迎え撃つ準備を始めよう -7-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ここまで来てああだこうだと文句を垂れる気も無いし、正直あいつらが大事なことを隠してやがった方が腹が立っているというのが前提の話だぜ」
今日もカナタ達による共通魔法の講義が行われている。
猶予は二週間程度しかないけれど、カナタから見てもさすがと言うべき速度で話が進んでいく。
複数の星の魔術を習得しているだけあって、霞沙羅も吉祥院も覚えが早い。
共通魔法は実用レベルで使えなくてもいいから、これなら戦いに間に合うだろう。
「あら、どういう話ですの?」
「お前ら、あのソウヤとかいう男を寺院庁に潜り込ませてただろ?」
「忍びですからねえ、潜入も変装も得意ですのよ。それで適切な人間を選んで、私のところにお越しいただいて、本人の記憶をコピーした魔工具を作成して、すり替わっていたのですよ」
モートレル襲撃の時に劇団員のマリナに持たせた剣と同じで、コピーした記憶を利用する事でソウヤにその人物として振る舞って貰い、5体に分割して秘密裏に封印していた幻想獣を探し出した。
その情報を「バングル」に流して、彼らはパーツの奪取を行った。
「何がしたかったんだ?」
「単純に幻想獣が邪魔なんですよ。今回のこの事件が公になった際に、余所で完成態とやらに暴れられては困りますからね」
「それと人以外の存在との融合と分離の研究もあったじゃない?」
アオイもまた助手として関わっている。
「向こうもありがたいことに、強くなれるなら、と手を上げましたからねえ」
幻想獣との融合…、稲葉清美とかいうのがいたなあと、霞沙羅と吉祥院は思い出した。
そこそこの魔術師が、成長態の力を得たはずなのに、自分たち日本の英雄どころか、ろくに装備も持っていない伽里奈にすら手も足も出なかったわけだけれど。
結局外見を戻すことは出来ても、人間と幻想獣を分離することは出来ないと解った実験となった。邪教徒である稲葉清美は人間に戻る気は無かったようだから、失敗しても問題は無いけれど。
「鐘のヤツにも関わっているだろ」
「鐘の幻想獣は、いい封印のやり方があれば使おうかと思ったんだっけ?」
星堕の剣を封印して持って帰ってしまおうとも考えていたけれど、さすがに考えが壮大すぎた。
「霞沙羅さんは私が大学まで見に行ったのを記憶していますの?」
「ああ、今なら、あそこに出てきたのがお前なんだろうと解るぜ」
いきなり現れて妙なことをつぶやいて消えた謎の女性。
直接本人に出会って、あれが水瀬カナタだったんだという事はもう霞沙羅の中では確定している。
「実物を見に行って、同じモノを作ろうにも少々時間がかかりそうなのが解って、やめたのですわ。使えそうならサンプルで銅をちょっと貰おうと思ったのですが」
発想は悪くない魔工具ではあった。ただ、作るまでに時間がかかるのでやめた。
「結局、あれを盗もうとした人物は何がしたかったのでござんす?」
「ミスター某とか呼ばれていた男は金星の虜では無くて、単純にいわく付きの素材で作られた武器をコレクションしたかっただけですの。それでかつて鐘を作った一族の末裔が鍛冶をやっているので、素材用の銅として手渡すつもりだったと。何でも、幻想獣の力を武器として利用するために封印したそうで」
「そんなのがいたのか。どこにいる?」
「もう用はないですからね、長野ですよ。後で正しい場所を伝えましょう。でも結局あのジイさまの手には届きませんでしたから何も出来ませんでしたよ」
「逮捕とかそういう話じゃなくてだな、そういう人物がいるという事はデータに残しておいた方がいいだろう?」
どういう人物か解らないけれど、今後どんな事件に関わってくるか解らないから、その存在は記録として残しておいた方がいい。
「それにしても完成態の幻想獣は旧23区内にそんなにいるもんでやんすか?」
先日もマリネイラの魔力溜まりである新宿でいきなり完成態が現れた。やはり、軍がかつて調査に行かせた人間は幻想獣にやられたのだろう。
「今回の仕掛けを作る際に、何日もかけて新宿周辺をうろつきましたが、私たちで10はくだらない数を燃やしましたよ」
「あそこをうろついて無事というのがな」
多分3人で作業をしたのだろう。それで完成態に何度も出会っているというのに、ちゃんと作業を終えているのが恐ろしい。
「観測はしているでやんすが、そういう戦闘の兆候は無かったでありんすよ。マリネイラの魔力が邪魔をしているのもあるざんすが」
「共通魔法ですからあなた方の設備では観測できないんですよ。千年世さん、あなた、私が使用した火の魔法を目の前で見てますよね?」
「あの終わるまで燃やすヤツでありんすな」
すすきのでワニを燃やした魔術だ。
「目立たないようにあれの共通魔法版で、こんがりローストしましたわ」
「私も何体か斬ってるし、バレにくいようにやっているのよ」
「お前ら、色々やってやがったんだな」
旧23区内を堂々とうろついていたというのが驚きだけれど、よくもまあこれまで他の世界、というか他の星で研究活動をしてきたものである。
「あなた方も結構執念深く追ってきたモノですわね。それも2つの星で」
「私らの行動範囲内にお前らがちょっかいをかけるからだろ」
「まあ、ワタシとしては色々と魔術の勉強ができたものでありんすよ。ある意味感謝しているダス」
「お前はそう言うだろうな」
単に研究を、というよりも明確なテーマや対象があった方が目的がはっきりしてやる気も出るというモノ。
まあこの辺はカナタがやって来たことだし、実際に伽里奈も電気の無いアシルステラに家電製品を再現しようとしたりしているから、きっかけというのは大事な事は解る。
ただ迷惑だけはかけないで欲しい。
「座学だけではつまらないので、この後に実際にやってみましょう」
「いい提案でやんすな」
実際の戦場では使い慣れた地球の魔法がいい。けれど共通魔法がどういう物なのかを体験して知っておくのも必要だ。
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