迎え撃つ準備を始めよう -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日も純凪夫婦が日本に来ていたけれど、明日は要請された資料作りをするので来ないようだ。
霞沙羅達とやどりぎ館に帰ってきて、夕飯を食べて、温泉に入ったらヤマノワタイに帰って行った。
「共通魔法の勉強ってどんな感じだったんです?」
「概念から始まって、初級までの座学だったよ。意外ときっちり準備を整えてやってくれたな。まあ後で復習して明日に備えるかな」
テキストの出来もかなり良くて、話しを聞くと共通魔法という存在にたどり着いたのはそんなに前というわけでは無いというけれど、それだけに水瀬カナタの能力の高さをうかがわせるモノだった。
弟子なのか助手なのかという立場の船形アオイに地球やアシルステラの魔術を習得させてきているので、その時に他の魔法を教える事のコツを掴んだのかもしれない。
教え方には吉祥院が感心していたので、これが終わった後には大学生や軍人教育などに反映したいとは思える。
「榊さん的には?」
「忍びという、俺の苦手なタイプのヤツだったよ。まあありがたいと言えばありがたい」
全くダメというわけではなく、やはり自分と同格くらいの腕前の持ち主でなければ、忍びの体術を継承する人間と戦った経験はあって、別に苦戦するようなことはなかった。
ただやはり、ライアとか今回の沼倉ソウヤのような強者となると話は変わってくる。
ソウヤはライアと違って魔術を使えないけれど、優れた運動性はとても厄介だ。それだけに学ぶべき事は多い。
「何も無駄なことは無いな」
「ボクの方でも何か手伝えることがあれば良いんですけどねー」
今回の敵はさすがに伽里奈では知識が無いので、幻想獣のように手伝うことは無い。
この辺は悔しいけれど、ヤマノワタイの経験者に任せるのが一番だ。
「まあ無い事は無いんだよな」
* * *
場所は横須賀にある軍の演習場。少し前に4人でライア対策を行った場所だ。
「こういうのってどうなのかしら」
住民のお手伝いはやどりぎ館の管理人の仕事ではあるけれど、軍施設での練習にとうとうエリアスまで出てきた。
事態が事態だけに、前線に出て行かざるを得ない霞沙羅達3人だから、軍もその準備に関してはかなりの自由を与えてくれてこの設備を優先で使わせてくれた。
そしてエリアスが運んできたのは伽里奈達6人の元冒険者と、今はやどりぎ館にいるクラウディア。
カナタ達は確かに強いけれど、星堕の剣討伐作戦のために組織された一般の兵達のためにも、知識を与える演習を行わなければならないから、ずっと霞沙羅達についているわけではない。
その空き時間を使って、気の合う伽里奈達に練習を頼んだら、「先生のためだし」とアシルステラ在住組も手を貸してくれたので、今回この人数なのだ。
「ここが地球ってところか」
演習所なので、ここは周りを森に囲まれていて横須賀の町は見えないけれど、ハルキス達からすると木の形が違うし、やっぱり少し行けば町なので空気も違う。
「後で少し町を見せてあげるわ」
「ここは雪が全然無いのね」
ヒルダもやどりぎ館から見える雪の印象がありすぎて、日本を雪国のようにしか思っていない。
「ここは館があるところからずっと南の方だから、気候が違うんだよー。雪なんか年に何回かしか降らないよ」
「私だけはキッショウインさんの家に行ったから、わかるゾ」
風情のある鎌倉の町だけれど、気候の違いはルビィも感じている。同じ季節でありながら、神奈川には北海道のような肌を刺すような寒さは無い。
「本当にエリアスさんがいれば世界の壁は大丈夫なの?」
世界というか星が違うのでイリーナは神聖魔法が使えないけれど、アシルステラと行き来が出来るやどりぎ館と、今のエリアスは繋がるような処理をしている。それもあってエリアスを中心にしたかなりの範囲がアシルステラの環境を持っていると言っていた。これでイリーナの祈りはオリエンスに届く。
「試しになんか簡単なの撃ってみたら?」
一応、伽里奈の方では事前に検証はしているから大丈夫だ。
「そうね」
だったらとイリーナは軽く解毒の神聖魔法を使用したら、無事に発動した。
「あらすごいじゃない。なら私も魔法が使えるって事?」
「大丈夫よ」
ライアも軽く重力の魔法を使用したら、こちらも無事に発動した。これならいつもの立体移動も出来る。
「エリアスありがとうね」
「私は知らなかったけどやり方を聞いたのよ」
