迎え撃つ準備を始めよう -10-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日もフィーネから、魔術の講義の終わりに足マッサージを頼まれた。
夕方前に一度入浴しているので。軽く半身浴だけをして来る、とフィーネは温泉に行き、伽里奈は明日の朝食の下ごしらえで厨房に降りた。
明日は自分の仲間達が日本に来ることはなく、伽里奈も普通の一日を過ごすことになる。
水瀬カナタ達の方は、相変わらず霞沙羅達に共通魔法と剣術を教え、バックアップをすることになっている純凪さん達も途中で合流する予定。
そうするとまたエナホを預かることになるので、この前食べたいと言っていた餃子にしよう。北九州系の鉄鍋餃子。一つ一つが小さいので、まだ口の小さなエナホでも食べやすいだろうし、円形に並べた見た目も面白い。
でもお酒を飲む人もいるので、何かの盛り合わせでもあった方がいいかもしれない。
「小僧、我が眠れるよう頼むぞ」
お風呂を終えてフィーネが出てきたので、一旦中断して、部屋の方に戻った。
ベッドに寝転がったフィーネの足を、ふくらはぎ辺りまで軽くマッサージをしてから、足裏は指で押す程度。
「ん、よいぞ、ん」
2年くらい前からずっとやっているけれど、正直、人間ではないからこの邪龍神様の足をマッサージするのに意味はあるのか気になるところだけれど。まあいつも、気持ちよさそうにしてはいるので、無駄ではないのだろう。
「ん、小僧、お主はどう思うておる?」
「どうって、どの件です?」
「世界の事と、我があの女どもを放っておいた事じゃ」
「とりあえず、ボクは自分のところの神様に一度騙されてますからねー。霞沙羅さんはそこまでいってないから怒ってるかもしれませんけど」
「あの女の事は?」
「人間のやる事ですから」
「悟りすぎであろう」
そう言ってフィーネは、伽里奈が足裏を軽くぐりぐりしていた右足で蹴ってきた。
「あいた」
「わ、我が悩んでおったというのに…、これでは、まるで馬鹿のようではないか」
早い話が霞沙羅はともかく、さすがに今回の件では伽里奈が怒っているのではないかと思っていた。
世界が一つであったという件は実際には実害はないけれど、水瀬カナタの件は友人が治める町を襲った相手で、フィーネは実は何をしているのか把握していたということ。
自分の世界というか星に帰ったことで、今まで以上に仲間と仲良くやっているくらい伽里奈にとっては大事なわけで、だったら教えてよ、と言われれば反論も出来ない。
それまでもあるし、あの襲撃事件から色々と甘えるような態度を取ってきたのに「知ってたでしょ!」と言われるのが怖かったのだ。未来を見れば簡単に解るのに、わざわざ見なかったのも面白い
「あのー、そういうことで怒る人間だったらエリアスなんか連れてきてませんよ。ボクの周りにいた人間を直接攻撃されてますからね」
「そうで、あったな…」
「ボクってどこかおかしいんですかねー」
理由があって人間に危害を加えた女神2人に「なんかかわいそう」という考えを抱くのはおかしいのだろうか。
蹴ってきた右足を掴んで、まだ足裏をぐりぐりやっているのもおかしいのだろうか。
「小僧のような馬鹿は初めてじゃ。神に同情などせんでよい。ん、少なくとも我のような本物の神にはな」
「そうなんですか?」
「に、人間ごときが」
「人間サイズになっているからっていうのもありますけど、寄っかかってくる人はほっとけませんよ。そういえば、この前ギャバン神が霞沙羅さんに、鎮魂の儀で死者との最後の挨拶を依頼したのも、ちょっとくらいは何か感じてるんでしょうね」
本人がやればいいのに、とは思うけれど、あの形式にしたのは神のプライドがあるのかもしれないと思っている。ある日突然、全人間相手にやるよりも、イベントで一部の有力者相手にやる方が有り難みがあるような気もするけれど。
「もうこの辺でいいでしょうね」
ふくらはぎマッサージも両足裏マッサージもやったので、そろそろいいだろうと、伽里奈はフィーネの足から手を離した。
「だ、ダメじゃ…」
「なんか足と会話してるみたいで嫌ですねー。ラーナンの空でも背中と会話してるみたいだし」
伽里奈はひょいと横に移動して、フィーネの頭のある近くにちょっと腰掛けた。
「この館にいる時くらいは、同じ形をしている生き物として話をしましょうよ。まあ時々冗談で女神様とか言っちゃいますけどねー」
ふっと頭を撫でてあげると一瞬驚いたような顔をして、フィーネはすぐに安心したような表情になった。
「な、生意気な小僧よ」
「ボクの手を頬に持っていっている人が言う台詞じゃないですねー」
「ふん、知らぬわ」
しばらく頬でスリスリしていたけれど、手を離したので、また頭を撫でていると、しばらくしてフィーネは寝てしまった。
伽里奈に嫌われそうだった事にビクビクしていたけれど、どこまでいっても通常営業だったので、安心したようだ。
この女神様も色々あるのだなと思っているけれど、人の思考の範疇を超越した態度を取られるよりはかわいげがある。
眠りについたのを確認してからそーっと部屋を出ると、これは解っていたけれど廊下でエリアスが待っていた。
「はいはい、部屋に行くよー」
「もう」
以前にフィーネのフォローはしたいと言いはしたけれど、あんまり必要以上に伽里奈がフォローをしているのを感じると、やっぱりちょっと微妙な気分になるので見に来てしまった。伽里奈は自分のモノだ。
「エリアス、悪いけど備えておいてねー。あの人はまだ何も言わないけど、また霞沙羅さんの話とは別で何か起きるよ」
「ちょっと」
「ここじゃあボクは背が低くて格好つかないからさー」
エリアスをくるっと回れ右させて、2階から降りる。
伽里奈はエリアスの口元くらいまでしか身長がないから、立ったまま後ろから抱いて「ボクの一番大切なのはエリアスじゃないか」というのが出来ない。
「なんだかんだでエリアスにもこっちで大事なモノが出来てるし、その一部分はボクも大事にしてるし、この星ではそういうのを守らないとね」
「何かありそう?」
「正体はわかんないねー。ただフィーネさんは今回の霞沙羅さんにボクを関わらせないように誘導してる感じがするからさー。今度はどんな服で行く?」
「あなたが良いと言っていた魔女の服で行くわよ」
まあ早い話が前回と同じ。あんまりいい思い出のない服でも愛しい男に褒められれば、何度でも着たくなるというもの。
「それはともかく、私も足が疲れたわ。今日はブーツを長く履いていたからかしら」
「はーい、わかりました。寝る前にマッサージしまーす」
「念入りに頼むわよ」
フィーネに結構サービスしたみたいだから、自分にはそれ以上やってくれるのは当然だ。
実際は別に足は疲れてはいないけれど、ちょっとイチャイチャしながら話をして寝よう。
「あ、そうだ。今着ちゃおうよー。あの服はスリットが深くて脚が出てるじゃん」
「ちょ、ちょっと」
でもたまにはそんな夜があってもいい。伽里奈に黒ドレス姿をたっぷり見られちゃったら、もっと黒が好きになるだろう。
ついでにちょっと調子に乗ったこの英雄を言葉でいじめちゃったりしちゃおうか。
2人は伽里奈の寝室に入っていった。
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