われる身となるだろう。だがそうなる前に、お前達3人だけは始末させて貰う」
そんな事を言っている最中も、反対方向から10人が姿を現した。全員銃や手持ち武器で武装している。
こちらも戦闘服だが、さすがに集った20人全員が軍人ではないだろう。
端から見ていた伽里奈にはどういう人達なのか解らないけれど、今回の作戦に呼ばれているメンバーだったとしたら、軍の中でもそれなりの手練れなのかもしれないが、果たしてどうだろうか。
ただまあ、霞沙羅達3人をどうこうするというには、あまりにも無理がある。
「あらアーちゃん、大変ね」
「オレらは手を出していいのか?」
「お、あいつら見たことも無いモノをもっているゾ」
「銃器っていうジャンルの武器なんだけど、音速でこんなくらいの小さな金属の塊が飛んでくるよ」
アシルステラ勢は見たことの無い、あちらには存在しない武器だ。
「おおすげえな、この世界にはそんなのがあるのか」
「持ってる姿は格好いいわね。舞台のネタで使えないかしら。やってみたいのよね異世界モノ」
「ボクらが石を投げた方がよっぽど威力が高いよ」
ルビィはさすがにそんな事は出来ないけれど、あの程度なら障壁を張れば完全に無効だ。
そんな彼らはどうしても霞沙羅達に恨みを晴らしたいようなので、狙われている3人は武器を手にして立ち上がる。
「わざわざ捕まりに来てくれるとはありがたいな」
「本気でワタシらとやる気でやんすか?」
「邪教徒もこれでまた減るな」
「あなた方、この状態で喧嘩を売るつもりですの?」
いきなり襲撃するのではなく、堂々と出てきたのは敵ながらかなり評価を高くしてもいい。名乗るというマナーは持っている。
「マリネイラも可哀想よね。これまで見てきたけど、別に邪神でも何でも無いのに、こんなのにすがりつかれちゃって」
これまで何度もこの手の輩と付き合ってきたアオイも、さすがに飽きてきている。
「人間のささやかな願いを叶えるのが彼女の性分なんですけどね。受験がどうとか、健康がどうとか、恋愛がどうとか、宝くじがどうとか。私がその立場なら粘着してくる社会不適合者の声など無視するところですわ」
「言ってやるなよ、連中は社会不適合者だと自覚してないんだからよ」
この暴言に金星の虜達の顔がみるみる赤くなっていった。
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