迎え撃つ準備を始めよう -9-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
すぐに榊の横に行って近接戦闘をしようとする癖を封印してのサポートは、霞沙羅にはなかなか馴染まなくて、途中で相手がヒルダになっても、思ったより上手くは立ち回れなかった。
それでも確かに、防御を一部負担することで吉祥院は攻撃魔法を打ちやすくなっているし、榊への防御は剣士でもある霞沙羅の方が良いという感覚も掴んだ。
「ボクもいつもサポートしてるわけじゃないですからねー。場合によりけりですね」
それでも前にはライアの空中移動のサポートをするような事もやっているので、今更になって伽里奈から見習うべき事は多い。
とりあえずの目標は、状況変化に向けての短時間のサポートが出来るようにすることだろう。
伽里奈も言っているとおり場合にもよるけれど、吉祥院の強烈な一撃が欲しい時にやるとか、榊に攻撃に専念して欲しいタイミングとか、自分が譲るべき時を見極めなければならない。
自分は軍人だから、階級的に本来は前にいてはいけないわけで、前で戦っている自分の部下達のサポートをすることも考慮する必要がある。
もしくは、現場に出て行く部下達にこの経験をいかした魔装具を持たせるかとか。
本格的にやるのはこの戦いでは無理だけれど、組織の人間として、今後は人員を生かす事を考えていくのがいいだろう。
* * *
折角なので横須賀の町を歩いてカレーを食べに行こうという事になった。
今なら日本が解っている人間と女神が多くいるので、解っていない5人が戸惑ったとしてもフォローが出来る。
出会ってまだ半年も経っていないし、霞沙羅達がアシルステラに行っているのと同様に、たまには日本に来ることもあるかもしれないので、とりあえずある程度は都会で、そこまで都会ではなく、そこまで観光地でもない。環境的に人が多くてゴミゴミした横浜よりは歩きやすいし、坂道の多い小樽よりは入門にいいだろう。
服もちゃんと、日本人らしいモノに着替えて貰っている。
歩くといっても演習場からお店までは30分程度。周辺が森から段々と町になっていくと、車の姿も出始めて、「あれは何だ」となるけれど、こういう発見も楽しいモノ。
こちらに日本人が少ないけれど、アシルステラ勢は外国人観光客にも見えるので、ちょっと騒いでいても、服装さえどうにかしておけば町に溶け込んでしまうものである。
「すげえ世界だな」
馬もついていない、動力がよく解らない自動車が普通に道をバンバン走っているのはやはり衝撃だ。
「ワタシにとっては飛行船の方が驚きでやんすが」
「そうなんですカ?」
アシルステラに存在する飛行船は車や旅客機ほどの数はないけれど、見てしまうとインパクトはある。
一生を片田舎で住んでいるような人は、すぐ近くで見るのは人生で一度か二度程度だろうけれど、アシルステラに住む人は、飛行船がある、という事は当たり前。
空を見上げてそこにいれば、恐れることも無く、手を振るくらいはする。
「価値観が違うのねえ」
ライアなんかが見ても、ガラスで壁を代用している感じの、太陽光を反射しているようなキラキラなオフィスビルなんかを見て驚いているけれど、霞沙羅的には石造りの家が並ぶおしゃれな町、芸術都市ベルメーンの方が驚きだ。
通りを行く車やバスを見送りながら、横須賀の町を歩き、目的のカレー屋さんまでたどり着いた。
ここは横須賀勤務時代の霞沙羅がたまに行っていたお店なので、電話をかけて座席をとっておいて貰った。
もうランチの時間は終わっていてお店の中にお客さんは少ないからのびのび過ごせる。
「お、これはこれは」
久しぶりに英雄3人が揃って来店なので、マスターのおじさんは喜んでいた。戦後しばらくは霞沙羅も横須賀にいたけれど、小樽に行ってからは3人が揃うのは、テレビ等でしか見ていない。
横須賀勤務が続いている榊はずっと使っているそうだけれど、霞沙羅がこの店に来ることもほぼ無くなった。
「お知り合いの方で?」
「異国の友人でありんす」
「それはそれは。歓迎しますよ」
「店の中は変わってねえな」
カレー屋だけれど、お店の内装は文明開化な雰囲気。建物自体はそんなに古い建物ではないけれど、一応開業から40年程度はあったりする。それもあってメニューには内装に合わないハンバーガーもある。
「セットのを頼もうぜ」
名物の海軍カレーとハンバーガーのセット。それとドリンク。折角同一店内にあるのだから、あまり来る機会の無いアシルステラ勢は名物を二つ食べた方がいい。
「この町はカレー屋さんが普通にあるのね」
モートレルでカレーを出すお店ははまだ3軒だけ。それもまだ数量限定という状況。まあラシーン大陸ではそれでもすごいわけだけれど、この町はここまで来る途中にも何店舗もあった。
「カレーは別の国から伝わった食べ物でな、ここのは軍のレシピがウチの国の軍に伝わって、そのレシピが市中に流れていって町がこうなった」
「アリシア君も似たような感じでやっているでありんすな」
「ヒーちゃんのところだとお金を出してくれそうだったから」
「私は美味しいモノが食べられるならお金を出すわよ」
ついでに商売になるのならもっといい。
「こっちでカレーを出している宗教施設はあるの?」
アリシアがカレーを巡礼者用に伝えたので、こっちではそういう事をしているのだろうとイリーナは思っているけれど
「無い」
「いや、今時の宿坊なら出すところがあるとは聞いているぞ」
「宿坊ていうのは?」
「あのー、巡礼者向けの、教会とか神殿がやっている宿だよ。お金は取るけど、安めで、一応、信者としての受け入れだから、朝の礼拝とか施設のお掃除とかを求められるけど」
「こっちでも似たようなことはやっているのね」
「どっちかというと観光として宗教を体験する性質だから、結構場所は限定されているけどな」
「宗教と観光。巡礼じゃなくて?」
「一つの島に八十以上ある施設を回る、とか、長い歴史で拡張されてきた宗教の本拠地をじっくり見るとか、そういう事だな」
「そんなものが」
「まあこっちの世界は割と簡単に長距離移動ができるから。さっきから外を走ってる車とかねー。だからあんまりイリーナの参考にならないかな」
やがて一枚のプレートでカレーライスとハンバーガーが運ばれてきた。カレーはオーソドックスなポークカレーにカツが乗っている。
「おー、これすげえなあ」
ハンバーガーも一緒に乗っているので見た目はなかなかボリューミー。
「このパンはずっと前に食べたことがあるようナ」
「アンナマリーが食べていたような」
「ハンバーグをパンを挟んだ食べ物だから」
「ハンバーグって何?」
ライアは食べていなかった。
「あの、また今度持ってくけど、主に牛肉のミンチを軽く味をつけて固めて、焼いた食べ物だよ」
「ここのお店のは100%ビーフでありんす」
だから噛んだ時に溢れてくる肉汁がすごい。
「おい、オレのところも頼むぞ」
「アリシアはまた忙しくなりそうね」
「エリアスー、また移動を頼むよー」
カレーは横須賀名物の庶民的な味だったけれど、アリシア流とは違う味で、ハンバーガーと一緒に、アシルステラではどうするかを話しながら、美味しく食事をした。
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