フィーネからやり方を聞いたのだけれど、フィーネが神だとは教えていないので、誰からとは口にしなかった。
こう言うと、エリアスはアーシェルから教えて貰ったように聞こえるだろう
それにしてもエリアスがここまでやってくれるとは思わなかった。最近は館の住民のために積極的に動いてくれるようになったので、伽里奈としても嬉しく思う。
「こっちはなんかヤバいことになってるんだってな。なら今回は準備だけでも手伝わせて貰うぜ」
伽里奈達もヘルプで戦線に出て行くわけではなくて、練習に付き合うというだけだけれど、この仕事は伽里奈達じゃないと出来ない。
霞沙羅達3人が思う存分力を使える相手が日本にはいないから、多分これは最適解だ。
それにしてもよく全員が集まったモノだ。勿論全員が一日中というわけにはいかないようだけれど、声をかけてみてよかった。
いつの間にか強さというカテゴリーで、住む場所も違っている人の縁が繋がっていたという感じがする。
「そんなに時間が無い人もいるから、早く始めましょー」
事業者のライアは芸術学校で講義の仕事があるようで、数時間しかいる事が出来ない。
「じゃあまず私から頼むぜ」
霞沙羅と榊はライアを苦手としているから、帰ってしまう前に相手をして貰わないといけない。
ライアのような動きをする敵が出るかどうかは解らないけれど、激しく立体的な動きをして来る相手に対応できるようにして、何かがあっても焦らない感覚を身につけておいて損は無い。
逆に単純に強いだけのハルキスやヒルダはいつでもいい。
「榊は先生が終わるまでオレとやろうぜ」
「ああ」
広い演習所とはいえ、何せこのメンバーだ。かなり大きな町である横須賀という周辺への影響も考えて、いつもの通りエリアスに結界を作って貰う。
「イリーナはこっちでオリエンス神の力がどこまで使えるか試そうよ」
エリアスが大丈夫だとは言っているけれど、別の日も来てくれるようなので、ちゃんと確認した方がいい。あと自分も知りたい。
「そうなると私が余りそうね」
吉祥院はルビィとクラウディアにゴーレムを多数作って貰って、その対処をしたいそうだから、ヒルダが余ってしまう。
「横から霞沙羅さんにアドバイスでもしてみる? ヒーちゃんはライアの対処方法が解ってるでしょ」
「まあそうね」
戦闘スタイルの違いはあっても、さすがに一緒に旅をしていたワケで、お互いがどういう動きをするのか解っているので、ヒルダはライアに対して翻弄されるような事は無い。どういう心構えでいればいいのか、指導して欲しい。
「まあなんかここに、吉祥院さんが用意してくれた食べ物があるから」
休憩用に、軍から借りたテントを一個建てて、机と椅子を並べて、その上にはお茶の入ったポットにジュースやお菓子、パンや駅弁やフライドチキンなんかが置かれている。
適当な頃合いに空霜が補充もしてくれるらしい。
「食べながらやったら?」
「あら、なかなか気が利くじゃない」
「そこのあの、ビニールって言う透明の袋に入ってるのを食べる時は、開け方を教えるから言ってねー」
「じゃあさっそくこの、なんか鳥みたいな形の大きなクッキーを」
「鳩のサブレは、ここのギザギザをこんな感じに切って出してね。イリーナも何か食べる?」
「このくるくる回ってる貝みたいなパンは?」
「チョココロネっていう、チョコが入ったパンだよ」
チョコという響きに反応して、イリーナは迷うことなくチョココロネを食べ始めた。
「アーちゃん、こっちの小さな鳥みたいな食べ物は?」
「鳥が好きだねー。ひよこのおまんじゅうという、一種の焼き菓子だけど、霞沙羅さんの事見てあげてね」
ヒルダはお菓子を幾つか適当にトレーに乗せて、霞沙羅とライアの近くに行ってくれた。
二人はもう始めてしまっているけれど、ヒルダはお菓子を食べながらでもライアの動きをきっちりと捉えている。
エリアスはテントのところにある椅子に座って、船の形をした横浜銘菓を食べ始めた。
結界を張る役目だけれど、別に見る必要は無い。まがりなりにも女神だから、この程度の狭い範囲内で何が起きているかは把握しているし、あの程度で結界が壊れるわけは無い。
伽里奈は、こちらも相手がいないイリーナと簡単に運動を始めた。イリーナも『気』をやっているので、軽くちょっと体を動かしながら神聖魔法の具合を確かめたい。
今は霞沙羅達から『気』を教わることは出来ないので、手が空いている人にはちょっと時間を使っていこう。
「なんだろう、この状態」
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