忘れていたあの事 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
星雫の剣が出現してから新宿周辺の観測は毎日行われており、基本は遠隔からの観測だけれど、いるかいないかはともかく、幻想獣からの攻撃にさらされないような高度からの航空機による
観測も日に4回と決められた。
「マリネイラの魔力は日に日に減ってきているでござるよ」
相変わらず近距離からの観測拠点は無いながらも、ある程度は把握が出来ている。
カナタが仕掛けた結界がマリネイラの魔力を消費しているというから、以前に比べても濃度だけでなく、高濃度の範囲も徐々に狭くなってきている。
「浄化じゃなくて消費するというのは、かなり効果的なんだな」
正常な空間に戻るまでには何十年とかかるだろうと言われていた旧23区エリアだけれど、少なくとも大田区や世田谷区に江戸川区といった外周部などはもう少し踏み込んだ調査や、出来るところから片付を早めようという動きもあると、浄化を担当している寺院庁の空地家から聞いている。
何年後の話だよ、と言いたくなるけれど、そこは軍人の領域ではない。
「結界がどの程度で破られるかあいつらは解っているんだろうが、こっちも注目しておくしかねえな」
元になっている魔力が減るということは、結界に供給する魔力が減るわけで、星堕の剣の抵抗力に負けるとそこで終わる。
それまでに準備を整えておき、一番いいのは自然な終了を待たずに、こちらから結界を切ってしまうことだ。それで一気に攻め込む。
「準備はどうなってるんだ?」
「カナタ氏からの魔工具の供給は終わったそうでやんす。今からそれを各部隊に分けていく作業があるで候」
吉祥院は関東側の人間だけあって、納品物のリストの情報も手に入れている。
それを見せて貰うと、よくこんなに作ったなという数になっている。
横浜は中華街近くの小さなビルを拠点としていたというが、そこと自宅を行ったり来たりして、せっせとビルにため込んでいたらしい。
それをトラックで運び出して、一旦は横須賀基地に保管しているそうだ。
「あのシールをせっせと作っていたのか」
印刷ではないだろうけれど、魔術の触媒となる専用の塗料を作り、転写用の魔術を使用しての作成作業だろうけれど、考えると地道すぎる。
「本気だったんだな」
「その意を汲んで、ギリギリまで準備をするしか無いざんすな」
* * *
「今日の放課後は道警の方で協力会社の研修会があるのよ」
伽里奈が1年A組の実習授業にかり出されている時、藤井から放課後はいないという話をしてきた。
今日は霞沙羅達の方は、カナタから提供された魔工具や魔装具を想定した作戦の人員配置の話があるそうだから、伽里奈としては学校の手伝いが出来る日。
一ノ瀬寺院と今林セキュリティーは、幻想獣の出現が落ち着いた今、警察が主催する研修会に参加するという話なのだ。
この研修会は一日限りでは無くて、数日にわたって予定が組まれているようで、道内の民間会社や宗教組織が警察との共同作戦を想定した研修をしているそうだ。
いつも参加の5人はまだ学生ではあるけれど、現場で支援をしている事もあって、一ノ瀬達は今日の夜に設定されたこの研修会に参加するので、期末テスト向けの自主練習には参加しないそうだ。
「何でも、新しい研修テキストが道警内で評判が良かったから、今後のために関係者も巻き込もうって事なんだって」
「あー、そうなんだー」
恐らく、以前に霞沙羅から提供された、元々は伽里奈が作った軍用のテキストのことだろう。
「吉祥院様の対マリネイラ魔法もあったし、いい流れよね」
「あの神聖魔法は現場で結構活躍していたね。今回は普通の魔術らしいけれど、配布されるテキストは必要なら会社の研修に使っていいらしい」
当然のように今林も話しに入ってきた。
軍がどこまでの内容の使用を許したのか解らないけれど、有効利用してくれる分には、基本テキストの作成者としては苦労した甲斐があるというモノ。
となれば、同じようなモノを魔法学院にも渡すべきだろうか。そういえばルビィはどこまで冒険者時代の知識と技術をまとめたのだろうか。書籍が置いてあるとことは見たけれど、学院にはあまり長く滞在しないので中身はまだ詳しく見ていない。
魔女戦争を最前線で戦い続けた人間に対して、国からもなにか期待されているから、一度その辺を確認するとしよう。
「次の火星の接近まではまだ1年半あるけど、それまで何があるか解らないからねー」
一部の人しか知らないけれど、現に今、旧23区で事件が起きているわけで、備えるのは金星だけではない。
「現場に出てるんだから、そういうのに参加する機会は生かさないと」
「何か収穫があるといいねー」
警察がそこまで人を集めてやるという事は、その内容には相当な自信があるのだろう。
今はやる気が出てきているから、これから学ぶ上で、目標とか足りない部分なんかが見えてくればいいと思う。
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